千年後の誰かへ
拝啓 見知らぬ誰かへ
この手紙は「丁度1000年が経過することで開く究極のタイムカプセルを作る」というプロジェクトの元作り出された宇宙船「配達員」によって、ウラシマ理論の実証実験を兼ねた壮大な旅を経て貴方の手に届きました。
重要なのは中身ではなく手段の確立であり、この手紙そのものには大きな意味はありません。
さて、それでも貴方がこの手紙を読んでいるということには意味があります。
貴方がこの手紙を読んでいるということは、我々のプロジェクトが成功裏に終わったということでもあるからです。
我々の理論が正しければ、宇宙船内の時間は地球と比較し、最大50倍もの時差が生じているはずです。
宇宙船内部の時計が機能しているのであれば、およそ300年前の時間が指し示されているのでは無いかと思います。
光速の99.99%というスピードは我々にとっては未知のものであり、事前に試験を行えているものではありませんが、宇宙船内部の千年時計は我々の自信作です。きっと貴方がこの手紙を読んでいる今も時を刻み続けているだろうことを確信しています。
さて、貴方方にとっては必要の無い情報となってしまっているかもしれませんが、宇宙船「配達員」の設計図は別紙に記載してあるのでもし良ければご確認ください。
当初の予定としてはデジタルデータを搭載する予定でしたが、1000年という長い時間を経て、解読を行うコンピューター自体のスペックが変化し、解読された際には伝えたかったことが違う意味に読み取られてしまうことを考慮し、比較的軽量な紙という材質を用いています。
さて、このタイムカプセルには複数の言語で書いた手紙を積んでいますが、他の言語は今もなお使われているのでしょうか?
まだ我々の理論において、過去に情報を渡すといったことは夢物語であり、この手紙を読んでいる貴方がいったいどのような人物なのか、どのような言葉を話すのか、どのような状況におかれているのか、それを我々が知る術は確立されていません。
ですので、先程の問いかけは、我々の自問自答のようなものであり、回答を求めているものではありません。しかし、もし貴方方の理論を持って我々に回答を送ることができるのであれば、喜んで受け取らせていただきます。
我々は手を尽くしました。
1000年後の貴方方に遺せるものはありませんが、せめて誰かがこの手紙を読めていることを願います。
敬具
記
執筆者:国際人類保護機構監督責任者 マククユタ






