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第十二話 高射砲でゴーレムを撃つのは卑怯ですな

トンネルの中にいてもドンドンと激しい空爆の音が聞こえる、そのたびに机の上にパラパラと土や埃、時々小石が落ちてくるから少なくとも快適な環境ではない。

だが地上にいて空爆の餌食になるよりは遥かにマシなのだろう。

主に空爆の対象になっているのは前線であるレーン川左岸の旧市街、そして右岸にある王宮だ。

今頃王は何をしているのだろうか?この激しい空爆の中で改心していればいいが…


旧市街の民間人は既に全て避難したか、さもなくば死んでいる。だからこちらも一切手加減する事なく戦う事ができるが、それ以前に空爆が終わってくれないと話にならない。


侵攻前は王国軍もそれなりに強力な飛竜から成る空軍を持っていたようだが、今やほとんど消滅してしまっているようだ…いや、キーレあたりにならまだいるのかな?キーレの静かな砂浜が恋しい。少なくとも今の爆発音ばかりの状況よりはマシだろう。


トンネルの中には民間人も避難しており、彼らは震えている、文字通り、そして比喩的にも。

寒さで震えているし、怒りで震えている。


「クソ…魔王軍め…魔王軍め……」

民間人のうめき声にも似た声は魔王軍への憎しみを物語っていた。


そういえば、もうすぐ冬らしい。王国は日本に比べて寒いので、冬はもっと寒いだろう。

この寒さが魔王軍を止めてくれたらいいのだが…









どうやらちょうど今、敵の主力部隊が街に侵入したらしい。

俺はフレイヤの情報魔法装置を借りて、また同じアーブラハムの視点からそれを観察する事にした。




「まだだ…まだ撃つなよ…」

「アーブラハム、お前の握ってるその紐が俺達の命を握ってるんだからな。命綱と思えよ。」


彼らは半壊した石造りの家の中にいるようで、屋根のおかげで空爆から逃れているようだ。


「まだだ…まだだぞ……」




「よし!今だ!!引け!!!」


マイクが音割れするほどの大きな爆発音、大きめのIEDを使ったのだろう。


「撃て撃て撃て!」

「アーブラハム!よくやった!さぁ撃つぞ!!」


パン、パンと銃声が響き始めた。

しかし、今回は敵の種類が違った。


「クソ!弾が弾かれる!」

「アイツ以外を狙え!アレは対空砲がなんとかする!」


魔物達の中心にはゴーレムがおり、銃撃をものともせずに堂々と…片足で立っている。どうやら左脚はIEDで破壊されたようだ。


「アイツ、馬車を持ち上げて…!来るぞ!!!」


ゴーレムは馬車を持ち上げたかと思うとこちらへ向かって投げてきた。

幸い木製の馬車だったので馬車の方が壊れたが、これが大岩だったらアーブラハム達は死んでいた。


「対空砲!撃て!今すぐ撃て!!」

「装填完了!発射!!」


ドボンという爆発魔法が岩を穿つ音が響き、ゴーレムはよろめき、倒れた。


「今だ!火炎瓶だ火炎瓶!!」


スピリタスというラベルのついた酒瓶の口にタオルを詰めた、いわゆる火炎瓶のタオルに火をつけると彼らはゴーレムの目の部分にそれを投げつけた。


ボッと火がついたと思えば頭頂部からハッチを開けて数体の…コボルトのようなものが焼けながら出てきて、地面の上を転がり回った末にライフル兵に射殺された。


まじかよ魔王軍あんな装甲兵器を持ってたのか、なんで大砲を付けないのか理解に苦しむが、それでも大きな脅威だ。

後で構造を解析すれば何か役に立つかもしれないが、この空爆の中では不可能だ。


そんな事を考えながら情報魔法装置の映像を眺めていると…




「こ、こやつだ!!!こやつが王都への魔王軍の侵入を許した張本人だ!だから、わしは悪くない!!」


突然誰が何を言い出すのかと思ったら、納得した。王だ。

後ろには軍の最高司令官とその護衛が数人いる。


「これはこれは、こんなトンネルまでご足労おかけして…」

「し、知らないふりをするというのか!このバカめ!この王がこやつの言葉が嘘である事を証明する!!」

「…陛下、分かりました。彼には処分を下しますので、王宮にお戻りください。」

「わ、分かったな?!ワシは悪くないからな!!」


王は足早に部屋から去っていった。

正直民間人の視線が痛い、なぜ俺が悪い扱いされているのか。というかこのままだと下手したら俺はこいつらにリンチされ…


「君が王都防衛軍の指揮官だね?苦労をかけて申し訳ない。君が悪くない事は知っているよ」


その言葉が発された瞬間俺への視線は敵意から微妙な感情へ変わった。そりゃあ王都への侵入を防げなかったとしても一応現在進行形で守ってくれている人に悪い態度は取れないだろう。

しかも俺は悪くないと言ってくれたのが大きかった。リンチされなくてよかった…


「正直私は王のあの態度には辟易しているんだ。実際の所、この戦争を始めたのは王だし、王都への侵入を許したのも王だ。君が悪い人なら王は大悪党だよ。」


司令官はまるで俺ではなくここの民間人に話しているように勝手に話を続けた…王を暗殺したいのだろうか?


「…うん、俺もアレはだいぶひどい人間だと思う。王がいなけれ…もっとまともなら、もっと有利な形で戦闘が進んだのにな。」

「お、君もそう思うか。私も同意するよ。王などいなければいい。」


王もかなりひどい人間だが、一見良い人間に見えるこの司令官もそれなりにひどい人間に見える。やたら意見を誘導しようとしてきている気がする…

それに、王に対する敵意が人一倍だ。かといって護衛が何人もいる事から隙があるようにも見えない…彼は王を暗殺しようとしていると言われれば、これらは全て合点がつく。


俺は適当に会話を切って別の部屋に移動した。正直あまり関わりたくなかった…

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