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白狼少女はかなわない  作者: 池田 条
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訪問者

戦闘シーンをどう書いていいかわからず苦戦してしまい時間が空いてしまいました。申し訳ないです。それでは本編をお楽しみください。

 外に出たソラを待ち受けていたのは、小屋の前に広がるちょっとした何もない空間にに立ち入ろうとするライフルや剣で武装した10人ほどの男たちだった。彼らは音を減らすためにか鎧を胸あてや腰あてなどの一部に絞っており、中には鎧を全く身に着けていないものまでいた。ソラの目の前にいた11人目の男は、扉を破ろうとしていたのか目の前に現れたソラを前に、針金のようなものを片手に呆然と見上げていた。


「こんなところまでご苦労様。それで、何か御用かな。」


 ソラはあきれたような顔で男たちをにらみつける。近くで呆然としていた男はここでようやく危険を感じたのか、素早く後方に飛びのいた。ほかの男たちも、若干慌てた様子ながらソラを中心に扇状に展開し、各々持った武器を構えなおしていた。

 その場に一触即発の空気が漂う中、一歩ほど後ろに陣取っていたリーダーらしきひと際ガタイの良い男が口を開いた。


「嬢ちゃん俺たちによく気付いたな。すげえよあんた。」


「…それだけ人数がいたらいくら一人一人が気配を消しても完全には消しきれないんじゃないんかな。それで?こんな所まで何か用かな。」


「なんとなくわかってるんだろ?手に物騒なもん引っ提げてきてんだらよ。なあ、その武器捨てておとなしく捕まってくれよ。どうせ多勢に無勢、勝てるわけはねえ。こっちだってできるだけ楽に仕事は終わらせてえんだ。」


と、軽薄な口調で話す男。一見すればこんな何も考えてなさそうな男など取るに足らないと思うだろう。だが、ソラはこの男に油断などしてはならないと考えていた。男の顔は油断しているかのように緩み、左手はソラを挑発するようにひらひらと動いていた。しかし、そんな動きとは裏腹に、目はソラのほうを見据えて動かず、右手はさりげなく腰のリボルバーをすぐに抜ける位置に構えていた。


「どうだ?嬢ちゃんは痛い思いをしなくて済むし、俺も仕事が簡単に済む。どっちもハッピーで終わり、いいと思わないか?」


「……悪いけど断らせてもらうよ。それに、君もここまで来ているんだ、もう簡単なんて言えないぐらいの仕事じゃないかい?それこそ私で鬱憤を晴らしたいぐらいにはね。」


と、ソラはここに来るまでにいろいろあったらしくいら立ちを隠しきれない男たちを冷めた目で見まわすと軽くため息をついた。リーダーの男は思いのほか挑発的な発言にあっけにとられていたが、少し間をおいて勢いよく吹き出した。


「アッハハハ!断るだって?この状況でよく言えるなあ嬢ちゃん。鬱憤だって?そりゃあ、たまってるさ。思ってたよりも獣どもがわんさと襲ってきてよ、さんざんな目に遭ったぜ?」


 ここで男の雰囲気が豹変した。口元からは嫌な笑みが消え、左手もいつの間にか腰のダガーを握っていた。その姿はさっきまでへらへらしていた男の気配はみじんも感じさせない。それどころか、冷酷で恐ろしい雰囲気を漂わせていた。


「だがよ、それでもこっちの装備はまだ残ってる。それでもやるってのか?」


 ソラは森の奥にこもって暮らしていたせいでしばらく感じていなかった人の強い悪意に寒気を覚えた。しかし、ここで引くわけにはいかないと武器を握る手に力を込め無言で男をにらみ返した。


「……いいぜ。多少のけがなら許されてる。後悔するなよ。」


 男の最後の言葉とともに放たれたさっきまでとは比にならない殺気にソラは一瞬たじろいだ。その一瞬の動揺を男は見逃さなかった。


「撃てぇ!」


「っ!」


 周囲の男たちが構えていたライフルから銃弾が一斉に発射される。ソラはすぐさま立ち直り、前や横から飛んでくる銃弾を高くジャンプして躱す。銃弾は足元を通り抜けていき家の壁や遠くの木に命中しガラスが割れるようなパリンという音を立てた。


