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第36話 ヤンキー、祭りを楽しむ 後編

「うわぁ! これ何!? 美味しそう!」


果物を小麦の生地で包んだものを見てシフォンが騒いでいる。


「買ってやるぞぉ?」


「ホントですか!?」


「「私達も!」」「「俺達も!」」


「しゃあねぇなぁ。これで好きなの食べたり遊んだりして楽しめ!」


そういうとリューは皆に金貨1枚ずつ配った。


「好きなだけ楽しめよ!」


「「「「はぁい!」」」」


みんなお金を片手に散らばっていく。


「ったく。バルトから小遣いも貰っただろうに……」


「そうかもしれないけど、リューちゃんに買って欲しかったんじゃないかしら?」


「よくわかんねぇなぁ」


「まっ、いいじゃない! 私達も楽しみましょ?」


「そうだな」


歩き回っていると射的屋のような所を見つけた。


「ここはなんだ?」


「いらっしゃい! ここは矢であそこにあるものを物を落とすのさ! 落とした物はお客さんが持って帰れるのさ!」


「矢か……」


「リューちゃんやってみてよ?」


「俺が?……いいけどよぉ」


鏃の部分にはゴム玉のようなものが着いている。

商品には人形から、アクセサリー等がならんでいる。


弓に矢をセットし、引いて狙いを定める。


シュッ


左にヒューッと飛んでいってしまう。


「あちゃー。おれぁこういうのは苦手なんだよなぁ」


頭を掻きながら苦笑いしているリュー。


「リューちゃんにも苦手な物があったのね?」


「こういう物使ったりするのは出来た試しがねぇな」


「フフッ。じゃあ、私がやろうかしら」


前に出て弓を引くララ。

弓を引いた時の胸の張りが凄い。

違うところに目を奪われていたリューは当てる瞬間を見逃してしまう。


シュッ…………バスッ


「やったわ! リューちゃん見てたぁ!?」


「お、おう! すげぇなララ!」


「私は器用なのよねぇ!」


ガッツポーズしながら飛び跳ねて喜んでいる。


「お姉さん上手いねえ! これ、商品ね! いいの取られちまったなぁ。良く似合うと思うぜ!」


「どうも!」


屋台のおっちゃんから貰った商品は首飾りであった。


「すまねぇな。俺が取ってやれなくて」


「いいのよ! 楽しかったもの。これ、私に付けて欲しいんだけど……」


首飾りを差し出しながら上目遣いで見つめてくる。


「おう! 勿論だ」


前から後ろに手を回して付けてあげるリューをチラチラ見ながら顔を赤くしているララ。


付けた後の姿を見て見惚れる。


「綺麗だぞ。ララ」


「フフッ。改まって何よぉ? 照れるじゃない」


「次行くぞ」


「待ってよ!」


先を歩くリューの隣に再び立ち、横を歩き出す。

しばらく屋台を進むと言い争っている声が聞こえてきた。


「なんか騒がしいわね?」


近付いて行くと大男が女に向かって怒鳴り散らしていた。

よく見ると怒鳴られている女の人のはエリーで、その後ろにはリューにぶつかってしまった女の子がいた。


「リューちゃん、あれエリーよね?」


「あぁ。そうみてぇだな。ちょっと行ってくる。待っててくれ」


「わかったわ」


ララは大人しく組んでいたリューの腕を離し後ろに下がる。

リューは大男に横から話し掛けた。


「横からすまねぇな。この人は知人なんだが、何かしたのかい?」


「ああぁ!? 何だてめぇ!? 変な恰好しやがって! 関係ねぇやつはすっこんでろ! このガキがわりいんだよ! 服を汚してくれやがって! こっちこいクソガキ!!」


「なんなんですか!? 子供のしたことじゃないですか! この子に何しようっていうんですか!?」


「うるせえんだよ! お前もしゃしゃり出てきやがって!」


男は拳を振りあげ、エリーに振り下ろした。

エリーは両目を瞑る。


バシッ


衝撃が来ないことを不思議に思い目を開ける。

すると、リューが片手で大男の腕を掴んでいた。


「子供に服汚されたくらいで何をそんなに怒ることがあんだよ?」


「くっ! 離せよ! ゴラァ!」


振り払おうとするがビクともしない。


「クッソォ!」


もう片方の拳をリューに振り下ろす。


ガシッ


拳を手のひらで受け止める。


ギリギリギリッ


「ぐわぁぁぁ」


「さっきのは子供に対しての態度とは思えねぇな。心を広く持てよぉ」


膝を突いた大男に諭すように言葉をかけるリュー。


「いでででっ! 俺が悪かったよ! 離してくれ!」


「俺じゃなくてこの子に謝れ」


膝をついたまま子供に向かい謝罪をする。


「怖がらせて悪かった! 許してくれ!」


