表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

第11話 転校生と波乱の文化祭

文化祭前日。

教室は最後の飾り付けと準備で大騒ぎだった。


「よーし、これで全部終わりだね!」


天宮さんの声に、みんなが拍手する。

今年の3年A組は、準備から本番まで団結力がすごかった。


そのとき、ガラリと教室のドアが開く。


「失礼しまーす! えーと、転入生の水瀬凛です。よろしくお願いします!」


明るくて大きな声、ショートカットが似合う少女が元気に教室に入ってきた。


「えっ、今日!?」

「転校生、今!?」


先生も苦笑しながら、「明日からだけど、事前にクラスの雰囲気を見てもらいたくてね」と説明する。


「みんな、仲良くしてあげてくれよー!」


「……あれ、澪!?」


凛が目を丸くする。


「え、凛ちゃん!?」


天宮さんも同じくらい驚いた顔で、教卓の前まで駆け寄った。


「久しぶり~! まさか同じクラスになるなんて!」


二人はそのまま小さな声で何やら話し込み始めた。

まわりは完全に取り残されている。


「……天宮さんの知り合い?」

「え、まさか元カノ!?」

「田所、ピンチ……?」


俺も何が起きているのかわからず、ただ様子を見ていた。


◇ ◇ ◇


天宮さんが凛を引っ張って俺のところにやって来た。


「祐くん、紹介するね! 中学のときの親友で、すごく明るい子!」


「初めまして! 水瀬凛です。田所くん、よろしく!」


にこっと手を差し出されて、思わず握手してしまう。


「田所祐です、よろしく……」


「ふふ、なんか二人とも初々しいね! あ、もしかして、もしかして――」


「うん、この人、私の彼氏なんだ!」


天宮さんが全力で宣言する。


クラスが一斉にどよめく。


凛は「おおー! 本当に付き合ってるんだ!」と

無邪気に拍手した。


「うちの中学のときから澪って、恋愛下手だったから……よかったね! 祐くん、これからもよろしくね!」


「え、あ、はい……」


完全にペースを握られている。


◇ ◇ ◇


放課後。

凛がひょっこり俺の机にやってきた。


「田所くんさ、澪のどこが好きになったの?」


「えっ……えっと、優しいところとか……」


「なるほどねー! 澪も昔はぜんぜん自分出せない子だったのに、今はちゃんと彼氏作れるようになって、私もうれしい!」


「なんか、すごい面白い子だな……」


「私、友達多いけど、恋バナとかぜんぜん得意じゃなくて。でも、澪の“本気”って感じ、すごい応援したくなるんだ!」


笑いながら話す凛は、

どこか天宮さんと似ていて、でも全然違う不思議な雰囲気だった。


◇ ◇ ◇


文化祭当日。

校舎中が賑やかな声であふれ、模擬店やライブの音が廊下を満たしている。


3年A組のカフェも大盛況。

天宮さんは制服にエプロン、班長らしくキビキビとみんなを動かしていた。

その傍らで、凛も早速クラスに溶け込んでいた。


「澪ちゃん、パフェの注文入ったよ!」


「ありがと、凛ちゃん!手伝って!」


テキパキ仕事をこなすふたりは、まるで長年のコンビみたい。

俺も厨房でパフェ作りを手伝っていたが、

その光景を見てちょっとだけ胸がくすぐったかった。


「田所くんって、普段家でも料理するの?」


凛が突然話しかけてきた。


「いや、そこまでじゃ……でも一応、簡単なやつは」


「ふふ、優しい彼氏だね!澪、幸せそうだもん」


「そうかな……」


「うん! あ、そうだ!」


急に凛が俺の腕を掴んで、カフェの外へと引っ張っていった。


「ちょ、どこ行くの?」


「いいからいいから、ちょっとだけ付き合って!」


廊下を抜けて、空き教室へ。

凛は俺の顔をまっすぐ見た。


「ねぇ田所くん、澪と付き合ってて、辛いこととかない?」


「え? 辛いこと?」


「うん。中学のときから、澪っていつも自分の気持ち抑えちゃう子だったからさ。

もし何かあったら、遠慮せずに頼っていいからね!」


「あ……ありがとう。けど、天宮さん、今はすごく前向きだし、俺も……」


「そっか、それならよかった!」


ぱっと明るい笑顔を向けられて、思わず苦笑いした。


「あとで三人で写真撮ろうね!」


そう言って、凛は教室に戻っていく。


◇ ◇ ◇


昼休み。


カフェの休憩中、三人で校庭のベンチに座った。


「凛ちゃん、学校どう?」


「楽しいよ! 澪がいるだけで、もう最高!」


「なんか中学のときみたいで懐かしいね」


天宮さんと凛がキャッキャと笑い合うのを、

ぼんやり眺めていた。


ふと、凛がさらりと聞く。


「そういえば、祐くんって澪のどんなところが好きなの?」


「え、急に!?」


「うん、教えて!」


天宮さんも耳を赤くしてうつむいている。


「えっと……素直で、まっすぐで、優しくて……それから」


「それから?」


「……俺のこと、すごく大事にしてくれるところ、かな」


天宮さんが照れながらも、うれしそうに笑った。


「澪、よかったね!」


凛の無邪気な一言に、

ほんのちょっとだけ、天宮さんが凛を意識したような気がした。


◇ ◇ ◇


午後、出し物を回ったり、写真を撮ったり、

三人でわいわい過ごす文化祭。


だけど、

どこか天宮さんが時折静かになる瞬間があった。


帰り道、

天宮さんがぽつりとつぶやいた。


「……凛ちゃん、すごいね。あっという間にみんなと仲良くなっちゃって」


「うん。なんか、天宮さんと似てるなって思った」


「似てないよ。凛ちゃんは、誰とでもすぐ仲良くなれるから……」


その声は、少しだけ寂しそうだった。


「大丈夫。俺は、天宮さんがいちばんだって思ってるから」


「……ほんと?」


「ほんと」


そっと手を繋ぐと、

天宮さんの表情がふっとやわらかくなる。


◇ ◇ ◇


帰宅後、スマホに凛からメッセージが届いた。


【今日はありがと! 澪と祐くん、最高のカップルだね!また一緒に遊ぼう!】


そのメッセージを見て、

なんだか不思議な温かさと、

ほんの少しの胸騒ぎが心に残った。


三人の青春は、

新しい季節へと動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