3歳差リプレイ 〜大学生✕社会人〜
慶太くんと付き合い始めて約1年。さすがに高校生の時に、大学生の彼氏の一人暮らしの部屋にお泊りに行くのは親の許可がおりず、社会人になった今、初めてのお泊りだ。
前と同じ職場に就職し、同じ業務を担当することになったが、知識はあっても、そもそも定時で片付けれる業務量ではなかった。季節労働と言われる(内部限定)庶務業務が落ち着いたのは6月の下旬。
金曜日に年休を取り、二泊三日の慶太くん宅お泊り会を決行。午前中が講義という慶太くんに合わせて、お昼すぎに着く高速バスで慶太くんの住む東京へと向かう。
今と前を合わせても数えるほどしか東京に行ったことのない地元引きこもりの私を、慶太くんがバス降り場までお迎えに来てくれる予定だ。
”東京行こ!東京!”
“いつ行きます?”
“え、小河原、連れてって貰わないと迷子なんだけど”
“じゃぁ、私一人で行くんで、小河原さんと大沢さんで来てくださいね”
前の職場のお昼メンバーだった慶太くん、小林さん、私の話。方向音痴のうえ、東京にあまり行ったことのない私に、家が東京よりの小林さんに早々に見捨てられ、慶太くんに押し付けられた。
当時、女性で独身の小林さんと、結婚していても比較的自由に遊んでいた慶太くんと、三人で言っていた。多分、私が行くって言えば本当に三人で遊びに行ったのだけれど、流石に既婚者なのにそれは駄目だろうと思っていたので実行はされなかった。
それが今になって、小林さん抜きで来ようとは。しかも、結局一人できてるし、私。まぁ、バスに乗ってしまえば、降りるまでは迷う事はないので大丈夫なのだけど。降りた後が危ない。
東京駅に着く前に慶太くんから遅れる旨の連絡が入り、それなら私が移動しようか、と提案した。まぁ、きっと、少しくらいなら、移動したって、大丈夫、かなぁ?やっぱ駄目かなぁ。
『あいちゃん、迷子になるでしょ。大人しくしててね』やっぱり駄目でした。ラインやり取り限定の“あいちゃん”呼びに口元が緩む。前と同じように呼ばれるそれが嬉しい。『駅の中で大人しく待ってるので、終わった連絡ちょーだい』と返信をして、さて、どこで時間を潰そうか考える。
バスを降りて、小さめなキャリーケースを引きながら構内地図と睨めっこ。流石東京駅。広いし、色々ある。現在地から離れた所に行こうものなら迷う自信がある。慶太くんが大人しくしててって言うの、正しいなぁ。
あ、近くに本屋があるからそこにしよう。
いくら私が方向音痴だとはいえ、きちんと地図を確認した近場なら無事にたどり着けるわけで。
何事もなく本屋に着いたので、慶太くんから連絡が来るまでコミックとライトノベル小説の場所をフラフラする。本やテレビの情報は、前と今が混じりやすくて、どっちで得た情報か分からなくなるときがある。今やってるドラマも、前で最後まで観ていたりすると、下手に話せない。なので、友達と話すときは主に聞き手だ。
新刊のスペースを見ていても、懐かしいなぁと感じるから危ない。その中で、前読んだシリーズ物の小説が目に入り、足を止める。大まかなストーリーは覚えているけど、もう一度読みたいくらいには忘れている。購入して、帰りのバスで読んでもいいかも知れない。2冊買っちゃう?いや、1冊にしとく?悩むなぁ。
ええい!2冊買ってしまえ!
