【おためし版】「お前じゃ一族繁栄は望めない」と追放された悪役貴族お嬢様、皇帝と婚約し皇女に昇り詰めてにっくき当主に言ってやるのですわ、「ざまぁ!」と!
「さぁセバス、やって見せますわよ!」
「何をでしょうか。まずお嬢様、状況説明がまだで御座います、そして往来の真ん中で大声を出しては迷惑ですし阿呆に思われますかと」
「あ、確かにそうですわね。道行く馬車の方、申し訳ございませんわ……ってセバス口が悪くなくって!? 私を一体誰だと──」
「今は、ただのオディール・ルーフェ。違いますか?」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
淑女にあるまじき声を張り上げて悔しがるこの女性、オディール・ルーフェ。
全身を包むドレスはフリルが付いて可愛らしさとエレガンスを両立、イヤリングや指輪、ネックレスは高級感を醸し出している。
長く艶やかな黄金色の髪は手入れの丁寧さを表しており、綺麗にロールしたシルエットは丹念にセットしている努力を匂わせる。
上流階級ならではの香料をふんだんに身に付け、慣れない人は不快になりそうな程の存在感を放っている。
「あぁ、お嬢様はルーフェと名乗るのも厳禁とされていましたね。どうしますか、今後はオディールで通していきます?」
「むむむ、そうですわね、私を追放したルーフェ家など、此方から願い下げですわよ!」
「ではお嬢様はこれからはただのオディールですね。よかったじゃないですか」
「おーっほっほっほ! そうで御座いましょう!」
「そういえば皮肉とか通じない人だったなぁ」
セバスと呼ばれる青年はポツリと声を漏らす。
彼とお嬢様は現在、ルーフェ家が領主として支配する都市の街道の内、最も大きいものを歩いていた。
とはいっても何か目的地があるわけでもなく、ただ立ち止まっていられないというだけであちらこちらへ歩き回っている。
「で、お嬢様。これから一体何をやってみせるんですか?」
「決まってますわよ、ルーフェ家のクソジジイを見返してやるのですわ!」
「この人、自分の追放された理由覚えてないのか?」
「何を言っていますのセバス、きちんと覚えていますわよ、『ルーフェ家の跡取りたる気品がないだけでなく横暴な振る舞いが目に余る』でしたわね? 全く何を言っているのですかあのクソジジイは!」
迷いなく言い張るオディールに呆れながら、最低限の窘めを試みるセバスである。
「う~ん、これはより性質が悪い。それにお嬢様、実の父親をそのように呼ぶものではありませんよ」
「クソジジイはクソジジイでしょう、何が違うのです! 全く、私という才能と美に溢れる得難い人材を、あろうことか追放ですわよ!?」
「この調子だとそうなるのも当然のような気がしますがね……」
この人にはもう何を言っても無駄かも知れないとセバスが諦めかけたその時であった。
「おや? そこにいるのは、勘当されたオディール様ではありませんかぁ?」
「そ、そのいけ好かない、自意識過剰を音にしたような声は!」
「酷い言いようですねお嬢様」
街道の中心を走っていた馬車が止まり、その上から道端を歩いていた二人に声が掛かる。
馬車は金や赤色の装飾を纏っており、複数頭で牽く馬も豪奢な馬具を装着している為、乗車している者の社会的地位と経済力を誇示していた。
馬車の持ち主である男もまた動きにくそうなほど豪奢な装飾に塗れ、赤ワインを思わせる色の長い髪をなびかせている。
物理的にも社会的にも他人から見下されるのが大嫌いなオディールは、車上の貴族の男に食って掛かった。
「大体何なんですの貴方は、いきなりそんなことを口にするのは野暮なのではありませんこと!?」
「君の父上と僕の父上が少々話したいことがあってね。真剣さや重要さを示すために、この僕ピエール・ゴドレーシが遣わされたのだよ。その時に、普段なら噛みついて来る君が居ないから一体どうしたものかと思えば……」
そこまで言ってからピエールは言葉を区切り、オディールとセバスを交互に見つめた。
ピエールのゴドレーシ家はルーフェ家領のすぐ近くの領地を治めており、これまで何度も政治的関係を持ってきていた。
ピエールはそのゴドレーシ家の長男であり、いずれはゴドレーシ家領を継ぐもの。
その自覚があるからこそ幼少期より増長を続けたピエールは二人を見つめたかと思うと、直ぐに頬を膨らませて勢いよく噴き出す。
「ふっぐふ……まさか勘当されていたなんてね!」
「きいいいいいいいいいいいぃっ!」
「お嬢様、どうどう、よしよし」
