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star forest  作者: れ~せん
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小屋の不思議な猫さん ~ミクルルート

五月蝿い子犬『シバ』を倒したミクルは、森中を楽しそうに飛び跳ねながら、津波を起こした犯人を捜していた。しかしその様子は、傍から見ると、ただ気楽に散歩をしている様にしか思えない。異変解決している様には全然見えないのだ。

出てくるのは、少なくとも妖精(虫)だけである。


「そういえば、カラスちゃんが『犬の肉は食べられる』って言ってた様な気がするんだけど……あの犬さんも食べられるのかなぁ?」


煮ても焼いても食えなさそうだ。


「……まぁいっか。後で考えようっと。今日は楽しい異変解決~」


ミクルは楽しく歌いながら、道を左の方に曲がって真っ直ぐ進んでいった。ミクルが通った道の脇にあった木から、星の実が一つポトリと落ちた。



ミクルが真っ直ぐ進んでいった先には、一軒の木で出来た小さな四角い小屋が、木々に紛れてポツンと建っていた。木の板を釘で打ち付けただけの、古ぼけた小屋である。ミクルは小屋に気づいて少し立ち止まって、その木の小屋の中をよくよく見てみた。見る限り、卓袱台ぐらいしか見えなかった。人の居る気配は全然しない。


「あれ? そういえばこんな処に、こんな家なんてあったっけ? ミクル、此処ら辺を散歩した事はあるんだけど……うーん、よく覚えてないなぁ」


実は此処には、前は木の小屋なんて無かったのである。いつどうやって建ったのか、それとも気づかなかっただけで本当は前からあったとか、理由なんて誰も知らない。これも津波を起こした犯人がやった事なのか? だが、まだ真相は明らかではない。


「……どうやら誰も居ないみたい。此処はまた後で行ってみようかな?」


ミクルは誰も居ない事を確認し、止まっていた足を踏み出し、左の方へ曲がろうとした。しかし、


「ちょいと、そこのお嬢ちゃん。あたいと一緒に少し遊んでいかないかい?」

「!」


不意に誰かに声を掛けられて、ミクルは片足を一歩踏み出した状態で、声がした方を顔だけ向いた。

其処には何と、猫が小屋の隣にある木の下に座っていたのである。茶髪で横に伏せた猫耳。橙色の星の形をした髪飾りで、長い髪を二つに縛っている。その髪は座っているからか、地面に付いている。目は猫目で紫色。薄黄色の服には魚のアップリケが縫い付けられていて、紺色をした袖は、手が隠れるくらい長い。下にも紺色をしたプリーツスカートを穿いていた。猫の足の形をした靴を履いていて、スカートからは長い尻尾が一本見えていた。見た感じ、猫の幼女のようだ。


「暇してたんだよねぇ。と思ったら、退屈すぎてだらけている時にちょうど人間が通りかかるもんだから、これはラッキー」

「君だぁれ? 其処の小屋に住んでいるの?」


ミクルは古ぼけた小屋を指差して言った。


「ふふん、あたいは子猫の『ネキュ』さ。その家も勿論、あたいだけの家だよ。あ、ちなみにあたいは家を建てる場所を気まぐれに変えているから、その家も明日には無くなっているかもしれないよ」

「私はミクルだよ。でも……その家狭くないの? 窮屈じゃない?」

「猫は狭い所を好むからねぇ」


ネキュは楽しげにそう言った。


「それより、其処のミクルという人間。あたいと一緒に遊ぶかい? 何かあんたからは、不思議な魅力を感じるよ!」

「あれれ、ミクル何か用事があったような……そうだ、ネキュちゃんが津波を起こした犯人?」

「津波ぃ? あたいは水嫌いだし、そんな事やるわけないさ。まぁそんな犯人探しは後にして、遊ぼうよ!」


ネキュは立ち上がって、元気そうに八重歯を光らせて言った。


「うーん……まぁいっか。ちょっと猫さんと遊んでから行こうかなぁ」

「その方が良いさ! さて、久々に体を動かせる時が来た。あんたはあたいのしなやかな動きに着いていけるかな?」


ミクルは、ネキュが軽く準備運動をしている時に、ネキュの方へ恐れも知らずに近づいていった。だがその時、


「!!」


ミクルは自分の目の前に飛び掛ってきた素早い物を、とっさに避けた。ミクルはゆっくりと目を開いて、自分に飛び掛ってきた物を見た。――其処には、ネキュの右手。長い袖は捲り上げられていて、其処から見えていたのは、小さな手から伸びた長く鋭い爪だった。ミクルはもう少しで身体中を引っ掻き傷だらけにされる処だったのである。


「ふふ、油断はいけないよ? お嬢ちゃん。あたいをただの猫だと甘く見て近寄ったら、大間違いさ」


ネキュは袖を元に戻して立ち上がった。ミクルはネキュの素早い動きに圧倒されて、口をぽかんと開け、ただネキュを唖然と見つめていた。


「驚いたかい? でも、まだ本番は始まっていないよ。此処からがあたいの力を見せる時……」


ミクルはネキュの発言には全然気づいていない。まぁミクルの事だ。まだ何が起こったのか理解出来なくて、ぼうっとしているのだろう。そうこうしている間にも、ネキュはすでに構えの体勢に入っていた。爪を地面に立て、腰を高く上げ、長い尻尾もぴんと立っている。ネキュはにんまりと、不敵な表情を浮かべて……


『飛び蹴りスクラッチ!』


そう叫んだ。その後にはもう、ネキュはまるで瞬間移動をしているかのように、次々と木々を蹴りながら飛び移っていった。ミクルはやっと我に帰ったと思ったら、今度はネキュが消えたと思い込んで混乱していた。ネキュはどんどんミクルの処へ、目にも止まらない速さで近付いていって……