どうせ買うことになるのだし、こないだボーナスでたし。勢いのまま2冊とも購入し、そうなると今度は読みたくなってくるもので。本屋の向かい側に、買ったあとはここで読んでね、と主張言するようにカフェがあったので、そちらに異動する。飲み物を頼んで、通路の見える場所に座って読書を開始。
途中、大学が終わった旨の連絡が慶太くんからあり、今いるお店を伝えれば、場所が分かったらしく、ここまで来てくれると返事が来た。ありがたく待っていることにして、そのまま読書を継続。なかなか面白い。
「だから!ついてくるなって!」
くぐもった様な声だったけど、慶太くんの声が聞こえて本から視線を外す。
ガラス張りのカフェの向こうに慶太くんがいた。
どうやら友達と話しているようで、その声に私が気付いたみたいだ。慶太くんはまだこちらに気付いていないのか、視線は合わず、一応と思い携帯を確認するけれど、追加の連絡も来ていない。
男女複数でいる慶太くんだけど、一際、一人の女性が慶太くんとの距離が近い。
「えー、噂の彼女みたいじゃない!」
「見たくない!見せたくない!」
なるほど。ガラス張りとはいえ、駅の中のお店なので、外の声は拾いやすいし、こちらが聞こうと思っているから余計に聞きやすい。
殆どのやり取りを聞き取ることができ、それを聞いていれば、一人で待ちあわせ場所(というお迎え)に来たかった慶太くんに、大学の友達が付いてきた様子。
そして、お目当てはどうやら私のようだ。
「写真も見せなければ、話もしないけど、彼女いることだけは言うからさ!本当にいるなら見たい〜」
「本当にいるからどっか行って」
「彼女さん見てから!」
他の人はそこまで興味ないのか、さっきから一人の女性と慶太くんのやり取りだけ。
慶太くんが大学で、私の事をどう話しているか分からないけど、この女性、ちょっと面倒くさそう。なんなら、慶太くんのこと、好きそう。え、やだ。取らないで。
”毎日近くにいるとそういう気持ちにもなるって”と言っていたのはいつだったか。前、関係が始まった頃だったと思う。
未だにこちらに気づいた様子のない慶太くんに電話を架ける。
「ほら、架かってきた」
そう言って私の電話に出た慶太くん。
「慶太くん。やり取り全部見えてるんだけど、私、行ってもいいのかな?」
不機嫌そうな声になったのはご愛嬌。だって、その女性と距離が近い慶太くんが悪いんだ。
「え?…あ、いた。あーもう、こいつら置いてくから早く行こう。出てこれる?」
「うん。分かった」
視線が合って、それと同時に慶太くんの友達にも気づかれて。なんか言ってるけど、聞くのを辞めて、飲み物のカップを片付けてお店を出るために席を立つ。
お店から出て、慶太くんの所に行けば、当たり前のように友達も一緒にいて。女性は距離が近いまま。それ、慶太くんに触りそうな距離だよ。さっきも触れてたよね?
「慶太くん」
「おさなー!え、中学生?」
「慶太、犯罪!」
「煩い!黙れ!」
名前を呼べば、友達の方が騒いで、慶太くんが怒ったような声を出す。
童顔なことは自覚済みだし、身長も低いから、実年齢より下に見られることは多々あるし。良いのだけれど。いいんだけど!距離近女の「中学生?」は悪意あるよね?釣り合わないって言いたいんだよね、きっと!
他の人たちの「可愛いー!」は、普段年上に言われる素直な感想に感じとれるけど、距離近女の「ちいさーい。おさなーい。わかーい」は、敵意を感じますよ。
「お前ら煩い。もう行くから、着いてくるなよ」
慶太くんがそう言って歩き始めるので、軽く会釈して付いてくい。けれど、それで引き下がるならきっとここまで来ていないのだろう。距離近女が先頭で付いてくる。
慶太くんは無視を決め込んだのか、見ようともしないけど、向こうはめげずに話しかけてくる。メンタル強いな。
友達がいるからか、手も繋いで貰えてない。久しぶりに会うのに。やっとのお泊りなのに。
「慶太くん、手、繋いで?お仕事頑張って来たんだよ?」
軽く手を握って、付いてくる距離近女に聞こえるように言う。そっちが私を幼いと言うのなら、使うのは若さでしょう。
人前で甘えることをあまりしないので、慶太くんは驚いた表情で私を見て足を止めた。何か言いたそうにしているけど、言葉は発しず、その代わりか、握った手を恋人繋ぎにされて、指で指を撫でられる。
それ、ゾクゾクする…!
