彼女の過去
池田条です。やっと3話が書きあがりました。今回のように緩く投稿していきますので気長に待っていただけると幸いです。では3話、お楽しみください。
「これは、親父?でもこれを何で君が……」
「私が記念にって描かせてもらったんだ。過去のもあるけど見るかい?」
「ああ、見せてくれ。」
アッシュはソラが持ってきた追加の肖像にこんなに付き合いがあったのかと困惑しつつもすべての肖像に目を通す。
「うまいな。親父の特徴をとらえてる。これとか少しこけたみたいな頬が数年前の親父そっくりだ。あの時は大変だったなあ。動物たちがやけに荒れてたもんでさ。落ち着くまで手を焼いてたっけ。」
「……。」
「どうしたんだ?そんなやっちまったみたいな顔して?」
「いや何でもないよ。その時のことを思い出してただけさ。」
そういってソラは何でもないよというように首を振る。
「そうか……なあ、親父を知ってるならしておきたい質問があるんだがいいか?」
「もちろん。私にこたえられる範囲でよければ答えるよ。」
アッシュはもらった父の肖像を傍らに置き真剣な表情でソラに尋ねた。
「俺の親父がどこに行ったか知らないか?1年位前に家を出たきり戻ってこないんだ。」
「……いや、残念だけど私も知らないね。」
とソラは肩をすくめて見せる。やっぱり知らないよなとうなだれるアッシュ。だが、そんなアッシュを気にせずにソラは言葉をつづけた。
「でもね、私も彼の行方は気になる。私もできる限り手伝うよ。とはいえ私はこの森からあまり出られないから期待はしないでほしいけどね。」
その申し出にアッシュは顔を上げた。そして、アッシュの曇った表情はみるみるうちにうれしそうな表情にとって代わった。
「本当か!森の奥とかは行けてないから助かる。何せ銃だけじゃ心もとなくて行けてないからな。」
とここまで言って、アッシュは何かに気づいたらしく不思議そうな顔になった。
「なあ、でもなんでそこまでしてくれるんだ?」
「彼には恩があるからね。それを返したいんだ。」
ソラはそのまま淡々と言葉をつづける。
「幼かった私が森の中で死にかけて倒れていたところを彼が救ってくれてね。それだけじゃなく彼はここに私を匿ってくれもしたんだ。そんな恩人である彼がどうなっているかわからないとわかったら、死にかけていたところを助けられた身としては手伝わないわけにはいかないだろう?」
「そうか。そんなことが……」
だが、アッシュはさっきの話の中でもう一つ気になることができたようだった。
「……話せる範囲でいいんだが親父に助けてもらったって話についてもう少し詳しく聞いていいか?」
「かまわないよ。少し長くなるけどいいかな?」
「ああ。君についてはもう少し知っておかなきゃならない気がするからな。ぜひ聞かせてくれ。」
「わかったよ。まずは私が森の中で倒れる原因になったことについて話していこうか。」
「私は白狼種の獣人でね。名前から分かったかもしれないけど私は遠い東の方が生まれだ。といっても私に残された故郷らしさはあまりないけどね。何せこちらに住んでいる期間のほうが長いから。」
「そうか、そういえばさっきちっちゃい時に親父に助けられたって言ってたもんな。」
「そうだね。さて、まずは私の種族"白狼種"について話そうか。」
さっきまで座っていた椅子に座りなおしたソラが、アッシュに語り聞かせるように話し始める。
「私の種族である白狼種なんだけど、白狼種は見た目も君ぐらいの年齢までに成長するとしばらくは見た目や加齢に伴う力が変化しなくなる。そこから普通の人間よりも長い時間をかけてゆっくりと見た目とか筋力とかが変わっていくんだ。だから、労働力としてもコレクションアイテムとしても需要が高いんだ。寿命も長くて人間の2倍近くはあったはずだよ。でもね、そんな白狼種なんだけど実は個体数が圧倒的に少ないんだ。それこそ一万人規模の大きな都市に3~4人いるかいないかってくらいだね。」
「ふむふむ、白狼種ってのは見た目とか筋力がしばらく変化しないんだな。その特性に惹かれるやつも結構いるんだろうな。ちなみにソラは年は―――」