「うわっ!?」


ミクルはネキュの爪を急いで避けようとしたが、服に少し傷が付いてしまった。幸い服だけで済んだ。しかし、ネキュはその次も、懲りなく素早い速さでミクルを追っ駆けてくる。二人はしばらく、そんな追いかけっこをしていた。ミクルは追い駆けられる側だが。ミクルは引っ掻かれる度に、服に何ヶ所物の傷が付いた。


「ふぅん……あんたものんびりそうに見えて、意外に避けてるねぇ。でもあたいに追い駆けられているだけじゃあ、学習能力付かないよ!」


ネキュは攻撃を止め、地面に大の字になって寝転がっているミクルを見下ろした。ミクルはすでに疲れてくたくたになっていた。ミクルはまさかネキュが言う『遊び』がこんな物だとは思っていなかったようだ。本当に変な幼女が言う発言は、信用してはならない。


「さてさて、次の技はどうかな……?」


ネキュはそう言って、すっと両目を閉じた。何か精神集中みたいな事をしているようだ。ミクルがむっくりと起き上がってみると、ネキュはさっきまでの、元気でお気楽そうなネキュではなかった。今はただ真剣に目をつぶって、何か不思議な念波を受信しているように見えた。しばらくの間ネキュは突っ立っていたが、やがて口を開き……


『狂いのコンフュージョン弾!』


そう叫んだと同時に、ネキュは長く閉じていた目をぱちりと開いた。その眼にはさっきのように、光は映っていなかった。その時、ネキュの周りから大量のピストル弾が発射された、と思いきや、四方八方に散らばったり真っ直ぐミクルの方へ向かってくるのもいたりと、技名通り混乱してくる弾ばかりであった。しかもそれが素早く発射されてくるので、弾が二重にも見えてきて余計に狂うのだ。

動揺しているミクルの目の前にも、弾が迫っていって……


『アイスシュート!』

「!!」


突然ミクルの両手から、大量の氷が発射された。実はミクルはこう見えても意外に強く、ピンチになってくると稀に凄い力を発揮する事がある。技の力は普通の人間では凍傷してしまう程だ。氷は凄いスピードでネキュのピストル弾を蹴散らしていき、その先にいるネキュに命中した。

ネキュの弾攻撃はぴたりと止み、ネキュは氷に打たれ続けて身動き出来ないままだった。そして最後の一つが当たった途端、ネキュは地面にどさりと倒れた。髪もボサボサで、服も傷だらけだった。ぴくりとも動いていない。


「……ネキュちゃん?」


ミクルは、死んだように動かないネキュに吃驚しながらも、恐る恐る一歩ずつ近づいてみた。風が吹いて、周辺の木々の葉がさわさわと揺れている。ミクルはやっとネキュの近くに来た時に立ち止まって、ネキュの身体にそっと触れてみた。――まだ暖かい。

ミクルはどうして良いか判らず、ただネキュの周りであたふたしているしかなかった。ネキュの尻尾も力無くだらんと垂れている……と思ったら、何と、尻尾がぴくっと動いたのである。

その直後に、うつ伏せの状態でネキュの背中がぴくぴくと震え始めた。ミクルはその光景を見て、後ろに一歩、後ずさりしてしまった。ミクルは少し身を引きながらも、顔をゆっくりと、震えているネキュの方へ近づけてみる――


「ぷっ……あははははははっ!!」


やっぱりミクルは、顔をネキュから離した。さっきまでうつ伏せで顔を見せないで震えていたネキュが、急に起き上がって大爆笑をしたからである。ネキュは膝を地面に付いて、長い袖をばたばた振りながら楽しそうに笑っていた。その仕草は、最初にミクルと会ったばかりの、元気でお気楽そうなネキュその物であった。


「あはは、御免御免、驚いたかい? 何も考えてなさそうなあんたを、ちょっとばかり吃驚させてみようと思ってねぇ」


ミクルを目をまんまるにし、口を四角の形にして、復活したネキュを呆然と見ていた。


「いやぁしかし、あんたはやっぱり強かったねぇ! こりゃあ、あたいの負けさ。素早さも氷の力に、流石に敵わなかったよ!」

「はっ! ……あ、ネキュちゃん。よく判らない遊びだったけど、楽しかったね! 猫っていうのはこんなに強い動物なんだね!」


多分それはネキュだけだと思うが。


「おっと、折角犯人探しをやっていた処を止めて御免よ。んじゃ、次いってらっしゃい! あんたとは、良い友達になれそうだ!」

「うん、ネキュちゃんまた遊ぼうね~ 今度はミクルの凄い技、見せてあげるよ~」


二人は其処で手を振って、別れた。ミクルは左の方へ曲がっていった。後ろにいるネキュが見えなくなるまで、ミクルは何度も振り返った。


「あ、そうだ。服が汚れちゃったから着替えないとね」


そう言って、ミクルは替えの洋服を取り出してその場で着替えた。それにしても、何処から取り出したのか。何時からその服は何処に隠し持っていたのだろうか。細かい事は気にしないでおこう。

ミクルは着替え終わって、そのまま真っ直ぐに道を進んで犯人探しを再開した。津波の荒れは、一向に治まらないままであった。

第ニのミクルルート。

ネキュは変なピストル弾を撃っている時点で、普通の猫ではないですね。

もし現実にそんな猫がいたら……私はとりあえず捕まえて、飼い慣らしてみますかねw 

……いつか命が危うくなりそうだが。

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