11話
翌日の道場。リング上では、昨日の練習をさらに進める形で、動きの中で技をかける練習が始まっていた。
「昨日やったヘッドロックの練習を思い出せ。今日は試合を想定して動きながら技をかけるんだ。」
天野がリング中央で厳しい声を飛ばす。彩香と沙織、若手先輩たちもリングサイドで見守る中、のぞみとさやかはリングの端に立ち、準備を整えた。
「2人はタッグだから、常にお互いの動きを意識しろ。相手に技をかける時も、パートナーがどう動いているかを確認しながらだ。」
「はい!」
天野の指示で、まずはさやかが攻撃役、のぞみが受け手の役を務めることになった。
「じゃあ、いくよ。」
さやかがロープに走り、反動をつけて戻ってくる。その勢いを活かしながら、のぞみの横に回り込むように動き、スッと腕を回してヘッドロックを仕掛けた。
「っ…!」
さやかの腕がしっかりと首にかかり、のぞみは軽く膝をつきながらバランスを取る。
「今のはどうだ?」
さやかが技をかけたまま天野を見上げると、彼女は少し頷いた。
「悪くない。だが、技をかける前の動きが少しぎこちないな。もっと流れるように動け。」
さやかは「はい」と答えて技を解き、再びロープに向かった。
「次はのぞみ、お前が攻撃側だ。」
天野の声に、のぞみは緊張しながらリング中央に立った。
「動きながら技をかける…うまくできるかな。」
「大丈夫。思い切ってやればいいよ。」
さやかが優しい声で背中を押してくれる。その言葉に励まされ、のぞみはロープに向かって走り出した。
反動をつけて戻ると、さやかの横に素早く回り込むように動き、腕を伸ばしてヘッドロックを仕掛ける。
「えいっ!」
さやかが軽く膝をついて受け身を取ると同時に、のぞみの動きも止まった。
「おい、止まるな!」
天野の声が響く。
「動きの中で技をかけた後、何も考えず止まるのはダメだ。次にどう動くかを常に意識しろ。」
「すみません…!」
のぞみは頭を下げ、再びロープに走った。
その後、何度も繰り返し練習を続けるうちに、のぞみの動きは少しずつ滑らかになっていった。
「うん、さっきより良くなってるよ。」
さやかが技を受けながら微笑む。その声に、のぞみは少しだけ自信を持てた気がした。
「次は技をかけた後、相手を倒す動きまでやってみろ。」
天野が新たな課題を出すと、リングサイドにいた彩香が笑いながら言った。
「ほらほら、倒す時も力の加減を忘れるなよ。相手を壊したら練習にならないからな。」
「はい!」
のぞみは大きな声で答え、再びロープに向かって走り出した。
ロープの反動を受け、さやかの横に回り込むと、スムーズにヘッドロックをかける。次に、勢いをつけてさやかの体を軽く引き倒すように動く――。
ドンッ!
さやかがマットに倒れ込み、しっかりと受け身を取った。のぞみも技を解きながら、「できた!」と小さく声を上げた。
「よし、悪くない。」
天野が頷くと、彩香がリングサイドで拍手を送る。
「いいね。あとはこれを体に染み込ませるだけだ。」
「のぞみ、動きがかなり良くなったじゃん。」
どうやら休憩中だったらしい、瑠衣もリングの外から声をかける。
「本当ですか?ありがとうございます!」
「さやかもいい感じだよ。やっぱり、ちゃんとパートナーと息が合ってる感じがするね。」
真理がにこやかに言うと、さやかは少し照れくさそうに笑った。
「でも、まだまだ基礎の段階ですから。これからもっと頑張らないと。」
「その意気だよ。私たちも手伝うから、一緒に頑張ろう。」
優香がそう言って微笑む。のぞみとさやかは力強く頷き、再びリングの上で汗を流すのであった――。