「?なんか変な―――うわ。」


 ソラが音のした遠くの木にちらりと目を向けると、銃弾が当たったらしいところに謎の液体が飛び散っていた。男は苛立たし気にチッと舌打ちする。


「眠っちまった方が楽だったのに……いけ、お前ら!」


 リーダーの号令に、剣を構えていた3人のがっちりした男たちがその図体に見合わぬ速さで素早く切り込んでくる。

 剣を構えて迫る男たちの無言の気迫は、戦い慣れしていないソラに恐怖を抱かせるには十分なものであった。しかし、ソラはその恐怖を振り払い刀を構えなおすと、次々に振り下ろされる剣を刀の角度を変えることで何とか防ぎ切った。だが、その動きに男は驚くことはなく、まるでこうなることを予測していたように頷いていた。

 というのも基本的に獣人の力は普通の人間を大きく上回っており、街中にいる何の変哲もない主婦の獣人の女性であっても軍人のように鍛えている人間の成人男性に力負けしないくらいの筋力を持っているのである。


「やっぱりな。さすが獣人、反応も力も段違いってわけだ。」


「それはどうも……っ」


「ま、対応できてもその先がだめだがな。獣人でも屈強な男3人分のを受け止め切るのは無理なんだろう?ほら、どんどん押されていってるぜ?諦めて降参するって言っちまえよ。そしたら丁重に扱ってやるよ」


リーダーの男が言うことを裏付けるかのようにソラの額には幾筋も冷や汗が流れ、腕は小刻みに震えていた。しかし、そんな絶望的な状況にもかかわらずソラの口元にはほのかな笑みが浮かんでいた。


「なんだ、嬢ちゃん。気でも狂っちまったのか?もう負けるかもしれないって状況だぞ。何にやけてやがる。」


リーダーの男が怪訝そうに表情をしかめる。ソラはそんな男をあざ笑うかのように笑みを強めた。


「ふふ……そんなこと言ってないで指示出さなくていいのかな。相手が魔術師だってこと、忘れてはいないかい?」


 そんなソラの言葉の直後、悲痛な叫びにも似た声が押さえつけている男の一人から上がった。それを皮切りにほかの男たちも慌て始める。


「うわっ、なんだ⁉」

「やべぇ、氷がどんどん広がっていくぞ⁉」

「か、頭ぁ!剣が!」


そんな男たちの声によくないものを感じたリーダーの男は、男たちの手元を見ると腹立たしそうに舌打ちをする。そこにはソラの刀に触れている部分から徐々に氷に覆われ始めている3本の剣があった。


「ああ、そんなこともできるのかよ。剣なんて放して早く下がれ、お前ら!」


リーダーの男の声に剣を手放し飛びのく男たち。ソラはゆっくりと立ち上がると刀から剣を切り離す。余計なものがなくなり本来の形に戻った刀をソラは構えなおし、まっすぐに男たちを見据えた。


「魔術製の剣だとこんなこともしてくるのかよ。面倒なもんだ。こういう思ってもみないことを時々してくるから魔術を使うやつらは嫌なんだよな。」


「そうかい。君が私に嫌悪感を感じてくれたなら何よりだ。それで、君たちはどうするつもりかな?」


 その余裕そうな口ぶりにリーダーの男は一瞬むっとしたような表情を見せたが、伊達に10人もの男たちをまとめていないらしくすぐに怒りを抑え、やれやれとでもいうように首を振った。


「……仕方ねえ、今回はずらかるとしますかね。嬢ちゃんも俺たちを全員殺して口封じって感じでもないしな。そうだろう?」


「私は君たちがこの場所からさっさと離れて、私が移動する時間をくれればいいんだ。どうせ君たち以外にもこの場所を知っている人たちがいるんだろう?だったら君たちを殺している時間がもったいない。だけど―――」


そういうとソラは地面を蹴り、一瞬のうちに男たちの一人の背後に回り込む。抱き着くような距離で首元に刀を当て男を脅し、ほかの男たちとの間に立たせると、空いた手を男のポケットに突っ込んだ。


「ちょっとした小細工ぐらいはさせてもらうよ。君に自動発動の魔術を仕込ませてもらうよ。でないと君たちがすぐに戻って襲ってくるだろうからね。何、そうおびえることはないよ。君がこれに触らないで、なおかつ君たちの誰かが私に害をなそうとしなければこの魔術は発動しないようになっているからね。さあ、これで構築完了だ。ほら、さっさとどこか遠くに行くといい。」


ソラはその男から離れると虫でも追い払うかのように手を振った。


「ああ、何が起こるかは教える気はないよ。でも彼一人の犠牲で済むと思わないことだ。」


「ちっ、お前ら!さっさとずらかるぞ!こんなの割に合わねえなんてレベルじゃねえ。」


 傭兵たちはリーダーの号令に各々後退をはじめ木々の合間に姿を消していく。リーダーの男は部下が全員離れるまでソラと対峙していたが、最後のひとりが木々の間に姿を消すと身を翻し森の中に消えていった。