「言っておくけど私は見た目通りの年齢だよ。」
「お、おう。そうだったか。わかった……」
ソラから感じる謎の圧に押され、たじろぐアッシュ。ソラは静かになったアッシュにわかればいいというように頷くと何事もなかったかのように話をつづける。
「さて、そんな使いどころの多い白狼種なんだけど、奴隷として売り払えば一攫千金が狙えるんじゃないかって考える輩が出てきた。何せ個体数が圧倒的に少ないからね。需要に対して供給が圧倒的に少ないものだから白狼種一体でとんでもない額が稼げるらしいんだ。だから特に力の強い奴隷商とかは人員、情報、あらゆるものを駆使して白狼種を探し始めた。」
「なるほどな。だが、白狼種が奴隷で高く売れるなんて話は聞いたことないぞ?都市とかじゃ奴隷が普通に流通しているって話は辺境に住んでる俺でも聞くけどよ。」
怪訝そうな顔でアッシュが聞くと、ソラは厳しい顔になった。
「彼らは競争相手が増えないように情報を厳しく統制してる。たとえ情報を知っていても知人程度じゃ口にはしないだろうね。捕獲を実行する下っ端は普段通り、誰にも気づかれないように仕事をすればいいだけだから細かいことまで伝えられない。まあ、尻尾があまり大きくなくて毛が白いのを見つけたら必ず追跡しろぐらいは言われてただろうけどね。」
「たくさん人を使っても情報が一切漏れないのは、それだけ白狼種の情報を知る人が少ないということなんだな。」
「もともとそういう人さらいたちは攫う対象の情報を探ろうとすると自分が殺されるのがわかってるからあんまり首を突っ込もうとしないしね。」
「なるほどな。築いてあった基盤あってこそということか。」
「そうだね。そして、彼らは常に3~4人で行動して、対象を見つけたら尾行する。白狼種は大体人の来ないようなところに住んでいるから、しばらく張り込んで人数を確認。そして人数を把握したところで、全員がいる時に襲撃して一気に数を稼ぐんだ。私の時はそうだった。」
うつむいて手を握りこむソラ。俯き、暗がりになった表情がどうなっているのか、アッシュには読み取れなかった。
「……そうだったのか。だが、なぜソラは逃げ出せたんだ?」
「ああ、私は魔術が使える父がいてくれたことが幸運だった。捕まった私たちは手錠をされて檻の中にいたんだ。だけど奴隷商たちの一瞬の隙をついて父が自分に身体強化の魔術をかけて檻を少しこじ開けてくれた。そしてそこから私は逃げ出して森の奥へと逃げたんだ。」
「なるほどな。その中で俺の親父にあったわけだ。」
「その通りだよ。必死に森の中を走り続けて最終的に私は力尽きた。そして、傷だらけ、泥だらけで倒れていたところを彼が見つけてくれてね。疲労から動けない私を介抱してくれたんだ。」
「そして、私を森の奥のこの家にかくまってくれたんだ。私は奴隷商とかに見つかるわけにはいかなかったから言葉がわからないながらも身振り手振りで意思を伝えたよ。彼は私の動きから何を伝えたいのかしっかりと分かってくれたみたいでね、私のことを誰にも言わないでいてくれたんだ。君ですら私のことを知らなかったのがその証拠だよ。そして、知らない土地に一人で取り残されて何もできなかった私にいろいろ教えてくれたんだ。」
ソラは暖かかったアッシュの父との思い出を振り返り、懐かしんでいるようだった。
「こう思い返すと私はたくさんの幸運で支えられてきたんだね…」
「そうか……。」
「……。」
「……。」
部屋の中に何とも言えない沈黙が流れる。
「……とりあえ私が知っている情報を話そうか、話す前にお茶でも―――」
沈黙に耐え兼ねたソラが立ち上がろうとする。しかし、その動きは途中でピタリと止まった。尻尾も動きをやめ毛が逆立ち、警戒したように目線がソラの向かって左側、外へと出る扉の奥へと注がれている。まるでその奥に何者かがいるかのように。
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