第11話 ヤンキー、魔法を殴る
『本日は、待ちに待ったゴールドカップの開催です!』
『ワァァァァァ』
『集まってくれたA級冒険者は4人、S級冒険者は1人です! A級冒険者の勝ち上がった人がS級冒険者と戦うことになります!』
そう話していると壇上に一人の冒険者が上がってきた。
手を開き、皆に話し掛ける。
「皆さん、私はS級冒険者のブランです! 今日の対戦、A級冒険者全員対私ではどうでしょう?」
『ワァァァァァ』
『なんという申し入れでしょう! 皆さんどうでしょうか!?』
『ワァァァァァ』
『了承を貰いましたので、そのような形で行きましょう!』
ブランは笑っていた。
「少し彼に感化されてしまったようだ。試合が楽しみだ」
しかし、そんなこと言われたA級冒険者達は憤っていた。
4対1で負けたとあってはA級の名が廃る。
壇上に4人と1人が並び、開始を待っていた。
A級冒険者達はS級冒険者を睨みつけていた。
そして、一様に思っていた。
絶対勝ってやると。
『それでは、ゴールドカップA級冒険者対S級冒険者……始め!!』
それは、一瞬の出来事だった。
ブランが腰を屈め、刀を抜き去った瞬間、4人は場外へ吹き飛ばされた。
一瞬のうちにブランは抜き去った刀を戻し、最初の構えに戻っている。
観客は何が起きたかわからないだろう。
ブランの高度過ぎる抜刀術で目で追えなかったのであった。
『な、なんとぉぉぉぉ! A級冒険者が手も足も出ないぃぃぃぃ! これがS級冒険者の実力だぁぁぁぁ!!』
『ワァァァァァ』
『すげえもんみた!』
『何にも見えなかった!』
『やっぱりS級はすげぇ!』
『それでは、ブロンズカップ、シルバーカップ、ゴールドカップの表彰式を行います!』
表彰式があると言われて呼ばれていたリューはこの試合も見ていた。
「へぇ、流石えす級冒険者だな。つえぇ。ヒカリモノ持って調子づいてるだけかと思えば、技がしっかりしてるぜぇ」
「兄貴、さっきの見えたんですか?」
「あぁ、気合いで見えたぜ」
「流石兄貴ですね」
自然と兄貴と言っているのは、ジェイクである。
一日一緒にいただけで自然と呼び名が定着して舎弟感が増している。
「兄貴、表彰式行かないとですよ!」
「おう。ちょっくら行ってくるわ」
「晴れ姿、目に焼き付けますからね!」
「大袈裟なんだよ!」
恥ずかしそうに言いながら壇上へ向かうリュー。
舎弟が出来て少し嬉しいようだ。
壇上へ行くと、先程のブランともう一人ローブを着た綺麗な女が立っていた。
ピンクの髪が肩より長いくらいまであり、ローブでも体のラインがわかるくらいスタイルがいい。
その女は険悪な眼差しでリューを見ている。
(すげぇ見てくるじゃねぇかこの女ぁ。なんなんだよ。俺がなんかしたかよ!)
