第十三話 お前は、もう既に死んでいる!
翌日、俺は王宮…ではなく臨時王宮である地下壕に呼び出された。
中には砲兵団長としてフレイヤと最高司令官、初めて見る飛竜飛行団長、騎士団長、そして玉座に座る王がいた。
その部屋の中で土まみれの玉座だけが豪華で、部屋全体の見た目と比べていびつな印象を与えた。
王は突然早口でよく分からない事を捲し立て、最後に「だからワシは悪くない!!」と宣言した。
部屋の中はシンとした、が次の瞬間、沈黙を破ったのは騎士団長だった。
「そ、そうですよ!!ジーク君がこの事態を招いたのであって、王は全く悪く「黙れクソッタレ!」」
そう叫んだのは飛竜飛行団長だった。
「俺の部下を殺しまくったのは誰だ?!俺の飛竜達を堕としたのは?誰だ?!」
誰かこそ言わなかったが、これが国王批判である事は明白だった。
それに最初に同調したのは…
「うん、うん、飛行団長の言葉には、実際に仲間を失った重みがありますね、えぇ。」
最高司令官だった。
フレイヤは沈黙を保っている、恐らく俺の意見に同調するつもりだろう。
俺の次第でこの場の結論が変わる、王につけば2対4だし、司令官についても2対4だ。
王からは俺に罪が着せられているが、ここで王に味方すれば取り消してもらえる可能性もある、なぜなら王が暗殺される危険は消えるんだから、俺に罪を着せる必要もなくなる。
一方で最高司令官に味方すれば俺の立場は確実に良くなるが、王を暗殺なんてすれば下手すりゃ内戦になる。
そうなればこの戦争に負けるだろう、そうなれば全ておしまいだ。
それはそれとして、正直こんな権力闘争に関わりたくないという気持ちもあった。
俺が出した結論は…
「…民衆に任せましょうよ。王が民衆の前に出て、なぜ魔王軍に侵入されたか説明すればいいじゃないですか。そして、俺が悪いか王が悪いか決めてもらえばいい。」
直接手を下さずに実質王を殺す方法を選ぶ事だった。
「…そうですよ!王は信頼が厚いから、説明すればきっと納得してもらえるはずです!!」
「うん、私もフレイヤ君に同意します。」
フレイヤと司令官は同意している。
「そ、そうです!王の信頼を前に些細な疑念は吹き飛びますよ!」
騎士団長もなぜか同意している、何か勘違いしているのか?
「…そ、そうじゃな、ワシが民に説明すれば、納得してもらえるはずじゃ!!」
翌日、王は暴徒化した民衆に撲殺された。
「…結論として、元軍最高司令官である私は今ここに、新たなる王国の成立を宣言する!終わり!!」
民衆からは何の反応もない、愚かな王からの圧政から解放されたのは嬉しいだろうが、後釜も決して良い者ではないからだろう。
「ジーク君、君のアイデアには感心したよ。褒美と言ってはなんだが、君に新しくいくつか部隊を配属しよう。」
「はっ、ありがとうございます。司令官…いえ、新国王。」
こんな権力闘争に付き合って何になるというんだろう?
俺は正直もう耐えられなくなっていた。
砲撃の音も嫌いなのに毎日聞こえるし、爆撃のせいで夜も眠れない。
怪我人のうめき声は耳に残るし死体の断面は夢に出てくる、何ならフレイヤが死ぬ夢だって何回も見た。
もう戦いたくない。何も見たくない。何も聞きたくない…
俺はそうフレイヤに相談した。もう自分の中からは何も解決策が出なかったからだ。
「殿下…頑張られたのですね…」
そう言ってフレイヤは抱きしめてくれた。いつもなら嬉しかったのに、今は何も感じない。
「…殿下には休みが必要です。一度私の別荘がある双子三日月島に休暇を取りに行きましょう。部隊だって連戦で疲れているはずです。部隊も港町まで連れて一度休みに行きましょうよ…」
「…それがいいのかな…そうしよう。フレイヤ、後は任せたよ…」
その後の記憶はあまりない。気づいたら俺はフレイヤの別荘のベッドの上で、仰向けに寝そべっていた。
久しぶりに静かな環境だ。部隊は港町に置いてきたから訓練の音もこの島までは聞こえない。
ただ窓から入ってくる月の光と暖炉の炎の赤色だけが部屋を照らしていて、音は暖炉のパチパチと炭が爆ぜる音以外何もなかった。
「殿下、入りますよ…」
「殿下は、本当に頑張られたと思います。」
「私も軍人ですが、国のために精神をそこまで酷使できる人間はそう多くありません。」
「だから、今だけは…」
「私も、あなたも………」