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いざ欧羅巴へ!

冬の日本海から吹き込む風が冷たく肌を刺す中、金沢港の埠頭には白い息を吐く将兵たちが整列していた。

欧州派遣軍の一翼を担う第九師団。金沢を本拠とするこの師団は、いよいよ祖国を離れ、海の向こうへと旅立とうとしていた。



軍務局より派遣された監察官、柴勝三郎少将が現地入りし、出征前の最終視察を行っていた。

彼は重々しく敬礼しながら、師団長大迫尚敏中将に挨拶する。


柴少将:「大迫中将閣下、第九師団の準備状況、誠に立派にてございます。

装備、人員、士気、いずれも申し分なしと拝見いたしました」


静かに頷きながら、大迫中将が言葉を返す。「ありがたく存ずる。北陸の地に鍛えられし将兵たちだ。異国の地でも恥じぬ働きをしてくれよう」


柴少将:「欧州での戦場は我らにとって未知のものではありますが、この師団であれば、必ずや皇威を示されましょう。

本省よりも、最大限の後方支援を以て応援申し上げます」


出征式を前に、兵たちは緊張と期待の入り混じる中で準備を進めていた。

その合間、銃を抱えながら交わされる会話には、金沢らしいくだけた空気があった。


中村一等兵:「おい村田、ちょっと聞くけど、おまん雪靴と革靴、間違えて持ってきとらんけ?」


笑いながら村田二等兵が話す「なんやて?それ、ワシのやぞいや。おまんの足、横に広すぎて、わしの靴パカパカやがいね」


すると、2人の話を聞いていた高田一等兵が割り込んで来た。「ほんなもん、戦場に行く前に靴の喧嘩とは、呑気なこっちゃな。

おまんら、そろそろ腹くくって敬礼の稽古でもせんかいや」


中村「おーおー、高田はんは今日も真面目なこと言うのぅ。けどな、出征前くらい毒でも吐かんと、気が詰まって死ぬがいや」


村田:「ほやほや。どうせ向こうじゃ銃弾より飯のほうが先に切れるやろし、笑っとかな損やさけ」


三人はしばし笑い合い、その後ぴしりと隊列に戻って敬礼の構えに入った。


軍楽隊が「歩兵の本領」を奏でる中、大迫中将が観閲台に登壇する。

整然と並ぶ数千の兵を前に、彼は張りのある声で訓示を述べた。


大迫中将:「本日、我が第九師団は帝國の威信を担い、遥か西洋の戦場へと赴く。

敵の弾に臆せず、己の任を貫き通せ。君たちは石川の誇りであり、祖国の矜持である。

全員、悔いなき戦を、そして生還を目指せ!」


「応っ!」という声が波の音を押し返すように響き渡った。



出港の汽笛が鳴る。

岸壁では、家族が手を振り、旗を振り、声を振り絞って送り出す。

甲板に並ぶ兵たちは、帽を脱ぎ、高々と掲げながら、力強く叫んだ。


中村一等兵:「ほんなら、いっちょ行ってくっぞいや!欧羅巴で名を上げるんや!」


村田二等兵:「ほやほや、帰ってきたら銭湯と甘納豆が先やぞ!」


灰色の空を破って進む輸送船。その航路は、未知でありながらも、確かな志とともに開かれていた。

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