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第三話 戦場の女神

あれから3日経過し、ついにその日が来た。


「全隊整列!」


副司令官に就いたフレイヤが兵士達に整列を命じる。

魔道騎士達は精悍な表情をしており、対照的に徴集兵達は今にも死にそうな表情をしていた…そりゃ毎日穴を掘っては埋めてたら疲れるか。


「では魔道騎兵はすぐに馬に乗って城壁の外に出てくれ。状況開始!!」


誰かがラッパでそれっぽい音を鳴らしている。テンション上がるなぁ。

パカラパカラと馬の蹄鉄が石畳を蹴る音を鳴らしながら魔道騎兵が城門の外に出て行く。

俺達は城壁の上から外を見る事にした。




城門の外は街よりもひどい有様だった。

道の石畳は砕けて、倉や小屋は瓦礫と化し、川沿いの畑のそこら中に砲撃の跡のようなクレーターが残っていた。

それでも太陽はいつものように西から登ってきており、右手の赤い森と相まって世紀末のような様相を…そりゃ異世界だから太陽も西から登るか。月だって何個もあったし。


「火球放て!」


魔道騎兵が馬を走らせながら一斉に剣を森の方へ向け、火の玉をその先に灯したと思えば剣を投槍器のような持ち方に替え、ブンと振って火の玉を投げる…そんな原始的なやり方だったのか。勝手に火の玉が飛んで行くものかと思っていた。

1小隊ちょっと、つまり5個の火の玉が森の方へと緩い放物線を描いて高速で飛んでいき、突然光ったかと思えば当たる直前に爆発して炎を拡散させながら森を焼いた。


「次弾装填!」


魔道騎兵達は剣の柄頭に付いているもう灰色になった宝石を取って捨て、代わりにオレンジ色の宝石を詰め、また剣を投槍器のように持って森の方へ向けた。


「放て!」


また同じ事の繰り返しだ。


そんな事を繰り返していたらそのうち彼らが作戦区域の外に出そうになった。すると彼らは左にUターンして瓦礫と化した倉や小屋といった農耕地帯特有の建物の裏を馬を走らせて城門の方に向かって来た。


「第二波出撃!」


今度は次の部隊が城門の外へ駆けて行った。




そうしている内に低かった太陽は高くなり、それが頂天に来たあたりでようやく事態が動き始めた。


「装填!」


何十回も、何百回も火の玉を投げても疲れを見せない魔道騎兵達が次の宝石を装填しようとした時だった。


ピュンピュンという何かを弾く音が聞こえたと思えば魔道騎兵達は急に引き返し始めた。


「見えた!あの集落の方向だ!」


左手を耳に当ててインカムで話すように通信魔法を使う先頭の魔道騎兵。


「攻撃目標イの六!方位270!」


魔法砲兵達はその声を聞いた瞬間に砲に2Lのペットボトルくらいの大きさの宝石を装填し、先に大きな青色の宝石が付いている巨大な魔法の杖のような砲の仰角を上げ始めた…大きさ的に小さめの榴弾砲のようなものだろうか?そこまで威力は大きくなさそうだ。