無視して通り過ぎようとすると。
「ちょっとあんた、この前の家族ごっこみたいなの見せられて私イライラしてるんだけど、どうしてくれんの? しかも、ブロンズカップは魔法使いが一人もいなかった! 私は魔法のみでシルバーカップ優勝したわ! わかる? 魔法使いが一番ってこと! あぁ、S級冒険者は例外よ?」
「あぁ? 家族ごっこだぁ? ダインとは兄弟で家族だ。ごっこじゃねぇ。それに魔法が一番つうのはどうだろうな。俺も戦ったことないからわからねぇが」
「だったら、今すぐ私と戦いなさいよ!」
「お、おう。俺はいいけどよぉ」
大会関係者の人がやってきた。
「エキシビジョンマッチということで開催しましょうか?」
「私は戦いたいわ!」
女魔法使いが怒りながら叫んでいる。
「俺もかまわねぇよ」
『これより、お時間に余裕もありますし、何より、シルバーカップの優勝者のララさんとブロンズカップ優勝者のリューさんの強い希望により、お二人のエキシビジョンマッチを開催します!!』
『オオオオオォォォォォォ』
『それでは、お二人は中央へ! それ以外の方はお下がりください!』
ララは今だに睨み付けている。
(このアマぁ睨みつけやがってぇ、こっちまでイライラしてくるぜぇ。いっちょぶちかましてやるか)
何やらリューのやる気もスイッチが入ったようだ。
『これより、エキシビジョンマッチを開催します!! それでは……始め!』
「ファイアーボール」
ボッボッボッ
火の玉が出現し、リューに迫る。
「【撃】」
ドドドッ
皆が目を疑った。なぜなら、ファイアーボールが。打ち返されたからだ。
ドドドォォーン
「きゃっ」
ララは咄嗟に避けるが爆風に巻き込まれる。
『なんと、リュー選手! 魔法を打ち返したぁぁぁ!!』
「なによそれ! なんでそんなことできんのよ!?」
「あぁ? 気合いがありゃ何だってできんだよ!」
「そんなの反則じゃない!?」
「反則じゃねぇよ。ちゃんと気合いで打ち返してるからな」
リューは意味が分かっていない。
そんなことできるのがズルいという意味なんだが、ルール的に反則かどうかの話をしている。
「あぁーもう! とっておきよ! ファイアーストーム!」
リューの頭上に炎の渦が現れ、一気に地上から空へ向けて立ち昇る。
観客は固唾をのんで見守る。
もしかしたら、リューは死んでしまうのではないかと。
しかし、炎の渦から歩いて現れたのだ。
無傷のリューが。
リューの身体にはオレンジのオーラが張り付いているような形で存在していた。
立ち昇るのではなく、停滞している。
『なんとぉぉぉぉ! 無傷! 無傷です! いったいどぉぉなっているのかぁぁぁぁ!!』
「ちょっとなんなのよ!」
駆け出すリュー。
ララに肉薄する。
「【瞬】」
ドドドドドッ
ララの急所に衝撃がはしる。
しかし、衝撃が来たのみで、全て寸止めであった。
「俺に女を殴る趣味はねぇ。降参してくれねぇか?」
ララは目をつぶってペタンと座り込んでいた。
「はい。降参します」
『なんと紳士的なんでしょうかぁぁぁ!! そして、魔法を殴るという異常な技と炎の渦の中で無傷という凄まじい能力! 勝ったのは、リュー選手です!!』
「ほれ。大丈夫か?」
手を差し伸べるリュー。
リューをジーっと見つめるララ。
ララには、キラキラしてリューが見えていた。
「あの、私もリューくんの家族に加えてくれないかしら?」
「いーけど、それは、妹分としてか?」
「違います! リューくんの女にしてください!」
「んーまぁ、いいぞ」
「ホント!?」
「おう!」
すると、すぐさま起き上がり腕に抱き着いた。
「お、おい!」
「いいじゃない。もうリューくんの女なんだから!」
「まあ、良いけどよぉ」
それを見たリューのファンは何が起きたか把握したらしい。
『ちょっとぉぉぉ! 私達のリューくんに何してんのよぉぉぉ!!』
『そうよ!』
『あんたさっきまで、リューくんを睨んでたじゃないのよぉ!』
「外野がうるさいわねぇ。過去のことはもう忘れたわぁ」
シレッとそういうと、リューは呆れた。
「お前さぁ、ホントいい性格してんな」
しかし、ふふっと笑って肩に頭を預けるララ。
『それでは、表彰式を始めます!』
『ブロンズカップ、シルバーカップの優勝者は前へ! ……ゴニョゴニョ……一緒の方がいいですよね?』
「そうねぇ」
一緒に前に出るリューとララ。
『優勝者には、賞金と優勝カップが送られます!』
こうして、ブロンズカップ優勝、そして、エキシビションマッチで中級のシルバーカップ優勝者に勝ち、自分の女にするという伝説を残したのであった。
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