第十四話 不審者
あれから3ヶ月程度が経った。
「殿下、食事をお持ちしました。」
「あぁ、ありがとうフレイヤ…別に体の怪我じゃないから自分で運べるのに…」
俺の言葉を無視してなぜか食事をスプーンで掬い俺の口に入れようとしてくる、まぁ食べるんだけどさ。
「いつもありがとうねフレイヤ」
「うぇっ?!殿下?!急に何を…」
「ふふっ、急に嬉しくなってさ。」
フレイヤはかわいいなぁ。ほんとすき。
まぁ恋人でもないのでずっと一緒にいる訳にもいかず、フレイヤは通信魔法で部隊に指示を与えるために通信室に篭ってしまった。
その間俺にはやることがない、だが、暇である事を俺は嫌とは思わず、むしろ嬉しいと感じる。
戦場にいる間は一分一秒が大切だった。しかし、今は違う。流れる時をそのままに受け入れる事ができるのはひどく贅沢な事に思える。
ほら、外の音を聞いてみれば、鳥が囀る音、風が木々を撫でる音、そして、ガラスを割る音…ガラスを割る音?!?!?!
音のした方を向けば、そこには茶髪ウルフカットでツノと硬そうな尻尾が生えたかわいい…竜人って呼ぶのか?どう呼べば良いんだろう。
「あぁ、私は君の命を取りに来たわけではないよ…どちらかといえば、命を作りに来たんだ…
さぁ!ズボンを脱げ!私とシろ!」
「いや突然何を言い出すんですか、あなた。」
俺は困惑した。なぜ俺がこんな美人な痴女に狙われているのか、どうやってフレイヤの別荘の魔導障壁を越えたのか、聞きたい事は沢山あったが、それを聞く以前にとりあえず彼女が俺のズボンを下ろそうとしているのを止める必要があった。
「ちょマジでやめて恥ずかしい!というか全国放送できなくなる!!放送コード引っかかる!!!」
「うるさい早く脱げ!早くしないとあの大魔術師が…」
「殿下、どうしたんですか?、通信に音が入るくらいうるさいで…」
フレイヤはあんぐりと口を開け、驚いている様子だった。そりゃあこんな男に女がのしかかり、今にも『プロレスごっこ』を始めようとしているような体位になっていたら…
「わ゛だじの゛ジーグに゛な゛に゛じでや゛がる゛!!!!!!!!!!!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょちょちょフレイヤまって俺にも当たってる」
10本の指から同時に謎のビームを出しているフレイヤは部屋中をビームで焼き払っている。
謎のウルフカット女は謎の機動力で空中を飛んで回避しているが、どうやら両方とも俺の存在は忘れているらしい…
「あっぶねあれ当たってたら死んでたの?」
「まぁ全治3ヶ月と言った所ですね。」
「…マジ?」
「もごもごもごもご」
謎の女はフレイヤに拘束されてもごもご言っている。
「こいつはどうするの?」
「できれば今すぐ焼いてやりたい所ですが、ジーク様が見ている前なので王国軍に引き渡す程度で済ませてやります。」
「やめろ!捕虜虐待だぞ!!」
どうやって猿轡を外したのか分からないが、とにかく何か喋っている。
口元に灰と炭がついているのでもしかしたら焼いたのかもしれない。
「へー、口から炎が出せると。なら竜人ですかね角と尻尾もあるし。……ん?…もしかして…」
「どうしたの?」
「殿下!もしかしたらこいつ魔王軍のゲルマー方面軍の元指揮官かもしれません!!!」
「いかにも!私は元魔王軍ゲルマー方面軍元指揮官!黒龍の娘 アグネス・フォン・シュタインだ!それに、ワイバーン部隊でなら今でも指揮官だぞ!」
「どうしてそんな人がこんな所に?」
「王国に亡命して暇だったから私を粛清に追い込んだ張本人とされる王国軍の指揮官殿に会いに来ようと思ってな!!他意などないぞ!!!」
「つまり、殿下に色仕掛けして指揮官に返り咲こうとしてたんですね。」
ち、ちがぁうと否定しているアグネスだが、図星のようだ。
「悪いけど、俺はフレイヤとローザリンデ一筋だから。」
「いや私の胸を見ながら言っても説得力がないだろう、それに二筋だし。」
「というかアグネスは何があって粛清されそうになったの?魔王軍は城壁を突破するくらい強かったじゃん」
「…お前が私のワイバーンを一騎撃墜した上に街に突入した主力重部隊を叩き潰したからだな。ワイバーンは空を飛んでいたし主力重部隊にはゴーレムが配備されていたのに、どうやって倒したんだ?」
「あぁ、対空砲を使ったからだよ」
「…対空砲?」
魔王軍は対空砲の存在を知らなかったらしい。
対空砲について説明すると…
「…アハハハハ!大砲に私のワイバーンは堕とされたのか!!大砲を重視しているのは私だけかと思っていたぞ!!!」
「お、もしかして突然魔王軍が城攻めに大砲を使い始めたのは…」
「うん、私がデキムスの代わりに配属されたからだねぇ。もう既にデキムスには会ったことがあるかと思うが、前から何度も会戦で敗北していた上に改善する見込みもなく、自慢の戦闘力さえもジーク君との戦いで無くなっている事が証明されたから、デキムスは粛清されたんだ」
どうして魔王軍も王国軍も粛清ばっかりしてるんですか?
「いやぁ、将校達に大砲を使うよう説得するのは大変だったよ。流石に空飛ぶ砲兵のワイバーンに及ばずとも非常に強力な兵科なのに、どうして使わなかったんだろうねぇ?お陰で私は将校達から恨みを買って自分の粛清を早めてしまったよ。」
「どうして魔王軍はすぐに士官を粛清するの?」
「魔王軍の最高司令官が魔王に脅されているからだねぇ。魔王はゲルマー王国領の素早い制圧を望んでいて、戦力もゲルマーにほとんどを割いている。なのに制圧が遅い事に魔王は相当お怒りのようで、司令官に指揮官を粛清する事を許可した代わりに一年以内にゲルマー全土を征服しなければ司令官を粛清すると脅しているんだ」
「どうしてゲルマー王国領にこだわるの?オーハン王国領でもいいじゃん」
「オーハン王国は魔王の理想に合っているから攻められていないだけだねぇ。魔王の理想は『全ての種族が平等に暮らす世界』で、それをオーハン王国は体現している。そもそも元はと言えば侵攻してきたのはゲルマー王国の方なんだから、魔王領に併合されて当たり前だろう?」
「魔王っていったいどんな人「おっと、私は尋問されに来た訳ではないから、もう答えないよ。今度は君が答える番だ。」」
「...君、私が暇な時に話し相手になる気はないかい?」