「私こそ、ごめんなさい」


「いや、いいんだ。俺が小さい男だった。あんたも悪かったな」


エリーにも一言謝るといそいそを去っていく大男。

ワッと歓声が上がる。


『お姉ちゃん強いなぁ』

『リューさん流石っす!』

『あんな男やられて当然さ!』


口々に色々な言葉が聞こえてくる。


「リューさんありがとうございました」


頭を下げるエリーに、リューは微笑む。


「大男相手によくこの子を守ったな。偉いぞエリー」


ポンポンッと頭を撫でる。


「私だって、ギルドの受付嬢なんです! 大きいだけの男には負けません!」


両手を曲げて力こぶを出そうとしているが、華奢な腕に筋肉はなさそうだ。

恐らくあの大男はこの辺の者ではないだろう。

リューを知らないならまだしも、ギルドの受付嬢を務めているエリーを知らない冒険者はこの街にはいない。


「おねぇちゃん。ありがと!」


「かわぃぃぃ! いいのよ! あんな男には負けないわ!」


女の子にメロメロになりながら頭をナデナデする。


「お母さんとお父さんとは、はぐれちゃったの?」


「お父さんはいないよ? お母さんは……いた!」


女の子はお母さんの元へ駆けていくが、向かっていく中年女性は何やら似たような年頃の子供を引き連れている。


「メアリー! どこに行ってたの!? 勝手に行ってはダメよ!」


何やら怒られてしまっているようだ。

頭を下げて謝っている。


「さあ、みんな! 院に帰りましょう!」


子供達を連れて去っていく。

それを見ていたリューは疑問を抱いた。


「あれって……」


「孤児院ですね。大分無くなりましたけど、まだ生活が苦しい人が子供を捨てたりとかあるんですよね……」


「ブラウズにも孤児院があったんだな……知らなかった」


「お祭りだから少し出て来たんですね。なんか孤児院も大変だっていう噂なんですよね。子供を売らないかと言ってくる奴隷商がいるみたいなんですよ」


「奴隷商か……胸糞悪いな」


「まあ、職業として成り立ってしまっている世の中がどうかしてますよね……」


「ちげぇねぇ」


苦い顔をしているリューを遠くから見ていたララが駆け寄る。


「リューちゃん、流石ね」


「なんてことはねぇよ」


「でも、本当にありがとうございました! 丁度いいんで、この後一緒に回りましょう!」


元気よく宣言するエリーにララが反論する。


「エリーも一緒に来るの? リューちゃん?」


「あぁ。多い方が楽しいだろ?」


話しをしていると野次馬の中から少し小さい影が飛び出してきた。


「ご主人様流石です!」


「あんな大男を一捻りだもんな! 俺もそんなことやってみてぇなぁ!」


シフォン、リントに続いてソフィとハイドがやって来た。


「お前達見てたのか」


「僕……何も出来なかった……」


「アタイも何も出来なかった……」


ソフィとハイドが何も出来なかった事を悔いていた。


「ソフィ、ハイド、何も出来なかったのを後悔するなら、何が出来たか考えてみたらどうだ?」


「何が……出来たか?……僕に……?」


「アタイに出来ること?」


「例えば、大男に立ち向かえなかったとして、助けを求めることは出来なかったか?」


ハッとしたようにリューを見る2人。


「ご主人様を……呼べれば……」


「そうだ! ご主人様を呼びに行けばよかった!」


「はっはっはっ! 真っ先に俺か! 嬉しいじゃねぇか! 俺以外でも、冒険者に助けを求めればいい。この街の冒険者は良い奴が多い」


「ご主人様が……確実……」


「アタイ達の中での最強は、ご主人様なんです!」


「そうか。じゃあ、困ったら俺を呼べ。自分達で対処できそうでも、不安なら対処しながら俺を呼べばいい。お前達は4人いるんだからな」


その言葉に4人は顔を合わせて頷く。


「まぁ、出来ることをやればいいじゃねぇか!」


「「「「はい!」」」」


「よっしゃ! 遊ぶぞぉ!」


「「「「おぉぉぉ!」」」」


子供達を引き連れて屋台に歩いていくリュー。

その姿を見て微笑ましく見ていたのは、エリーとララであった。


「子供みたいね。まったく……エリー、行くわよ?」


「あぁいう所もいい所だとは思いますけど、もうちょっとこっちの事も考えて欲しいですよね?」


「まっ、それも広い心で受け止めるのが女の役目よ」


「うっ……負けませんよ……」


エリーのその言葉にフッと笑いながら余裕の笑みでリューの後を追う。


リューとシフォン達は祭りを存分に楽しむのであった。


しかし、リューには遠ざかっていくメアリーの姿が頭に焼き付いていた。

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