褒め言葉
子供の頃から心配性だった。父親の性格を引き継いだのだと思う。
家にある「家庭の医学」という分厚い本を見たときなど、世の中にはこんなに無数の病気があるのだから、いつこの中のどれかになってもおかしくはないという恐怖で寝付けない時もあった。
そのうち杞憂という言葉を知って、そんなことを気にしても仕方ないのだと思うようになったけれど。
そんな人間が、大きな病気もせずこの年まで過ごせているのは本当に有難いことだと思う。
それでも心配性は時々顔を出すので、少し胃の調子が悪くなってくるとどんどん悪い事を想像し、若い頃から時折胃カメラ検査を受けている。
昔の胃カメラは大きい上に経口で、喉を通る時の苦痛は相当きつかったという記憶しかない。
最近はカメラ自体が小さいし、麻酔薬を使った経鼻の殆ど苦痛がないものになって本当に助かっている。昔はよくあんなしんどい検査を我慢して受けていたものだと懐かしく思い出す。
或る時その苦痛に満ちた経口の胃カメラ検査で、先生がモニターを見ながら感心したようにおっしゃった。
「いや~綺麗な胃だねぇ!」
確かに、胃カメラのコードが喉を通っている哀れな状態のまま目にしたモニターに
映し出された私の胃の内壁は、つるんとした皺一つない艶やかなピンク色だったのだ。
後にも先にも内臓が綺麗だと褒められたのはこの時だけだがちょっと嬉しかった。
私は腹黒くないぞ、綺麗なピンクだぞと。