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鬼蜘蛛の子供

作者: 瀬川なつこ

油土塀の向こうでひそひそ内緒話。さては、呪い相手を殺す相談か。

合わせ鏡は不吉。十三番目の鏡に謎の阿弥陀如来。

櫻の下で、線香の香り。恋人を海に取られて、泡と化して、

優しい姉さんが、櫻と共に、舞い踊り、静かに鬼になってゆく。


先祖の霊、毎夜毎夜、娘の机の上に現れては。

次の日、大人の字で出来上がっている宿題に、困りつつ。

坂道を下るときは、息を止めて。

坂道の途中の家、あそこは人の死んだばかりの家だから。

嫉妬深い神様だ、とあまり人の訪れない神社に、童が遊ぶ。秋。


此処の、石畳の細い道、気をつけろ、鎌鼬が居る。

切られたか。胴体の外れた猫の首が転がる細道。

小指ほどのお地蔵様が、何度も功徳を講じる。

改心した山の山賊、小指ほどのお地蔵様に、山ほどの社を建立する。

校庭で遊んだ昔のあの子たち、彼らは、色々昔の遊びに詳しいが、息をしていない人々だ。


長閑な田舎に、遊園地を作ろうと、工事を始めて、

即身仏と祠が出てきて、肝をつぶす人々。

かごめかごめ、通りゃんせ。子供の遊びには、呪いが混ざっている。

童は、純粋、神様だというが、あれは、一種の邪悪な生き物たち。


罪と罰。僕は、君にどうしても謝らなくてはならない。

銀河鉄道には乗れない子供達。

純粋さを失った子供たちは、やがて大人になってゆく。

手足をもがれた蝶のように。

忘れてしまう、懐かしい想い出も、昔のたましひも。

それは、まるで違う生き物。子供は神の子なのだ。


冷蔵庫に、妹の乳歯が落ちていて、道路で蛇の抜け殻が落ちている。

妙な朝には、曲がりくねった蛇口から、血みどろの水で顔をすすぐ二度寝を見る。

白い月が東の方にのぼり、生垣の中に隠れた二つ目の太陽を見つける。

魔法瓶の中に、隠れている、小さな小さなお地蔵様。



寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、古文の得意な女子高生の恋文が、どうしても読めない。

水晶玉を、敷き詰めた庭で、踊るの私。

蛇行する曲がり角のある坂道を登ると、懐かしいあの人と、入道雲に出会える。

懐かしい匂いが漂う、仏間で、西日で黄金色に輝く塵を見つめながら、昏々と眠る病。



古い通り道を、着物姿で歩く、真っ赤な紐を首から風に靡かせて。

そうさ、僕らは赤に呪われた世代。

金襴緞子の着物を着た狂うた娘さん。裸足で宿場町を歩いていく。その美しさは病。

神社の鳥居に、着物姿の狐面の子がさきほどから、此方を隠れ見ている。

さては狐狸か魔性の類か、人間に遊んで欲しいのか。



夕べの、睦み事、明ければ、野山に、裸姿で。

野辺送り、内緒だよ、掌に隠していた蜉蝣は、死んでしまった。村の外れに、火の玉明神。

綺麗などぶ川を泳ぐ夢。土気色の貝砂利水魚が、息絶えそうな私を岸辺へと運ぶ。

砂時計を逆さにして、時が止まる気配をじっと待っている松虫。





紫陽花の、花の下に、お面が堕ちている。其の鬼面の隅が、血で汚れている。

童の跫軽やかに。野山で花が咲く季節成れども。

年寄の冷や水。壁に掛けておいた蓑に、鬼蜘蛛の子供が孵化してわらわらと。

魂消た話。京都の嵐山の化野に、人魂がひょいひょい、娘の涙を知っているかのように。


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