3話
翌朝、寮の窓から射し込む朝日と同時に響いたのは、耳をつんざくような笛の音だった。
「…うわっ、何これ!」
のぞみは目を覚ました瞬間、飛び起きた。目をこすりながら隣のさやかを見ると、彼女は既にベッドから出てストレッチを始めている。
「おはよう。早く準備して。朝トレーニング、遅刻したら怒られるよ。」
「えっ、もうこんな時間?」
のぞみは慌てて着替え始めた。
道場の広い敷地には既に数人の選手たちが集まっていた。さやかとのぞみもその中に並ぶと、天野が現れ、厳しい声を響かせた。
「お前たちは今日から1ヶ月、体力作りだ。プロレスなんて甘い夢を見る前に、体を叩き直す。いいな?」
「はい!」
さやかが静かに返事する隣で、のぞみも慌てて声を張り上げる。
「お前たち練習生は一緒にメニューをこなせ。タッグである以上、どちらかがサボればペナルティだ。」
天野の言葉に、のぞみはさやかをちらりと見た。さやかは表情を変えず、既に覚悟ができている様子だ。のぞみも自分を奮い立たせるように大きく頷いた。
「まずはランニング10キロだ。途中で歩いたりするなよ。」
「じゅ…10キロ!?」
のぞみが思わず声を漏らすと、隣のさやかが軽く苦笑した。
「まだこれで驚いてたらダメだよ。これくらい普通。」
「マジで…?」
「ほら、行くよ。」
さやかが軽く肩を叩き、のぞみを促す。
道場の敷地を出て、浅草の街中を走り始める。10キロの道のりは想像以上に長く、3キロを過ぎたあたりでのぞみは早くも息が切れ始めた。
「はあ…はあ…さやか、速くない?」
「まだペース落としてる方だよ。頑張って、あと少しで折り返しだから。」
さやかは淡々とした声で言いながらも、少しだけ速度を落としてのぞみに合わせた。
「…ごめん、私、足引っ張ってるよね。」
「別にいいよ。タッグってそういうもんでしょ?」
その一言に、のぞみは少しだけ気を取り直した。「タッグとしてさやかに負けたくない」と思うと、少しだけ足に力が入る。
ランニングを終えて道場に戻った2人は、そのまま筋トレに移った。
「腹筋50回、スクワット50回、腕立て50回。全部セットで3回だ。」
天野が淡々と告げる。のぞみはその数字に目を丸くしながらも、やるしかないと覚悟を決めた。
「よし、腹筋からだね。」
さやかが床に仰向けになると、のぞみがその足を押さえた。
「じゃあ私、数えるからね。いくよ!」
「1、2、3…」
さやかは淡々とこなし、汗一つかかずに50回を終えた。
「よし、次はのぞみの番ね。」
さやかが足を押さえる番になり、のぞみは不安そうに仰向けになる。
「いける?」
「やるしかないよね…!」
のぞみは気合を入れて動き始めた。だが20回を超えたあたりで動きが鈍くなり始める。
「ほら、もっと体起こして。さっきの試験より軽いはずでしょ?」
「うっ…だって、昨日も腹筋やったんだよ…!」
さやかの指摘に、のぞみは必死で体を持ち上げる。それでも、終盤は完全に気持ちだけで動いていた。
「49、50!よし、終わり!」
さやかの声に、のぞみは仰向けになったまま息をつく。
「ふぅ…もうヘトヘト。」
「まだ1セット目だよ。早く次いこ。」
さやかが冷静に告げる。その言葉にのぞみは「マジか」と顔をしかめながらも、立ち上がった。
こうして、2人の体力作りの日々が始まった。ランニング、筋トレ、基礎体力を叩き直すための厳しいメニューが続く中で、のぞみとさやかは少しずつ息を合わせていく。
「まだいけるでしょ、のぞみ!」
「うん、頑張る!」
こうしてのぞみは、同い年のさやかと共に限界に挑む毎日を過ごすのだった――。