「犬か何かですか私は!」
「寧ろ話に伝わる猿では」
「私は人ですわよ!?」
取り乱して歯を食いしばるお嬢様を見ていられず、至って冷静なセバスが背中を擦る。
しかしそれすら屈辱的に感じる程プライドの高いオディールはセバスを跳ね除けた。
腹を抱えて笑い続けるピエールの人を虚仮にした態度を見て怒りを覚えるのは至極真っ当ではあるのだが、如何せんこのお嬢様、忍耐力というものが致命的に欠如している。
一歩間違えれば獣のように襲い掛からんとするオディールは目もくれず、涙を流して笑っていたピエールであったが、やがて呼吸を整える。
「ふぅ、ふぅ……駄目だまだお腹痛い……はぁ。ま、兎も角これで君の人生は終わりだね!」
「何ですって!」
「当り前じゃないか、性格が悪ければ他人へも当たり散らし、かといって積極的に行動するでもなく不平を述べるばかり。それでいて気に食わないことがあればすぐに癇癪を起す君が、ルーフェという最大の後ろ盾を失ったら何になるんだい?」
「ぐぬぬ……何か言ってやりなさいセバス!」
「いえお嬢様、ピエール様はかなり的を射た意見を言っておられます、私が言い返す言葉など御座いません」
「何ですって! あと貴方、私相手より畏まった言葉遣いじゃありませんこと!?」
「そっすか?」
「狙ってますわよねぇ!」
「あっははは! ──まぁ兎も角、君の未来の栄光はこれで全て無に帰したわけだ。成り上りたかったら商人にでも転身してみたらどうかな? お金にがめつい、おっと失礼、金勘定が上手いのは君の数少ない美点だものね!」
それだけ残して、いやその後に高笑いを響かせてピエール一行は馬車を走らせ街道を去っていった。
言われるだけ言われたオディールは追いかけるのではなく、歯を食い縛り拳を握りしめ、ピエール一行の背中を睨んでいた。
傍に立つセバスも同様に、ピエール個人の背中を見つめていた。
「──渡しませんけどね」
「セバス? 何か言いましたこと?」
「いえ、何も」
彼は気が付いていた。
ピエールがオディールの人となりを細かく把握していることも、勘当された彼女に成り上る方法をさりげなく伝授していたことも。
彼にとっては幸いにも、オディール自身がそのことに気が付いていないようだったが。
付け加えるなら、そのことだけではなく執事であるセバスが貴族ではなくなったオディールに付いて来ている理由にも、気が回っていないようだった。
「──セバス」
「は、はい?」
「やりますわ、私前から決めていましたけど、もう絶対に決めました」
「はぁ」
ぷるぷると握りこぶしを震わせ、喉を絞らせるオディール。
セバスが唐突に名前を呼ばれるのはいつものことだが、頭の中に浮かべていた内容が内容だけについ挙動不審になってしまった。
しかし当たり前だが心の中を読む魔術などお嬢様が使えるわけもなく、気分屋な性格を発動させただけのこと。
「クソジジイだけでなく! あのいけ好かない自信過剰男も見返してやります! その為には────皇帝の后に! なってやりますわよ!!!」
皇帝の后。
ルーフェ家やゴドレーシ家が属する王国の、更にその上に位置する帝国。
オディールが言っているのは、神の代理人とも呼ばれるその皇帝の正室になる、ということ。
「それはまた……随分と思い切りましたね」
「私を勘当したクソジジイにも、私を敵に回した自信過剰男にも! 『ざまあ』と! 言ってやりますわぁ!」
目標の高さに比して、原動力がいくら何でも俗物すぎることに思わず苦笑が漏れるセバス。
しかし彼は知っている、やりたくないことはやらず、気に食わないことには噛みつく性格のオディールではあるが、今までやると言って成し遂げなかったことはないのだと。
天気は快晴、風は上々、気温は温暖。
門出に相応しい日に、コンプレックス丸出しお嬢様の魂の叫びが天高く響き渡るのであった。
続きが読みたいよ、って方は評価やブクマしてくださるとありがたいです〜!
【2023/3/21/6:00追記】
想像より遥かに反応頂けたので連載化しようと思います!
今暫くお待ち下さい!
【2023/4/17/18:00追記】
連載準備整いましたので御報告をば!
4/21(金)の夜から、週一で投稿を開始致します、その際此方のタイトルには先頭に【おためし版】とつけさせていただき、連載タイトルは此方のものをそのまま使用します。
遅れて申し訳ありませんがお楽しみください、初回は第〇話と此方の話を第一話として投稿予定です〜!
以下連載版↓
https://ncode.syosetu.com/n5725ie/