都市と農村のあいだ
都市と農村のあいだ
都市化の波は、雑誌、新聞、映像、そして「成功物語」となって農村に届いていた。
しかし、都市での生活に挫折して帰郷する若者たちもまた、各地で少しずつ増えていた。
千葉県・上総のある村。明治四十五年秋、東京で職工として働いていた青年・政男が帰ってきた。
父母は心配しつつも、何も問わず、縁側で芋を焼いて迎えた。
「すまん、やっぱり、おれ、向こうじゃ出来がわりーで、おいねぇ…」
「無理に行かんでもいい。人には合う地ってもんがある」
夜、かつての友人たちが集まり、村の集会所で再会の火を囲んだ。
「政男、帰ってきたんだな」
「おお。東京はどうだった?」
「……毎日、工場で機械の音と怒鳴り声。賃金は約束より安いし、ひと月で指切ったやつもいた」
「それでも、東京に行けるってだけで、おれたちは憧れてたぜ」
政男は火に手をかざしながら、ぽつりとつぶやく。
「雑誌で見る東京と、実際の東京はちげえんだ。……でも、あの街の“速さ”は、やっぱり、何かを持ってた」
このように、都市文化の光と影は、農村の若者たちにとって「希望」と「現実」の両面を持って迫ってきた。
村の郡役所では、教育と産業振興を担う職員と、地元の小学校長が話していた。
「東京に憧れる子が年々増えています」
「それは自然なことだ。だが、“東京を知った者が、村をどう変えるか”――そこを教えるのが、わたしたち教師の役目じゃないかな」
都市と農村は断絶していたわけではない。
だが、同じ“日本”でありながら、見る風景も、感じる時間も、求める夢も、どこかずれていた。