 ソラは男たちが消えてからもしばらくは傭兵たちがいなくなった方を見ていたが、森から男たちが姿を見せることはなく、安心したようにほっと息をついた。


「……ふう。何とかなったかな。アッシュ君!もう大丈夫だよ!」


とソラが室内に向けて声をかける。すると小屋の窓が開きそこからアッシュが首を出した。


「奴らは本当に帰ったのか?」


「多分ね。でもいずれ戻ってくるだろうから早いうちに君の父親について知っていることを話しておこうか。」


と室内に戻ろうとしたソラは、アッシュに呼び止められた。


「なあ、あそこ誰か来てないか?」


と、アッシュが森の奥、ある方向に向けて指をさす。それは傭兵団が消えていった方角だった。その方向にソラが目を向けじっと目を凝らすと、森に消えたはずの傭兵団のリーダーの男がソラたちから見えにくい木の裏で、何やらしているのが見えた。


「あれは……リーダー格の奴かな?何かすれば大変なことになるって言っておいたはずなんだけどな。アッシュ君、済まないけどもう少し隠れててくれるかい?」


 アッシュは頷き言われたとおり外から見えないように隠れる。ソラは窓を背にするように一歩づつ足音を殺して男の方に近づいていく。男は手元に集中しており、ソラたちに自分の存在がばれたことに気づいていないようだった。

 やがてソラが男まであと10メートルほどまで近づいた時、男はやっと作業を終えたらしく顔を上げた。ソラと視線が合うが、近づいてきていたソラに驚いたようなそぶりもなくニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。


「そんな隠密でばれていないと思ったか?おっと、動くんじゃねえぞ?でないとこいつがお前を貫くことになっちまうからな。」


 男はそういって、組み立てていた黒い大きなライフルを示した。しかし、その銃は組み上がったばかりにもかかわらず銃口がソラの胸元に向けられていた。男の指もトリガーに添えられいつ放たれた銃弾がソラを貫いてもおかしくはない。


「そんなもの私の心臓に向けてもいいのかい?さすがに獣人でも心臓を貫かれれば死んでしまうのだけど?」


「だろうな。」


「……君の仲間に何があってもいいっていうのかい?」


「嬢ちゃん、俺をなめすぎだぜ。嬢ちゃんががあいつに何を仕込んだか知らないが魔術ってのは術者の手から離れて勝手に発動ってのは無理なもんだ。長いこと戦闘に出ていればそれくらいわかってくるものさ。ま、あいつらはまだ日が浅い。あの場にいた中で知っているのは俺とお嬢ちゃんくらいなもんだろうさ。」


「……だから何だというんだい?まさかそんな大きなもので私に当たるなんて思ってはいないだろうね。」


「そりゃあこれだけ距離がありゃあ当たらないだろうな。」


「ならどうして―――」


「いいこと教えてやるよ。こいつに入ってるのは特別製の炸裂弾だ。弾が何かにあたると炸裂してその周辺に甚大な被害を及ぼす。ま、多分あそこの丸太小屋ぐらいなら粉々だろうな。」


「————嬢ちゃんの守ってるものもろとも、な。」


そういって男はニヤリと笑う。ソラはその言葉の意味を理解した瞬間、恨めしそうに男をにらみつけた。


「……人質とはやってくれるね。」


「ま、嬢ちゃんが変に抵抗しなければこんな事せずに済んだんだがな。ああそうだ、さらに悪い情報をくれてやろう。こいつは魔術を無効化する刻印が刻んであってなあ、嬢ちゃんのそいつじゃ防げないぜ?」


「くっ・・・・・」


 男はソラが刀を構えたのを見て嘲るようにそう言い放つ。男の用意した大型ライフルの銃口の奥では弾丸が不気味な淡い光を放っていた。ソラは悔しそうにこぶしを握り締めたまま立ち尽くしていた。


「さっさとそいつを捨てて両手を上げろ。そんでもって後ろを向け。」


そんなソラを見て、男が勝ちを確信した瞬間だった。突如としてソラの背後から鋭い声が響いた。


「ソラ!伏せろ!」


 その声にソラははじかれるようにして身を伏せる。直後にソラの頭上を一発の銃弾が風を切って飛んでいった。その弾は驚いた表情で目を見開く男の耳元をかすめると男の後ろの方にあった木の枝をへし折りどこかへ飛んで行った。

誤字・脱字等ありましたら報告していただけると幸いです。これからも少しづつではありますが書いていくつもりなのでよろしくお願いします。

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