9話
リングでの基礎練習が続く中、のぞみとさやかは少しずつ自分たちの成長を感じ始めていた。
だが、それでもまだ課題は山積みだった。
「お前たち、ロープワークと受け身だけじゃ試合はできないぞ。」
休憩の時間、リングサイドで彩香が声をかける。その隣では沙織が静かに頷いていた。
「今から試合を意識した動き方を教えてやる。先輩たちがやって見せるから、よく見て覚えろ。」
彩香がリングに上がると、瑠衣、真理、優香の3人も続いてリングインした。
「じゃあ私たち若手がモデルやりますね。新人たちに見せるのも仕事ですから。」
瑠衣が軽く肩を回しながら言うと、彩香は満足そうに笑った。
「よし、任せたぞ。」
リングの中央で対峙する瑠衣と真理。真理がロープに向かって走り、反動をつけて戻ってくると、瑠衣がすばやく動いて肩をぶつけるようにタックルを仕掛けた。
真理が軽くバランスを崩しながら倒れ込むが、そのままスムーズに受け身を取り素早く立ち上がった。
「こうやってロープを使って勢いをつける。相手を押し倒すときは、自分の体重をしっかり乗せるのがポイントだ。」
瑠衣がリングの上で立ち止まり、手で動作を解説する。
「でも、そのまま止まらないのがプロレスの基本。試合では常に次の動きを考えながら動くんだ。」
そう言いながら、今度は真理がロープに向かって走り、反動で戻りざまに優香の腕をすり抜けるように回り込む。
ロープを巧みに使い、優香をかわしながらすばやく次の攻撃を仕掛ける真理の動きに、のぞみは目を輝かせた。
「すごい…こんな風にロープを使うんだ。」
「動きが全然止まらないね。」
さやかが冷静に呟く。その隣で沙織が柔らかく微笑む。
「リングの上では止まることがない。それがプロレスの基本よ。君たちも、動きながら考える力をつけなさい。」
「わかりました!」
のぞみとさやかは揃って頷いた。
「じゃあのぞみ、まずは私がタックルするから、ロープに走って返してみて。」
さやかがリング中央に立ち、のぞみに指示を出す。のぞみはロープに向かって走り、反動を受けて戻りながらさやかの肩を狙う。
「えいっ!」
「うっ!」
さやかが少しバランスを崩しながらも、すぐにロープへ向かい、今度は自分が反動をつけて戻ってきた。
「タックル!」
「わっ!」
さやかの肩がのぞみにぶつかり、のぞみが勢いよく倒れ込む。
「大丈夫?」
「う、うん!でも、すごい力だね。」
のぞみが笑いながら立ち上がると、リングサイドから彩香の声が飛んだ。
「おい、さやか!もっとスピードを上げろ。のぞみ、ロープの反動をもっと使え!」
「「はい!」」
2人は声を揃え、再び動き始めた。ロープの反動を受け、次の攻撃につなげる動作を繰り返す中で、のぞみは自分の体が少しずつ慣れていくのを感じていた。
その日の練習が終わる頃、のぞみはリングの端に座り込んで息を切らしていた。
「疲れたけど…今日の練習、すごく楽しかった。」
「よかったね。少しずつだけど、動きが良くなってきてるよ。」
さやかが隣に座り、タオルで汗を拭きながら答える。
「本当に…もっと頑張りたいな。」
のぞみは空を見上げながら、小さく拳を握りしめた。