第十話 生きてたんかーい
ひとまずあのやたら強い魔王兵を追い払った俺達は村の周囲の警戒を始めると共に、猟師の爺さん達を土葬する事にした…火葬する必要はないだろう。
「ははは、その必要はありませんよ。」
あの渋い声が聞こえた俺は即座に振り返った、するとそこには…
「りょ、猟師の爺さん?!死んだはずでは?!!」
「残念でしたなぁ、トリックですよ。」
100万ドルポンとくれそうなセリフを言った猟師の爺さんとその仲間達はガハハと笑い始めた。
「いやぁ、まさかあの魔人はともかく王子達まで騙されてしまうとは、予想外でしたなぁ」
「騙されたね…」
「騙されました…」
フレイヤも死んだものだと思っていたらしい、そりゃあそう思うだろう。
「流石の我々でも魔人を倒すのは難しいですからな、その点王子達はよくやりましたよ。まさか追い払うなんて、あの時はもうだめかと思いましたよハハハ」
「なにわろてんの…」
「あの魔人は『暴虐のデキムス』、下級魔人の中では最下位の10位ですが、王国への侵略軍の指揮官はデキムスです。戦闘での腕はかなり立つ方ですが、頭はそれほどでもないというのがもっぱらの噂ですな」
「この世界にはあんな化け物がいるのか…」
「ほぼ互角に戦っていたフレイヤ殿も結構な化け物ですがね」
可愛い上に強いとかフレイヤ最強か?
そんなくだらない事を考えていたら、村が焼け落ちている事を思い出した。
「そういえば、あの子供達は無事なのか?」
「えぇ、無事です。先に逃しておいていましたからね。それにどうせ魔王軍に略奪されるくらいなら焼くつもりでした、手間が省けましたよ」
「君達に帰る場所とかはないの?」
「…どうせもうじきお迎えが来ます、よければ王子に同行する事をお許しいただけませんか?」
「喜んで歓迎するよ」
兵科の名前は…元猟師だから猟兵部隊とかそんな所だろうか?
「君達は猟兵部隊に配属する。活躍を期待してるよ」
歩きで王都に戻る途中で王都の方向から煙が昇るのを確認した俺達は斥候を出して確認を急ぎ、得た情報としては川の左岸である魔王軍が展開していた場所の城壁が突破されているということだった。
「ありえない…王都の魔導障壁はあんなに強力だったのに…」
そうフレイヤが漏らす、それもそのはずで前回王都から砲撃したのに反撃が来なかった理由は王都の魔導障壁があったからで、魔王軍さえ空以外から貫徹するのを諦める程度に強力なのが王都の障壁だった。
それを破壊する程の攻撃と言ったら、一体何千トンの魔法石を投入したのか…
「ともかく防衛だ、市街戦になるだろうから長いライフルは銃身を切って短いライフルに改造しよう。あと、迫撃砲兵は馬車の中で砲弾をIEDに改造しておいてくれ」
「IED?」
「即席爆弾の事だよ、きっと向こうで家の壁に穴を開けたりトラップを仕掛けたりするのに沢山使うと思う。ピンを抜いて起爆するものでいいから沢山作っておいて。」
非正規軍のやり方ではあるが、IEDは戦場で、特に市街地戦では役に立つ。
王都についた俺達は王都が大混乱に包まれていた事を知った。
「ジ、ジークよ!!!良かった!!生きておったのか!!!」
王は死ぬ前提で俺を送り出していたのだろうか?
「ぶ、部隊ならいくらでもやる!!この状況をなんとかしてくれ!!!あのバカ弟子は魔王軍に惨敗しよった!!もう粛清したが、それでも被害は甚大だ!!なんとかしてくれジークよ!!!」
「数個師団ください、それで十分です。」
「殿下!!徴集歩兵師団3個師団と前の師団と同じものも含まれている、攻城師団を2個師団頂けましたよ!!」
「徴集歩兵師団?なにそれ、どんな編成?」
フレイヤから手渡された書類を読む…なにこれ?肉壁か?
その師団の中身は歩兵大隊4個で一連隊が3個付いているだけの、まさに肉壁だった。
「俺がそんな血濡れた戦術を使うと思ってるのかな?まぁ銃口は多い方がいいけどさ…いやけど多分訓練もされてないでしょ、銃口以下だよこれ。」
とりあえず徴集歩兵師団には後方で訓練を施すとして、問題は攻城師団の充足率だ。
なにこれ残骸か?ひどい充足率だ。
両師団ともかつて6000人いた兵士は今や3000人程度に半減しており、指揮官はほとんどがとっくの昔に死亡して副指揮官が指揮していた。
ギャリー達とかは…まぁ、ダメか…
俺はあえて確認せずに書類を閉じ、二つの部隊を統合して一師団にするよう命令しておいた。
さぁ、家々の壁に穴を開けて、トンネルを掘って、IEDを仕掛けて…地獄の市街地戦が始まるぞ。