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白狼少女はかなわない  作者: 池田 条
6/6

決意

池田条です。少し遅れましたがやっと投稿できました。書きだめはないので少しづつにはなりますがこれからも書いていきます。それでは本編のほうどうぞ。

小屋の方からの急な銃撃に男がわずかにたじろぐ。ソラはその一瞬の隙を逃すまい男につかみかかろうとした。


「ちっ!させるかよ!」


だが、男は間一髪のところでかわすと、懐から何かを取り出し宙に放り投げた。それはソラの数メートル先で炸裂し、あたりに激しい光を放った。


「っ⁉うあっ、耳が……」


 半ば反射的ににソラは腕で体をかばう。だが同時に鳴り響いた音には対処できず、耳を襲った激痛に動けなくなってしまう。その隙に男は武器を抱え、脱兎のごとく森の奥へと走り去っていった。やがてソラも少しづつ耳が治り周りに気を配れるほどになったころには男の影も形もなくなっていた。


「してやられたね……これからどうすべきかな。はあ。」


 ソラは予想外の連続につかれた顔をしながらとぼとぼとアッシュの待つ小屋の方へと戻っていった。





ソラが小屋の中に入っていくと周囲への警戒を解き、窓枠に銃を置いたアッシュが心配そうな顔で寄ってくる。


「大丈夫だったか⁉どこかけがしてないか?」


「……助かったよ。ありがとう。君の助けがなければ危ないところだった。」


「そしてすまなかった。私が不甲斐ないばかりに君まで巻き込むことになってしまった。」


そういってソラは深々と頭を下げる。だが、アッシュの方はそのことについてはそこまで気にしていないようでむしろ今の状況の方に気まずさを感じているようだった。


「大丈夫だって。とりあえずは俺もソラも生きてたってことで良しとしようぜ。遅かれ早かれこの森に出入りするもの好きなんて俺ぐらいなんだから、いつかは巻き込まれてただろうしな。むしろソラが近くにいてくれたおかげで助かったみたいなところもあるしな。」


 今の自分が思いつく限りの励ましの言葉をかけたアッシュだが、この空気感は変わっておらず、何とか別の話題にしてこの空気を変えられないかと考えていた。少しの間気まずい沈黙が流れ、アッシュがふとソラの手元に目をやると、刀を持っていないことに気づいた。


「なあ、話は変わるんだけど一つ質問いいか?」


「?何かな。」


疑問に頭を下げながら答えるわけにもいかず、不思議そうにしながらもソラが顔を上げる。


「なんで遠距離の魔術とかは使わないんだ?魔術師ってのはもっと遠くから攻撃するものだと思ってたんだが違うのか?」


「普通はそうかもしれないけど、私の体質はちょっと特殊のようでね。私の体から生成物がある程度離れてしまうと形を保てなくなってしまうんだ。まあ実際に見たほうが早いね。」


そういってソラは手元にテニスボール大の氷の玉を生成するとアッシュの方に放り投げる。すると手から離れた氷の玉はアッシュとソラのちょうど真ん中あたりで空気中に溶けていくように消えはじめアッシュの目と鼻の先で完全に消えてしまった。


「ほらね。こんな感じで消えてしまうから飛び道具のような攻撃はできないんだ。一部だけでも私が触っていればこうはならないけどね。」


ほら、こんな風にとソラは手元から氷をひものように伸ばし器用にうねらせながらアッシュの前まで伸ばして見せる。


「へえ、魔術師にも不便なことがあるんだな。」


「まあね。もっと言えば生成物と私の接触しているところが少なくなると、その分魔力の通り道が細くなって、細かい動作には集中力が必要になるっていう弱点もあるかな。」


「そうか、やっぱり万能ってわけにはいかないんだな。」


「うん。だけど魔術っていうのは戦いのためだけにあるわけでもないし、これでいいのさ。それに一つの力に頼りすぎるのもよくはない。私ならある程度力もあるしね。」


そういうとソラはキッチンのほうに歩いていくとお茶を入れ始める。


「さて、私の話はここまでにして君のお父さんについて話していこうか。でないと一日が終わりそうだしね。さあ、そこに座って。」


アッシュは座るように促され、勧められるままに椅子に腰を下ろした。すぐにお茶を持ったソラがやってきてお茶を置くと、自身もアッシュの向かいに腰を下ろした。ソラはお茶を一口すすると落ち着いた表情でアッシュの父について話し始めた。


