第12話 初めての嫉妬
文化祭の翌週、学校はいつもより賑やかだった。
「水瀬さん、こっちもお願い!」
「凛ちゃん、さすが!」
転校してきてまだ数日なのに、
凛はもうクラスの中心になっていた。
「祐くん、今日委員会一緒だって!」
「そうなんだ。よろしくね」
「うん、楽しみ!」
笑顔で手を振る凛に、
教室の女子も男子もみんな惹かれていく。
「水瀬さん、明るくて可愛いよね」
「天宮さんとはまたタイプが違うよな」
そんな声がちらほら聞こえてくる。
俺は、なんだかそわそわしながら、
自分の机でプリントをまとめていた。
「祐くん、今日帰り一緒にいい?」
振り向くと、天宮さんが少しだけ不安そうに立っている。
「うん、もちろん」
そのとき、凛がふらっとやって来て、
「祐くん、委員会の後、教室で待ってて!一緒に帰ろう!」
「え、あ、うん……」
天宮さんと目が合う。
ふたりの間の空気が、ほんの少しだけピリッとする。
◇ ◇ ◇
委員会の後、教室に戻ると、
凛とふたりきりになった。
「祐くん、こっち来て!」
「え?」
「ほら、今度の体育祭の班分け決めてるんだけど、
澪と祐くん、同じ班がいいと思うんだよね~」
「いや、俺はどこでも……」
「ダメ!ふたりで一緒の方が、絶対楽しいもん!」
その無邪気さに、つい笑ってしまう。
そこに、天宮さんが戻ってきた。
「凛ちゃん、何の話?」
「体育祭の班分け! 澪も祐くんと同じがいいよね?」
「う、うん……」
天宮さんの声が小さくなる。
凛はまるで気づかない様子で
「やっぱ二人仲いいね~」と微笑んだ。
◇ ◇ ◇
放課後、三人で下校することになった。
途中、クラスの男子が冷やかしてきた。
「おーい田所! ハーレムじゃん!」
「天宮さんも水瀬さんも彼氏かばいすぎだろ!」
凛がきょとんとした顔で
「違うよ!私はふたりが一緒にいるのが一番好きなの!」
……それが、教室でちょっとした爆弾発言となって広まった。
天宮さんは苦笑い。
俺はなぜか、ほんのり心がざわついていた。
◇ ◇ ◇
帰り道、凛とは駅で別れることになった。
「じゃ、また明日ねー!」
「うん、気をつけて帰ってね」
凛が見えなくなると、
天宮さんは少し沈んだ顔で黙り込んだ。
「……どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「……本当に?」
「祐くんさ、凛ちゃんのこと、どう思ってる?」
「え?」
「すごく明るくて、すぐみんなと仲良くなっちゃうでしょ。
私、なんだか置いていかれそうな気がして……」
その声は、普段の天宮さんよりずっと小さかった。
「そんなことないよ。
天宮さんは、俺の中でいちばん大事だから」
「ほんと?」
「ほんと」
立ち止まった彼女の肩に、そっと手を添える。
「俺は、天宮さんがいてくれるから毎日が楽しいんだ」
天宮さんはしばらく黙っていたが、
やがて小さく微笑んだ。
「ありがと。
……私、祐くんのこと、好きだから。
凛ちゃんがどうしても眩しく見えて、ちょっとだけ不安になった」
「俺も、天宮さんが好きだよ」
まっすぐ見つめてそう言うと、
天宮さんは照れたようにうつむいた。
◇ ◇ ◇
夜、スマホにLINEが届いた。
【天宮さん】
「今日はちょっと弱いところ見せちゃってごめん。
でも、ちゃんと祐くんのこと信じてる。
明日も一緒にいてくれる?」
俺はすぐに返す。
「むしろ、もっと本音言ってほしい。
俺も天宮さんが大事だし、これからもずっと一緒にいたいよ」
しばらくして、
【天宮さん】
「うん、ありがとう。大好きだよ」
画面を見つめて、
胸の奥がじんわり温かくなる。
新しい仲間が増えて、少し不安もあったけど――
それでもやっぱり、俺たちはお互いを想い合っている。
そんな確信を、静かな夜に噛みしめた。
◇ ◇ ◇
文化祭が終わり、季節が少しずつ秋に向かっていく。
青春と恋と、友情の物語は、まだまだ続いていく――