第17話 ふたりきりデートと、凛の新しい夢
冬の始まり。
息が白くなる朝、
天宮さんからLINEが届いた。
【天宮さん】
「今日はふたりで出かけない?
久しぶりにデートしたいな」
その一文だけで、
胸がじんわり温かくなる。
【俺】
「いいよ。どこ行きたい?」
【天宮さん】
「祐くんとなら、どこでも楽しい。
でも……今日は“ザ・デート”って感じの場所がいいな」
【俺】
「OK!じゃあ、駅前の新しいイルミネーション見に行かない?」
【天宮さん】
「行きたい!
じゃあ、お昼に待ち合わせしよ!」
そんなやりとりをしてから、
俺は久しぶりの“ふたりきり”にちょっとだけ緊張しながら、
新しいコートを羽織って家を出た。
◇ ◇ ◇
駅前は土曜日らしく賑やかで、
イルミネーションの飾りつけがキラキラと光っている。
天宮さんは、
淡いピンクのマフラーと白いコート。
どこか大人っぽくなった気がして、
思わず見とれてしまった。
「待った?」
「ううん、今来たところ」
定番の会話が、今日はやけに嬉しい。
「どこ行こうか?」
「祐くんが決めて」
俺は少し考えて、
まずカフェで温かいココアを飲もう、と提案した。
カフェの窓際、
ふたりだけの時間。
「ねえ、祐くん」
天宮さんがふいに声を落とす。
「最近、凛ちゃんが“自分の夢を考えたい”って言ってたでしょ?
なんか、ちょっとだけ寂しいなって思うときあるの」
「どうして?」
「だって、前まで三人一緒だったのに、
これから少しずつ離れていくのかなって……」
俺はマグカップを見つめながら考える。
「でもさ、離れても、友達は友達だろ?
俺たち、もうそう簡単にバラバラにはならないって思う」
「うん……祐くんがそう言ってくれると、なんか安心する」
ほんのり笑って、
天宮さんがそっと俺の手に自分の手を重ねてきた。
窓の外の光が、
その指先をやさしく照らしていた。
◇ ◇ ◇
カフェを出て、
ふたりで駅前のイルミネーションストリートへ。
夕方の光が落ちると同時に、
一斉にカラフルなライトが点灯する。
「すごいね……」
「キレイだな」
天宮さんは無邪気に光を見上げて、
「こんなデート、憧れてたんだ」とつぶやく。
「本当はもっと早く、祐くんと来たかったな」
「俺も」
寒さも忘れて、ふたりきりの世界に入り込んでいく。
◇ ◇ ◇
そのころ、
別の場所では凛が駅のベンチで、ひとりノートを開いていた。
「夢か……私も、何か新しいこと始めたいな」
ページには「やりたいことリスト」と大きく書かれている。
「澪ちゃんも、祐くんも、応援したい。
でも、私も私の道を見つけてみよう」
凛の瞳は、どこか決意に満ちていた。
◇ ◇ ◇
イルミネーションの通りを歩きながら、
天宮さんはふいに立ち止まった。
「祐くん、手……つないでもいい?」
「うん」
そっと差し出された手を、
ぎゅっと握り返す。
指先がひんやりしていて、でもすぐに温もりが伝わってくる。
「昔は、こんな風に人前で手をつなぐなんて考えられなかったよね」
「だな。でも、今は平気だな。不思議だけど」
「祐くんとなら、どんな場所でも“私らしく”いられる。
……ありがとう」
その言葉が、胸の奥にそっと落ちてきた。
通りの端、クリスマスマーケットの屋台が並ぶ。
天宮さんは興味津々で、可愛い雑貨やホットチョコを選ぶ。
俺も小さなガラス細工の星を見つけて、
「これ、天宮さんに」
とそっと手渡す。
「え、いいの? ありがとう!」
彼女は嬉しそうに小さな星をポケットにしまう。
「ねえ、祐くん。
この前まで、私たちずっと“三人一緒”が当たり前だったけど、
最近はこうしてふたりの時間もすごく特別に感じる」
「俺も、天宮さんとふたりでいると、前より素直になれる気がする」
小さくうなずいた彼女が、
ふいに真剣な表情で言った。
「祐くん。私、これからも祐くんの隣にいたい。
でも、凛ちゃんみたいに“自分のやりたいこと”を探すのも、ちょっと憧れる」
「天宮さんがやってみたいこと、何でも応援するよ」
「……ありがとう。
いつか、ちゃんと自分の夢も祐くんに話せたらいいな」
温かな屋台の灯りが、
ふたりの影をひとつに重ねていた。
◇ ◇ ◇
その夜、
凛は自分の部屋で「やりたいことリスト」を書き続けていた。
「やっぱり私、誰かを応援するのが好き。
でも、今度は自分が何かを“始める側”になってみたい」
スマホを手に取ると、
グループLINEにメッセージを送った。
【凛】
「今度、ふたりに相談したいことがあるんだ!
ちょっと大きなチャレンジになるかもしれないけど、聞いてくれる?」
すぐに【天宮さん】と【俺】から「もちろん!」と返事が来る。
凛は少しだけ不安そうに、でも新しい自分に期待する気持ちをかみしめていた。
◇ ◇ ◇
夜遅く、ベッドの中でスマホを見つめる。
【天宮さん】
「今日はすごく幸せだった。
祐くんがそばにいると、何でもできる気がするよ。
ありがとう」
【俺】
「俺も。これからも、いろんな景色を一緒に見よう」
画面の向こうでつながる心の距離は、
今日一日で確かに近くなっていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
いつもの駅前に集まった三人。
凛は少し緊張した面持ちで言った。
「私ね、演劇部に入ってみようと思うの。
自分で舞台に立って、誰かに元気を届ける側になりたい」
天宮さんも俺も、
驚きながらもすぐに笑顔で「応援する!」と答える。
「ありがと! ふたりがいてくれれば、なんでも頑張れる気がする!」
新しい夢、新しい関係。
三人の歩幅は、また少しだけ大人に近づいていく。
冬の空は澄みきって高く、
それぞれの“好き”が、またひとつ、形になろうとしていた。