「君のお父さんについてだけど、力不足で申し訳ないんだけど私がわかっているのは彼はもうこの森にはいないということだけなんだ。とはいえ別に彼が死んでしまったってわけじゃない。ただ、探すならこの森じゃないどこか、ってだけなんだ。」


「もしかしたら森のどこかで何かにやられちまったんじゃないかとも思ってたんだがそうじゃないのか。」


「ああ、これは信用してくれていい。私がいくら探し回っても彼の気配も残留物も一切見当たらなかったからね。彼は時々ここに来てくれていたんだけどある時から急に一切顔を見せなくなったからさすがにおかしいと思ってね。少し時間はかかったけど森中を探し回ってみたんだ。だけど服の断片とか銃とかの遺物は全く見つからなかった。それに生きているなら危険な獣のいる森で銃を撃たずにいるのはほぼ不可能だ。だから彼はこの森にはいないし、死んでもいないと判断したんだ。」


それを聞いてアッシュは安堵したような表情を浮かべる。そんなアッシュをソラは悩ましげな顔で見つめていた。


「……ねえ、アッシュ君。君がこれからどうするつもりなのか私に教えてくれないかい?」


「そうだな……親父この森にはもういない。だけど死んだと決まったわけじゃないんだろ?なら、俺はまだ親父をあきらめるなんてできない。今度は遠くにでも言って探してみることにするさ。」


「これからはさっきの奴らみたいなのに命を狙われることになるんだよ?それでもかい?」


「ああ、確かに死ぬのは怖いが、この森で生活してれば命の危険なんて日常茶飯事だったしな。それに、このまま森に居たってやつらの影におびえながら死ぬだけじゃないか。だって最後にソラを見たのがここなんだからならここに痕跡がないか探しに来るだろ?ならやりたいことやっておいた方がいいと思うんだ。」


「そっか、どうせ死ぬならやりたいことをやる、か……」


ソラは小さくそうつぶやくとで何やら考え込みはじめる。アッシュもその雰囲気に何か口を出すこともできず刻々と時は過ぎていき、アッシュがお茶を飲み終えようとしたころ、ようやくソラが覚悟を決めたように顔を上げた。


「アッシュ君。その旅、私もついて行かせてもらえないかな?」


「本当か⁉そいつはありがたい。だがいいのか?君にとっても危険な旅になるんだろ?」


「そうだね。でもここもばれてしまったし、君の言うようにここに居たって危険なことに変わりはない。それに彼らは君を殺さないといっていたけど、ほかの追っ手がどうかわからないしね。君が関係していることは伝わっているだろうからさ。そんな他の追っ手から守るくらいはしないと私の気が済まないんだ。」


「それにこれといった目標がない私と違って、目標が定まっている君を手助けしたいんだ。それに考えたくはないけど一切情報がないってのも気になる。もしよくないところに君のお父さんがかかわってしまったなら私の追っ手から聞き出せる情報もあるんじゃないかな。」


「あー。その可能性もあるか。だが、まあ、正直言えば常に命を狙われながら一人で親世界中を旅するのは不安だったからソラが来てくれるのはありがたいよ。」


「それはよかった。戦いのときは私に任せてほしい。今回の後じゃ信頼できないかもしれないけど、いざとなれば命に代えても君を守ると誓おう。」


「そいつは心強い。だけどそんな時になったら俺を頼ってくれよ?前衛は無理だが、後ろからソラの援護をするくらいはできるからな。きっとその一手が戦況を変えることもあるはずだぜ。」


「……そうだね。じゃあその時になったら遠慮なく頼らせてもらうよ。私だって死にたがりではないからね。」


そういうソラの顔はどこか嬉しそうな顔をしていた。それは孤独感の解放からか、はたまた狭い世界からの解放による歓喜からか。ソラ自身もそのどちらかは分かりかねていた。しかし1つ確かなのはこれからの彼女に待つのは新しい世界だということである。


「じゃあ、これからもよろしくな。」


「うん。こちらこそ。」


ソラは目の前に差し出された手を強く握り返す。まるで人はこうも温かいのかと再認識するように。そうして2人の慌ただしい1日は終わりを迎えたのだった。

誤字脱字など見つけたら報告をお願いします。また感想もお待ちしていますので気が向いたときにでもお願いします。それではまた今度。

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