もっとと言うように、慶太くんの腕に擦り寄って、無邪気を装って笑顔を見せる。
「…愛奈可愛い」
慶太くんの言葉は友達たちにも聞こえたようで、距離近女が少しだけ固まったのが分かった。
それからは、他の友達に強く止められ、付いてくるのを諦めたようで、無事に慶太くんと2人だけで、慶太くんの一人暮らしの部屋まで着いた。
部屋に入るなり抱きついたのは私の方で。
「慶太くんが足りない」
「俺も愛奈足りてない」
慶太くんからもぎゅってしてくれてるけど、それでも足りなくて。しかも、さっきの出来事を思い出して余計に足りなく感じてしまう。
「妬いちゃった?」
「さっきの人?だって、慶太くんのこと好きそうだし」
聞いてくるってことは分かってるのだろうし、私の言葉に否定しないってことは当たっているのだろう。
「え、もしかして前は付き合ってたとかいう?」
「…そんな感じ」
思い当たった考えをそのまま口にすれば当たっていたようだ。この年齢になる前に私達が出会わなかった世界線の話。
大学生の慶太くんは、さっきの距離近女とお付き合いをしていたのか。そっか、そうなのか。
仕方がない、どうしようもない。今付き合ってるのは私で、隣りにいるのも私。だから、嫉妬したってどうしようもないのは分かってるのだけれど。
「慶太くん、いっぱいキスしたい」
「うん、いっぱいしよう」
この不安を埋めたくて。慶太くんが他の誰かの所に行ってしまわないように。
床に隣り合う形で座ってたので、慶太くん側の手で、慶太くんの服を掴む。それが合図になり、最初は優しい触れるだけのキス。「愛奈」と小さく名前を呼ばれてから、頬を撫でられ、深いキスになる。服を掴んでいた手は、慶太くんに絡め取られて。キスも繋いだ手も気持ち良くて、ふわふわした気持ちに、先程までの不安が消えていく。
時折、頬や額へのキスを混ぜ、合間に名前を呼ぶ。どこにも行かないで。もっとして。そんな気持ちを乗せて。
「満足した?」
「んーまだ」
甘えた声で続きをおねだりする。態とそういう態度を取っているのを慶太くんは分かっていて、分かったうえでとびっきり甘やかしてくれる。
優しく頭を撫でなれ、また頬に手を添えられる。
どのぐらいそうしていたかは分からないけれど、部屋に来てから他のことを何もしないで、ずっとキスしてるには長い時間が経った。
満足したよと伝えるように腰回りに抱きつけば、頭を撫でてくれる。
「慶太くん好きー」
「俺もだよ」
返ってくる言葉が嬉しくて、ぎゅって力を強める。
「ねぇ、愛奈。我慢できない」
「うん?」
何が我慢できないのか分かってるのに、分からないふりをして首を傾げる。両脇から手を入れられ、体勢を起き上がらされれば、またキスされる。でも、今度はキスだけじゃなくて。
躊躇なく、下の下着の中に手を入れられ、ソコを触られる。
「濡れてる」
だって、と。声にならない訴えを心のなかでする。
前も今も、慶太くんのキスひとつでこうなってしまうのだから、さっきまでキスばかりしてたソコは下着が気持ち悪く感じるくらいに濡れている。
「ぁ…!」
慣らされてもいないソコに指を入れられれば声が漏れる。痛くはない。だって、触られる前から期待していて。
慶太くんが指を動かしながらキスで口を塞いでくる。目一杯応えたくて、キスに集中しようとするけれど、それを指からの刺激が邪魔をする。
「慶太くん…!んっ!」
「感じてる愛奈可愛い。ちゃんと顔見せて」
キスの合間に名前を呼べば、そう言われて、顔の距離を離される。恥ずかしいから見ないでと首を振るけれど、やめてはくれない。
「んんーー!」
「気持ち良い?」
ゆっくり動かされてる指は時折、奥に届いて気持ち良い場所を刺激する。もどかしいような、満たされるような。
慶太くんの優しさが伝わるこれが、とても好きだったりする。
「けーたくん…気持ち、いいよぉ」
「…愛奈、ちゃんとベット行こうか」
「あ…!」
言うのと同時に抜かれた指に、反応してしまう。
「愛奈、おいで」
優しく呼ばれた名前。
「…慶太くん、”慶太くんのが欲しいよ”」
「”えっろ”」
前と重ねる気はなかったけれど、結局思うことは同じだったのだろう。
口から出た言葉は前と変わらず。
書きたかっただけというか。いきなり始まって、いきなりおわりました、はい。