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白狼少女はかなわない  作者: 池田 条
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さらなる秘密

池田です。書きだめが終わったので投稿頻度が多分さらに落ちます。気長にお待ちいただければ幸いです。それでは本編のほうをどうぞ。

「どうしたんだ?外に誰かいるのか?」


「まあ、ね……」


 そう答えながら腕を組み考え込むソラ。だが、その表情は固く、その目は何かにおびえているかのようにも見える。


「まさか、さっきの話に出てきた奴らか?」


そのアッシュの問いに、ソラはコクリと頷いた。そして、ソラは逡巡したのちベッドに近づくと、壁に立てかけてあった猟銃を手に取り、それを慌てたような表情で窓の外を覗いているアッシュに手渡した。


「万が一のためにこれは返しておくよ。でも、君はここで隠れていてくれ。外の彼らは私が相手をしてくる。」


最後にあくまで護身用としてだけ使ってくれと付け足すとソラは立ち上がろうとする。しかし、アッシュは納得いかないようだった。


「そうは言っても俺には銃があるんだ。それに君一人では―――」


「じゃあ、君はその状態で満足に動けるっていうのかい?さっきは痛みで起き上がることもできなかったじゃないか。」


「でもよ……」


「でも、ではないんだ。君が加勢しても動けないんだから、いい的になるだけじゃないか。こんなところまで来る奴らだ、おそらく手練れだろう。悪いけど、そんな奴らから狙われるそんな状態の君を完璧に守り切る自信は今の私にはないよ?そんな死ぬ危険性が上がるようなことはしないでくれ。」


「……」


 急に強くなったソラの語気に気圧され、アッシュはたじろぎ黙ってしまう。それを見たソラはハッと我に返ると、苦々しい顔で頬を掻いた。


「……すまないね。少し感情的になってしまった。だけど、私のことは心配しなくても大丈夫だよ。これでも私はこんな時のために備えているからね。」


とソラは精一杯の笑顔を見せると、ベッドから離れた。ソラは、衝立の裏にあったコートラックから緑のファーコートを取り袖を通すと、コートの内側に尻尾を覆い隠す。その後ろ姿は、落ち着いたような雰囲気のソラだったが、その顔にはわずかに冷や汗が浮かんでいた。

 ソラは若干緊張した面持ちのまま音を立てぬように歩いていき、玄関扉の前に立つ。そして、深呼吸をするとおもむろに目を閉じた。すると、ソラの右手の周りに白い煙のようなものが渦を巻きはじめ、室内の空気も下がり始めた。


「なんだ?ソラの手の中に煙みたいなのが出てからなんか空気が冷たく……まさか魔術か?しかしそんなので何を?」


 アッシュはその行動に困惑していた。なぜならこの世界の人たちにとって基本的に魔術は戦闘に向いたものではないという認識だからだ。この世界において魔術を使える人は珍しくない。しかし、そのほとんどの人は、小さな火をおこしたり、強い風を小範囲に起こしたりといった小規模な魔術しか使用できない。そのため、この世界の人々の大半は基本的に魔術を生活を便利にする道具程度にしか考えていなかった。アッシュも同様に魔術をその程度にしかとらえておらずそんなもので何をするのかと考えていた。しかし、その直後、アッシュにとって思わぬ出来事が起こった。


「なんだ、渦が集まって何かを作っていく?」


冷気の渦は、次第にソラの手の中に集まっていきあるものを形作っていく。アッシュはその光景を息をのんで見守っていた。

 やがて、完全に渦が収まると、そこには美しい一振りの刀が姿を現していた。この彼女の細かな魔術制御に、アッシュは噂程度にしか聞いたことのないある存在を思い出した。


「あんな繊細な魔術制御初めて見たな……もしかして、ソラは魔術師なのか?」


 それは”魔術師”という存在だった。この世界の一般の人は小さな魔術しか行使できない。しかし、それにとどまらず木を一本焼くよう劫火を起こせたり、規模こそ大きくないものの精密な操作ができるような人も少数存在する。そういった通常では考えられない規模、精度の魔術を行使できる人をこの世界では”魔術師”と呼ぶのだ。


「すげぇ……」


 思わずアッシュの口からの声が出る。それはソラが魔術師であったことへの驚き。そして、まるで彼女の姿を模したような透き通った見た目をしたその刀への賛美の念が込められていた。

 彼女が作り出したのは、何もかもが氷で作られた鍔のない刀。ソラの半身ほどの長さはあろうかというそれが、ソラの手の中で、雪が舞っているかのような幻想的な輝きを見せていた。


「これ以上失うわけにはいかないんだ……」


 刀の輝きに反し、どこか暗い感情のこもった声でソラは小さくそうつぶやくと、意を決したように目を開ける。そして、扉を開くと、外に広がる暗雲立ち込める夜空のもとへと踏み出していった。

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