第39話 ヤンキー、自分を呪う
子供達を引き取ってから数日が経過した。
みんな馴染み始めてきた頃の出来事であった。
コンコンッ
「入っていいぞぉ」
「失礼します。ご主人様の耳に入れておきたい情報が御座いまして……」
「おう。どんなんだ?」
「それが、最近街の子供が居なくなる事件が起きているようで、自警団も動いているようですが……」
「まだ、原因がわからないってぇことか?」
「えぇ。そのようです」
「ジャックの部隊に探らせるか」
「そうですね」
頷くと部屋を出ていくバルト。
1人残されたリューは考えていた。
「また外道のような奴らが出てきてんのかねぇ。子供が安心して暮らせねぇ世の中なんて、全く怖ぇ世の中だ」
この時はまた奴隷商のような奴らが出てきたかと、そう思っていた。
◇
ある森の中
「クックックッ。こうやって子供を閉じ込めて人質を作っておけば手が出せまい」
不穏なことを口にしながらシリから出した糸のようなもので子供達の首から下をぐるぐる巻きにして吊るしている。
上半身は腕がないが、人間のようだ。下半身から下は蜘蛛になっている。
「恨みは返すぞ……リュー!!」
◇
「挟みパン屋のとこの子供もいなくなったらしいわよ?」
「怖いわねぇ。どこに行っちゃったのかしら」
「あのー。すまんのじゃが、他にはどこの子供が居なくなったんじゃ?」
「あとは、宿屋の子と、道具屋の子。後は……服屋の子らしいわよ?」
「ほぉ。貴重な情報感謝するのじゃ。これは少しじゃが、情報料なのじゃ」
そう言って立ち話していた奥様に銀貨1枚を渡して去っていく。
「今で4人なのじゃ。段々多くなっているのじゃ。急がないと」
ジャックは焦るように街を探る。
これまで集めた情報では1人になった時を狙われている。という事と時間帯が夕方の暗くなる頃に居なくなっていると言うものだった。
「何日か探ったがワシも見張っとるのにそれも躱される。用心深いようじゃし、狡猾な奴じゃ」
子供ばかりを狙った犯行にジャックは怒りと焦りが募る。
「ワシだけじゃどうにもならなそうじゃのぉ」
リューに相談することにしたのであった。
◇
コンコンッ
「いいぞぉ」
「失礼するのじゃ」
「おう。ジャックか。どうだ? 調査の方は?」
「正直行き詰まっているのじゃ。ワシが張ってても姿を表さんのじゃ」
「そうか。子供が1人の時しか現れないって言ったか?」
「そうなんじゃよ」
「シフォンに任せてみるか? 小さいから上手く騙せるんじゃねぇか? そんで、近付いて来たら魔法で撃退しつつ居場所を知らせる。そこに俺らが駆けつければいい」
「やってくれるかのぉ?」
「お願いしてみるさ」
2人で部屋を出てシフォンの元へ行く。
今は訓練をしているようだ。
「シフォン! ちょっといいか!?」
「ご、ご主人様!? はいっ! 今行きます!」
やっていた訓練をすぐに止めて駆け寄ってくる。
「シフォンにしかできない仕事をして欲しいんだが」
「私にしか? 何でしょうか?」
「最近子供が攫われる事件が増えているのは知ってるか?」
「はい。知ってます。私達の間でも外出する時は気をつけるようにしてます。何人かで外出するようにしてます」
「それなんだがな、ジャックが張っても姿をあらわさないようなんだ。率直に言う。囮になって貰えねぇか?」
「わかりました!」
「いいのか? そんなに簡単に返事をして」
「私達はご主人様に命を預けています。ご主人様が助けてくれるんですよね?」
「あぁ。標的が現れたら、魔法をぶっぱなして、合図をしてもらう」
「なるほど! わかりました! 何時やりますか?」
「今晩やろう」
「はい! 準備します!」
「頼んだ」
◇
その夜。
「とは言ったものの、怖いよねぇ」
ブルブル震えながら街を歩くシフォン。
大通りを歩いても何にも来ない為、路地裏に入った。
その時、シフォンの周りから月明かりが無くなった。
シューッ
身体に白い糸のようなものが巻きついている。
「出たな! ファイアーストーム!」
ゴオオォォォォ
糸の先に魔法を放つ。
「大人しくしろクソガキが!」
(えっ!? 人間!?)
