第八話 軍需産業の黎明
フレイヤが港町キールの方へ旅立ったのを見届けた俺は作戦地域である西の農村へ向かった。今度は王都から少し遠いので馬が支給された…乗った事なんてないのになぜか乗り方を知っていた。
「貴方がこの村の部隊の指揮官ですね?!やった!!」
「ま、まぁそうだけど…」
なぜ目の前の少年少女達がそれで喜んでいるのかイマイチ分からなかった、彼女は軍人ではないはずだ。
「君達、こんなに村から遠くまで来たら危ないだろう?早く家に帰るか村の近所で遊んだ方がいいよ。」
村からは3km程度離れている、警戒線には丁度いい距離だが、それなら尚更子供が遊びに来るべき場所ではない。
「え〜!だって私達上官からこの辺りを警戒しているように言われたもん!」
「…なんだって?!」
あまり確認したく無かったが、せざるを得なかった。
「…つまり、君達は兵士という事だね?」
「うん!そうだよ!」
なんて事だ…
「っていう事があったから、今後16歳未満は徴兵しないように。」
村に到着した俺はすぐに部隊長に会いに行った。一番大きな建物に送られた俺は老いた部隊長にすぐに文句を言った。
「ま、待ってください!そんな事をしたら兵力が不足します!」
「言うて65歳まで徴兵できるとして全体の1〜2割くらいでしょ?そんなに大して影響あるわけ…」
「…もう、16歳以上の健康な男女はとっくの昔に徴兵されて、村にはいません」
「…そっかぁ……」
目の前の老人にそう反論され、何も言えなくなる。
軍事的合理性と倫理観が脳裏でぶつかり合う、正直子供は前線では的程度にしかならないが、的にさえ数が求められるのが戦場だ。
しかし、俺は軍人として出来ていない人間なのかそれでも少年兵、少女兵の存在を許容できなかった。
「…それでも許容できない、子供は後方に送るんだ。」
そう言うとその老人は自嘲するように笑った。
「ハッハッハッ」
「え…どうしたんですか急に…」
「いやはや、人を疑ってはいけないものですなぁ、指揮官殿。」
「本当にどうしたんですかいきなり…」
「疑っては本当に申し訳なかった…指揮官…いや、ジーク王子。」
「なぜ名乗っていないのに俺の名を?!」
「お忘れになったのですか?ワシは貴方が幼い頃…」
「…申し訳ない、本当に、忘れているんだ…」
「…は…?」
部屋の中には二人の男がいる。
一人は若く、おどおどしている男。
もう一人はしくしく泣いている老人。
老人は言った。
「どうして…あんなに毎日お世話したのに…しくしくしく」
男は言った。
「だから、記憶喪失になってしまって…」
「ああ…どうして…しくしくしくしく」
老人は何時間も泣き止むまで泣き続けた…
泣き止んだ老人はようやく口を開いた。
「私は猟師でした。射撃の腕には自信があります。ライフルを一丁頂ければ100人のゴブリンを1時間以内に殺害できます。」
「いやなんでそんなタイムアタックみたいな事してるの…?」
「若い頃に周りの連中と興じていた遊びから得た技術ですよ、大したものじゃありません。」
「…多分ボルトアクションライフルでやった時の話だよね?」
「えぇ、私が生まれてこの方使っている銃はずっとボルトアクションです。」
「じゃあ、弾が連続で撃てる銃なんかがあったら…?」
「…ハハハ、そんなもの必要ないですよ。ボルトアクションで十分です。」
「…そっか、分かった。じゃあ他の人の分を「その必要はないぜ、若いの。」」
現れたのは数人の老人達、皆使い古されたボルトアクションライフルを持っている。
「ハハハ、これはこれは、どこから聞きつけたのかな、ハハハ」
さっきまで話していた老人は…口径が12.5mmくらいある謎の大口径ボルトアクションライフルを持ってやってきた!
「嘘でしょ…」
「ガハハ、こいつはガキの頃からこの銃を使ってやがるんだ。全くどうやって反動を受け止めてるのか…」
「身体強化魔法を使える者の特権ですなぁ、これは。」
銃を持ったムキムキ老人達に囲まれて生きた心地がしなかったが、すぐに新兵器が必要という訳では無くなったのには安心した。
それでも早く開発するに越した事はないから俺はフレイヤのいる港町キールに向かう事にした…
「あんの頭のおかしい顧客はお前だったのかぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「えええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
出会い頭にムキムキ眼帯職人爺さんに罵倒された、コワイ!
