起きてしまった地獄
みやはの目の前にはゆうひだったものがあった
「はっ?」
目の前の視界がぐらついた。みやはの顔に返り血がたっぷりつく。一瞬、本当にゆっくり時間が流れ、その1秒1秒が数時間にも感じた。ゆうひの残った下半身が地面に打ち付けられバタンと音がした。
ひどい耳鳴りだ。
みやはは震える両腕を見て、人間の姿に戻っていることに気づいた。が、人間になっても血で赤に染まった体のままだった。返り血が垂れて目に入り、視界が赤くぼやける。
まだ何が起こったのか理解ができない。
「ぁ…」
必死に絞り出した一言はそれだった。どのくらい時間が経っているのだろうか。
「はぁっ!!!!」
鳥の声が聞こえてくる、蝶々がみやはの目の前を通過する。
「あれ、私、こんなところで何して…」
みやはは、はっとして自分の体を見た。
「血が…消えてる?」
正確には、目立つ返り血がないだけで若干血の跡がのこっていた。
視点を前に向ける。昨日の生々しいゆうひの遺体を思い出して吐き気を催した。
しかし、その例の遺体はどこにも見当たらなかった。
「なん…え…?あれは、夢だったの…?」
地面に虫がいるのを見てみやはは起き上がった。ふと後ろをむくと、洞窟があった。が、もう入るのは辞めることにして下山した。
「はー…」
なぜ冷静でいられるのか?いや、みやはは冷静なんかじゃなかった。今すぐにでも発狂したい心境に立たされていた。自分が化け物かもしれなくて、現に親友を殺している。しかし次の日になるとなぜか遺体はなくなっている。あまりに奇妙で得体の知れない気色悪さを覚えたみやはは発狂するのを通り越して無言になってしまったのだ。もっと言うならば、声を荒げる気力もまだ回復していない、と言うべきだろう。
みやはは家の裏口から入った。時計を見た時、時間は朝6時だった。親はまだ寝ており、みやははそーっと風呂に入り、とりあえず血を洗い流すことにした。制服も洗わなきゃと思ったが、なぜか明らかに返り血の量は少なかった。まるで誰かに制服を取り替えられたようだった。
(とれなかった血は生理だったって言い訳すればなんとかなるよね…)
その日は学校はなかったため、風呂に入った後みやはは放心状態で自身の部屋のベッドに倒れ込んだ。
「みやはー?おかえり、いつのまに帰ってきてたのね。部屋入っていい?」
母の声がした。
「だめー、今ちょっと疲れてて」
「まったくみやはも反抗期ねえー」
「別にそんなんじゃないし」
「だって、ひのちゃんから聞いたわよ?あんた学校からも帰らずにひのちゃんちに泊まりに行くなんて、家出じゃないの」
みやはのお母さんは心配そうなそぶりを見せたが案外子供には興味のないタイプの親だったため、そこまで気にしてはいなかったようだ。
「はーい、ごめんなさい」