疑問に思って目を凝らして見る。
体が人間だが、足は蜘蛛のようになっている。
1本の足に地面に押さえつけられる。
シュルシュルシュル
シフォンの体を白い糸が包み込む。
「ウインドストーム!」
体を風の刃が包み込み、糸を切り裂いていく。
「なに!? この小娘が!?」
「おめえが最近の事件の元凶だな!? ん? てめぇ! なんで生きてやがる!?」
そこにいた異形の魔物の体はこの前生き埋めにしたはずの奴隷商であった。
「白竜のリュー! 貴様をおびきだす為に子供をさらったんだよ!」
「なぜ生きてるんだ!?」
「私は魔族と繋がりがあると言っただろうが! ちゃんと殺さなかったからこうなるんだよ! バカが! ハッハッハッ!」
「俺があの時にしっかり始末していれば……」
「そうさ! 子供達は養分にさせて貰ったからなぁ! ハッハッハッ!」
リューの目が据わった。
体からオーラが吹き出す。
「【体】」
リューの身体が一回り大きくなる。
「【瞬速】」
魔物の傍まで行き、上空へ飛び上がる。
両手をガッチリ合わせて天へ上げ、白銀のオーラが爆発する。
空を蹴り、音速で地上へぶつかる。
「【仏恥義理】」
シュッッチュドォォォォォォォォォォン
地面がめくりあがって周囲の建物は吹き飛び、クレーターができあがっていた。
魔物の物と思われる巨大なクモの足の残骸が散らばっている。
クレーターの中心部には元奴隷商の男が、胸に巨大な穴を空けて息絶えていた。
その中心部へリューが向かう。
「【撃】」
ズドォォォォン
頭部が塵と変わる。
「【撃】」
ズガァァァァン
残っていた残骸も塵になり、血しぶきが舞う。
ガシッ
腕を掴まれる。
リューが振り返ると。
「ご主人様、もうやめてください! 息絶えて消滅しています! こうなったのはご主人様のせいではありませんよ! 自分を責めないでください!」
ハッとしてシフォンを見ると涙を流してリューの腕を抱きしめていた。
「クラマス。攫われた子供達はワシ達2番隊が捜索します。屋敷に戻っていてください!」
「すまない」
力なく謝って屋敷に戻っていくリュー。
それにシフォンは付き添っていた。
屋敷に戻ると異変を察知したバルトが人払いをしてリューの部屋へ付いて行き、お茶を入れる。
お茶を一口飲み、少し気が軽くなった。
「バルト」
「はい。なんでしょうか?」
「俺ってやつは、知識もなければ詰めも甘いどうしようもない奴だったんだ」
「何があったかは存じませんが、人はミスをするものだと思います。ミスがない完璧な人間などいないと私は思っています。しかし、ミスを極力少なくするように対策を練ることは可能です。対策を練るにはミスが起こりやすい状況を想定しなければならず、ミスをしてみないとどう対策していいのかわからない。そうは思いませんか?」
「難しいな。確かにそうかもしれないと思うが……人を巻き込んじまった」
「自分のミスで人を巻き込んでしまったと……謝ってすむ問題ではないかもしれませんが、できる限り誠実に対応すればわかってもらえるのではないでしょうか?」
バルトに諭されたリューは、気持ちがスッとした。
「あぁ。そうだな。ありがとなバルト」
「いえ、お役に立てたのであれば、幸せです」
そう言うとスッと部屋を出て行く。
それと同時にコンコンッと部屋がノックされる。
「どうした?」
「ワシです! 子供達を森で見つけました。多少衰弱してますが、無事です! 今街に運んでいる所です。ワシが先行して知らせにきました!」
「よくやってくれた。ジャック。俺も行く」
ジャックの後に続いて街に行く。
子供達を連れた2番隊が到着するところだった。
街中での戦闘が行われた為、街の住人も何事かと集まっていた。
「みんな夜に魔物と戦闘になってしまった! こんなに被害を出してしまい申し訳なかった! ただ、魔物に攫われた子供達を見つけ出して連れて来た! 安否を確認してほしい!」
そう言うと自分の子供を見つけて駆け寄る大人達。
みんな泣きながら抱き合っている。
「俺の話を聞いて欲しい。今回の事件は俺が数日前にある奴隷商を始末した。と思っていたんだ。そいつは子供達を攫ってひどい扱いをしていた。だから、俺もそいつを酷い目に合わせようと手足を潰して生き埋めにした。その結果、なんでかそいつは魔物として俺の前に現れた。俺を狙ってやったそうだ……そいつは始末したが、皆に迷惑をかけちまった。巻き込んじまって、本当に申し訳なかった!」
子供達と親達に頭を下げるリュー。
無言の空気が流れる。
「リュー、頭を上げてくれ。今回は誰も死ななかった。それでいいと思う。子供達を魔物から救ってくれてありがとう」
最初に口を開いたのは宿屋のおっちゃんだった。
「そうねぇ。私もそれでいいと思う。子供が無事に戻ってきたもの」
「そうだな! ありがとよ! リュー!」
服屋の奥さん、道具屋のおっちゃんも優しい声を掛けてくれた。
「みんなありがとう! すまなかった!」
「いいんだよ! お前はなんでもかんでも背負いすぎなんだよ!」
破壊してしまった分の建物は幸いなことに廃屋だった為、被害はなかったことになった。
街を襲っていた子供が攫われる事件はこれで幕を閉じた。
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