第二十話 海の向こう
久しぶりに刺身を...正体不明の魚の刺身を食べながら俺は一つの疑問を抱いた。
「そういえば、ここ以外にも大陸はあるの?漁をしていた時に遠くに陸の蜃気楼みたいなのが見えた気がしたんだけど。」
「...そういえば私も知りませんね。何があるんでしょうか?」
フレイヤは知らないようだ。だがアグネスは知っているようだった。
「...知りたいかい?」
なぜかアグネスは暗い目になっていて、気づけば周りでガヤガヤ騒いでいた人々も消えていて、静かな浜辺で波が打ち寄せる音と焚火がパチパチ爆ぜる音だけが聞こえた。
「知りたい。」
「好奇心旺盛だねぇ、人類は魔族よりも好奇心が強いと言うが、まさかこれほどとは。」
「じゃあ、何があるか教えてあげるよ。ちょっとそこに居直ってくれたまえ」
そう言うとアグネスは突然俺の胸にその細長い指が5本付いた手を当ててきた。
「ちょアグネス誰もいないとはいえまず「そういう事ではないねぇ(威圧)」アッハイ」
すると俺の頭の中に...焼けている、現代風の街のようなものが浮かんできた。
「これは魔族風の...おとぎ話のようなものさ。こうやって魔法で映像を伝送して、内容を話すんだ...そうすれば人間の伝承と違って、正確に後世に伝わるからねぇ。
これは紀元前10000年前程度の...この大陸、ユーリパ大陸のすぐ近くの大陸、アウッリサ大陸にあった都市の映像と言われている。
この炎は何だと思う?
…そう、核撃魔法の炎さ。」
映像が切り替わって、白衣のようなものを着ている人々が格納庫の中に並んだ無数のロケットを眺めている映像に切り替わる。
「これが核撃魔法輸送システム...俗にいう『死の手』さ。実際弾頭部の形が中指を立てた手のように見えるだろう?」
「これいわゆるファッ「それ以上いけないよ」アッハイ」
「まぁ意味合いはそれと同じようなものさ。複雑な魔導回路を使って核撃魔法を発動できる装置を自動で起動する。」
「こんな兵器を持っていた超大国があったんだ。その国は魔王領と同じ魔族を中心とした国で、この世界全てを支配していたしなんなら別の世界に行く方法さえ研究していた。
だが、その苛烈な統治政策は各地で反乱を誘発し、そのうち反乱勢力が死の手の一部を確保してしまった。
そして起こったのが、核撃魔法戦争さ。」
映像はまた切り替わって今度は赤い森が見える...王都の北側にある土地だ。
「これが赤い森だねぇ...もともとはこの森も青かったんだ。だが、核撃魔法戦争が生じる『呪い』の影響で赤くなってしまった。原因は現代の魔導科学では分からないねぇ。」
「赤い森とか典型的な植物の放射性障害じゃん…何で一万年も経って治らないの?」
「それはこれが放射性物質を崩壊させてエネルギーを作るのではなく魔素を崩壊させてエネルギーにしているからだねぇ…その結果生成される魔素の同位体は分解者の生物を殺すとともに物質の状態を保存する働きがあるんだ。まぁ詳しい事は分かっていないが」
「なんでアグネスそんな事知ってるの?」
「昔は…一応、科学者の端くれだったからねぇ。」
「物質の状態を保存するなら、食べ物の保存とかには使えないの?」
「…ハッハッハ!!!!やっぱり君は中々おかしい人だねぇ!!…まぁ、私もその分野の研究をしていたんだが…
実際そうだねぇ、魔素は食べ物の…たとえば、さっき干物にした魚の保存にも使える。
だが同時に有害な放射線も放出する。だから使えるとすれば中性子を減速できる水に沈めたら使えるねぇ。まぁ私の故郷には海も湖も無かったからこの発見は役に立たなかったが、ここなら海があるから役に立つかもしれないねぇ。」
「それはありがたい、早速作ってもらえないか?」
「作りたいのは山々なんだが…あいにく作るにはその魔素の同位体が必要なんだ。それを取りに行くには魔王軍に占領されている赤い森に行くか、さもなくば海を越えてアウッリサ大陸の廃墟街に行くしかないねぇ。」
「じゃあ行こうよ。それだけの価値はあるし」
「…そうだねぇ、行こうか。」
明朝、俺とアグネス、そして数名の護衛の猟兵達はワイバーンに乗って朝日を横目に見ながらアウッリサ大陸へ発った。
「…そろそろ見えてきたねぇ、あの灰色の大地がアウッリサ大陸さ。」
「おぉ、見事なコンクリートジャングルだ。懐かしいなぁ」
眼下に広がる海の水平線の先に現れた陸地は灰色で、コンクリートに覆われていた。
「…なんかあの丘もぞもぞ動いてない?」
「あぁ、あれは無人陸上巡洋艦だねぇ。」
「無人陸上巡洋艦?!」
「そうさ。最終戦争時に運用されていた無人兵器の一種で、都市を踏み潰しながらその対空兵器で制空権を奪取し、戦艦級の大砲で陸上のあらゆる脅威を掃討する兵器さ…運が悪ければこっちを攻撃してくるが、どうやらアレはもう故障しているみたいだねぇ。もし正常に動いていれば既にマジックアローを撃たれているはずだ。」
「他に無人兵器はあるの?」
「ある。小型の筒型の飛行物体はよく飛んでいるねぇ。それは大抵の場合まだ正常に動いているから注意が必要だねぇ」
「それは何かしてくるの?」
「侵入者の位置情報を通報して空から砲火を降り注がせるねぇ…そんなに怯えなくて大丈夫さ。そのためにこの通信阻害装置を持ってきたわけだからね!!まぁ、あまり魔素原の魔法石を持ってきていないから長居はできないけどねぇ。」
ワイバーンを埠頭に着陸させ、サドルから降りる。
「恐らくこの土地に入る人間は数年ぶりだろうねぇ…その中でも生きて帰れるのは数千年ぶりさ。」
あちこちからドローンのようなもののプロペラ音が聞こえる。曇り空とコンクリートに覆われた、苔むしているビル街を眺めているとアグネスに手を握られた。
「さ、この街の魔素タンクはこっちさ。早く来るんだ。」




