真っ暗闇で
みやはが辿り着いた先には洞窟があった。が、そこで後ろからゆうひに声をかけられてしまう。しかもみやはの体はなぜか半分以上がイグニアになっていたのだ。
ゆうひは学校帰りではなかったので、スマホを持っていた。スマホの明かりで照らされ暗闇に一筋の光が見える。
「みやは、こんなところで何してるの??」
みやははあたりが明るくなってほっとしたが、逆光の中自分の姿を見ればそれはもう人間と呼べるものではなかった。みやはとゆうひには数メートルほどの距離がある。おそらくまだゆうひはこの体の変化には気づいていないのだろう。みやはは一目散にこの場から逃げ出したかった。
「ぁー…えっと…」
人間って、ここまで緊迫した状況に置かれると本当に言葉が出なくなるものなのだろう。
「ねぇ、何してるの、みやは。さっきから様子がおかしいよ」
みやはは拳を握りしめた。
「みやは、何か私に言えない事情でもあるの?無理にとは言わないけど、もし悩んでるなら私にも相談して。ねえ、私たち、親友だよね?」
ざっざっ、とゆうひの足音がゆっくり聞こえてきた。
みやははとうとう何も言葉が出なくなった。ゆうひが残り1メートルほどの距離までみやはに近付いてきた時、やっとみやはは振り向く覚悟をし、全てを話そうと思った。
「怖がらないでね、私、実は感染症をもっていて、こんな化け物になってしまうんだ」
ここにいた経緯よりも先に、まずは自分のことを話すべきだと思って、振り向いて自分の体を見せた。
案の定、ゆうひは口をポカンと開け後退りした。
「ごめん!今まで、親友だってのに隠して、でも、今やっと言うべき場面が来たから、親友のゆうひにだからこそ、言うよ。見た目こそ気持ち悪いかもしれないけど、私、ちゃんとした人間だし、ゆうひとかには迷惑かけない!だから、これからも仲良くしよう?」
みやはは一度喋ろうと思ったら、言いたいことが溢れ出して止まらなくなった。
「化け物…」
ゆうひの絞り出した一言はそれだった。正直みやはは、親友のゆうひなら分かってくれると思った。でも、そんな塩対応がとられたのがかなりショックだった。
「まだ世の中は感染症に対する理解が浅い。でも、この感染症って他の人に害は与えないんだよ。だから、これからも仲良くしよう。ね?」
みやははゆうひとの縁は切りたくなかった。ショックでも、必死のフォローをした。
「あぁ、やっぱり…みやはは…!」
大声をあげたいゆうひだがどうしても震えて声が出ず、「あっあぁっ」とずっとうめいていた。
「ゆうひ!お願い、私は安全だから!」
しかし、ゆうひはとうとう逃げ出してしまった。
「待って!ゆうひ!!」
ゆうひはスマホで電話をかけようとした。それはコロニ緊急事態用通報だ。110番などと同じように、イグニアに襲われそうになった時などはそれに電話をしてイグニア側とイグニアに対抗する術を持った人間が緊急で出動する。
「お願い!私はイグニアとは違うの!ただの人間!話を聞いて!!」
ゆうひがつまづきかけ、その瞬間にみやははゆうひに追いつきゆうひを捕まえた。
チャグッ
という音と共に、ゆうひの上半身は吹き飛び、ゆうひだった肉片の下半身は地面に倒れた。