「ったく、最近の若者は職人を何だと思ってるんだ、何でも作れるものだと思ってやがる…」
「ごめんなさい、確かに説明が足りなかったかもしれない…」
「お?説明されれば作れるってか?子供の妄想を具現化できるのは子供本人くらいだぞ!!」
「あぁ、説明されれば作れると思うよ、特に迫撃砲は。」
「…迫撃砲の理論自体は分かった。45度以上の角度をつけた砲口から弾を装填してすぐに発射するって言ったら確かに簡単な構造だ。
だが、地面に反動を吸収させると言っても限度がある。反動を小さくするために砲口初速を小さくしないとならねぇ。放物線を描くなら精度も低くなるだろうし長い射程の武器にはできないだろう。器用貧乏な兵器になる事が目に見えてるぜ。分かったか?若造」
「あぁ、射程を長くする必要はないよ。前線部隊が自分の火力支援のために使う武器だからね。そしてライフリングを施せば精度もそれなりにはなるよ」
「…悪い、元は俺は民間の鍛冶屋でな。軍事関係にはあんまり詳しくないんだ、ハハハ。
だからライフリングの作り方もそこまで詳しくねぇが、それは俺の弟子が詳しい。ともかく射程はあんまり要らないんだな?それなら迫撃砲は作れるぜ。少数でいいなら今すぐ作れる。キールから帰る頃には用意できるぜ。」
「ありがとう、それで、機関銃の方は?」
「…あんたがぼくのかんがえたさいきょうの武器が欲しい訳じゃない事はよく分かった。だがそれは無茶だぜ。弾の装填には動力源が必要だ。銃の薬室の部品に魔導モーターでも使ったら作れるだろうし実際昔作った奴がいるが、それは大きすぎた。詳しい理由はしらねぇが大きすぎる武器は軍部が嫌がる。お前の望んでる『歩兵が携行できる部隊支援用の武器』は作れねぇ。」
成程ガトリングガンならもうあるのね。
だけど恐らく大きすぎるからワイバーンの空襲に脆弱で簡単に破壊されるから魔法障壁に守られていない城の外では使えないと。
銃オタではなかった俺はどうにかして銃の構造を思い出そうとして、大まかな事は思い出した。
「弾の装填に銃の反動は使えないの?」
「…成程、お前アイデアマンだな。」
そう言うと職人の爺さんはとつぜん紙を取り出して何かを描き込み始めた。
「バネとか使えば弾の排出もできると思うよ。」
「成程な、こんな感じか?」
爺さんが描き込んでいた図面を見てみると…
汚すぎて何が書いてあるのかあまりよく分からなかった。
「わりぃ、俺、絵を描くのは下手なんだ。」
「ま、まぁともかくどうしたら作れるか方針ができたならよかった。それも作れそう?」
「…時間がかかるな。何ヶ月か必要だ。」
「機関銃さえ数ヶ月で作れるのか…」
職人との話し合いが終わり、港町の魔導工房にいるはずのフレイヤに会いに行くと…
「殿下!!完成しましたよ!!!」
「うわぁ!」
なぜか紫色のインクが顔や体に付いているフレイヤは部屋に入るなりそう言って抱きついてきた。
フレイヤの方が体格が良いので押し倒された格好になった俺はキュンとした…と言いたい所だが普通に後頭部を打ったので脳震盪で気持ち悪かった。
「で、殿下?!申し訳ありません…」
「大丈夫だよ、むしろもっとやってほしい」
俺の言葉を無視したフレイヤはマイクラのエンチャント台のように書見台を中心にして本棚が書見台を囲むように並んでいる場所に小走りで向かい、書見台の上に置かれていた本を持つとドアの方に戻ってきた。
「これです!この回路を大砲に設定すれば目標に近づいたら空中で弾が爆発するので、対空砲として使えます!!」
「回路についてはよく分からないけどすげぇ、そんな簡単にVT信管が作れるのか…」
魔法を使える分野だけ文明レベルが違うんじゃないかと思った俺はこう聞いた。
「でも、お高いんでしょう?」
「はい!1000万ゴールドです!宝くじの当選金額くらいですね!」
1億くらいかな?高い。けど高すぎはしない。
「いいね、すぐ配備できそう?」
「回路に使うインクが不足しているので今は4門くらいしか用意できませんが、その4門はすぐに使えます!」
やったね、これでワイバーンどもをはんごろしにします。