8話
リング上での基礎練習が続く中、のぞみとさやかの動きにも徐々に変化が現れ始めていた。
「よし、今からは動きながら受け身を取る練習だ。」
天野がリングの中央で腕を組みながら指示を出す。
「試合では、相手が技をかけてくる時に受け身を取る。それができなければ、一撃で終わるぞ。」
彩香がリングの外から笑い混じりに声をかける。
「ほら、ケガしないためにもちゃんと覚えとけよ。」
さやかが一歩前に出て、天野の指示に従い動き始める。ロープに走り寄り、反動をつけて戻ってくると、そのまま軽く後ろに跳ねて受け身を取る。
ドンッ!
さやかの動作は流れるようにスムーズだった。
「おお、さやか、なかなかいいじゃないか。」
彩香が満足そうに声を上げる。
さやかは軽く息を整えながら、リングの外で見守るのぞみに向けて言った。
「ほら、のぞみの番だよ。」
「う、うん!」
のぞみはリングの中央に立ち、深呼吸してからロープに向かって走り出した。
勢いをつけて戻ってくると、勢い余ってバランスを崩しそうになる。
「わっ…!」
そのままマットに倒れ込んだのぞみは、尻もちをつくような形になり、手で支えてしまった。
「違う、手をつくな!体を丸めて背中で受けろ!」
天野の厳しい声が飛ぶ。彩香も少し眉を上げて言った。
「もっとロープの反動を信じていいんだよ。それで勢いをコントロールする。」
さやかが優しく声をかけた。
「大丈夫、ゆっくりでいいから落ち着いてね。」
「うん…もう一回やる!」
のぞみは立ち上がり、再びロープに向かって走り出した。
ロープの反動を受け、体を丸めて受け身を取る――。
ドンッ!
今度は綺麗な音が響いた。マットの上に倒れ込んだのぞみは、息を切らしながらも笑みを浮かべる。
「やった…!」
「よし、それでいい。繰り返して体に染み込ませろ。」
天野が頷きながら言い、のぞみは再び立ち上がった。
◇ ◇ ◇
その日の練習後、リングサイドで休憩をしていると、若手先輩たちが近づいてきた。
「のぞみ、頑張ってるじゃん。」
声をかけたのは桜井真理だった。リングに手をかけながら、軽く笑みを浮かべている。
「まだぎこちないけど、だんだん良くなってるよ。あとは慣れだね。」
「ありがとうございます!」
のぞみが頭を下げると、隣にいた森下優香も笑顔で言った。
「さやかも上手だよね。やっぱり真面目に努力してるからかな?」
「ありがとうございます。でも、まだまだですよ。」
さやかが控えめに答える。すると小宮瑠衣が手を腰に当てながら口を開いた。
「受け身も大事だけどさ、ロープワークの練習ももっとした方がいいよ。特にロープを使うときのバランス感覚を鍛えるのが大事だね。」
「バランス感覚…」
のぞみが首をかしげると、瑠衣は笑いながら続けた。
「簡単そうに見えるでしょ?でも、試合になると焦るから意外と難しいんだよ。特に技をかける前の準備が大事だってこと。」
「わかりました。次から意識してやってみます!」
のぞみが元気よく答えると、さやかがそっと肩を叩いた。
「のぞみなら大丈夫だよ。一緒に頑張ろうね。」
「うん!」
のぞみは力強く頷き、休憩の後、再び練習に励むのであった――。