そう思っていた。


「射撃準備よし!」

「撃て!!!」


耳が痛い、割と本当に痛い。爆音というレベルではなかった。大砲と違って高音だったので頭もキンキンする。


「…ク殿下!ジーク殿下!聞こえますか!!」

「フレイヤ?」

「次撃つ時は!!離れるか!!耳を塞いで口を開けてください!!!」

「あぁ、わかった」


だからこんなに痛いのね。


「だんちゃーく」



「今!」


しばらくして爆発音が遠くから聞こえた気がする。さっきの爆音のせいであまりよく聞こえない。


「微調整!北東に3メートル!」


なんでメートル法使ってるのか非常に気になるが、それより耳が痛すぎてそんな事はどうでも良い。


「わ!殿下鼓膜破れてる!!血が出てますよ!!」


まじかよ。


「悪い、後は訓練通りにフレイヤが指揮してくれ…」

「分かりました!」


同時に魔法砲兵のうちの誰かがハンカチをくれた。優しさが身に染みる。


右耳にハンカチを当てて止血しながら作戦の進行を見守る事にした。





1時間程度砲撃が続いた後、ついに歩兵部隊が背嚢にスコップを付け、腰に剣を下げながら小銃を持って現れた。


「いや君ら銃使うのかよ。剣と魔法の世界じゃないの?」

「殿下、今どき剣と魔法しかないのは魔王軍くらいです…」


剣と魔法の世界というよりは18世紀の軍隊みたいだ。軍服ではなく鎧を着ているようだけど。


ピーと笛がなったかと思えば

「ばんざぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!!!!」

「とつげぇぇぇぇぇき!!!!!」

「殺せぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「ヒャッハァァァァーーーーーー!!!!!」


恐ろしい叫び声を上げながら歩兵部隊が突撃し始めた。


「ひぇぇぇぇ、俺が敵じゃなくてよかった」

「殿下が敵だったら我々が砲撃を食らってましたよ…」


次第に銃声が聞こえ始めた。近接戦闘が始まったのだ。

時々人間の叫び声と…動物の鳴き声のようなものが聞こえる。


城壁の上から戦いの様子を眺めていると敵の人影が敗走し始めた。そろそろ頃合いか。


「魔道騎兵!突撃開始!」


一個中隊、つまり13騎の魔道騎兵達が一斉に突撃した。蹄鉄が土を抉る音が地面に響く。

すると敵は本格的に敗走を始め、逃げ出そうとして背中を撃たれている者が続出した…なんか敵の肌緑色じゃね?ゴブリン的なアレなのか?


「敵が敗走しています!勝利です!」

「まだ勝っちゃいない!斥候を前線に出して敵の逆襲を警戒しながらすぐに塹壕を掘らせるんだ!」


そう、まだ勝ちではない。これからやってくるであろう反撃を退けなければまた奪い返されるだけだ。



そのうち日が暮れて夜になった。




「塹壕の構築が完了しました!」

「よし!兵士たちを休憩させるんだ!だが斥候に警戒を怠らせるな!」


反撃が来るのはおそらく深夜だろう、0時を過ぎたら斥候も交代させてとにかく警戒を怠らないようにしなければ。


「俺もちょっと仮眠を取るとするかね、フレイヤ達も通信魔法を誰かに交代して休憩するんだ。」

「了解!」


緊張していて気づかなかったが、大分疲れている。目を閉じただけで眠気が…
















「…下、殿…下……」




むにゃ…後5分だけ…

ドカンと直後に爆発音、俺は鼓膜が破れたトラウマで飛び起きた。

「殿下!敵襲です!敵が魔法砲撃で我が軍を攻撃しています!」

「敵の砲兵の位置は?!」

「今探しています!!………ん?……!!!、確認しました!反撃します!」

「連中を木っ端微塵にしてやれ!」


左耳まで破れたくないので今度は大砲から離れた。正直大砲がちょっとこわい。


ドカン、ドカン、ドカンとカンの部分を強調したような高い爆発音が連続して続き、砲弾が敵の砲撃陣地目掛けて発射されていく。


しばらくすると遠くの空から聞こえていた発射音は止み、陣地から上がっていた煙も晴れた。


「敵砲撃陣地沈黙!恐らく無力化しました!」

「これで敵も攻撃を思い留まればいいが…」




「………!!!、斥候部隊より!敵が突撃を開始したとの報告!!」

「なんで?!準備砲撃が失敗してるのに?!!」


よく分からないが、敵戦力漸減の絶好のチャンスだ。


「…できるだけ沢山の砲弾を撃て!!味方陣地に当てるなよ!」

「了解しました!」


またドカンと高い爆発音、もうやだこの音。

しかしこれがなければ味方歩兵部隊は全滅してしまう。仕方ないね。

今はただ敵の突撃の失敗を祈っていた。


「味方歩兵部隊の射程圏内に入りました!」


遠くからバラバラな銃声が聞こえ始めた。彼らが持っていた小銃はボルトアクションライフルのような見た目だったので、多分そうなのだろう。

後装式の銃があるのにどうして魔法式でない火砲を作っていないのか理解に苦しむが、まぁそれがこの世界の常識だったのだろう。


「…敵突撃部隊壊滅!今度こそ勝利ですか?!」

「あぁ!我々の勝利だ!!」


遠くから万歳三唱も聞こえる、なんでヨーロッパ風なのに万歳三唱しているのかよく分からないが、とにかく我々は勝ったのだ!

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