女騎士に報せが届く
ボルガ歴575年。圧倒的な武力により周辺国を蹂躙する騎士王国にもはや敵はない。領土はかつてないほどに広がり、その上、更に遠征をくり返し、支配圏を今も広げている。
騎士王国第一騎士隊隊長、アイリス・ヴァレリアは近くにある村で人が消えるという噂を聞きつけ、近しい騎士数人を引き連れ、その調査へと乗り出すのだった。
第一騎士隊長と言えば、つまり騎士王国において、王であるヴァレリアを除けば最強という称号である。
騎士王国は完全な弱肉強食の世界である為、実戦闘の強さがそのまま地位に直結するからだ。
そんな強者がなぜ侵略戦争に赴かずに自国に留まっていたのか。もちろん自国守護という名目があるにはあったが、実情をいえば彼女には侵略戦争のような弱者をいたぶる戦いが退屈でしょうがなかったのだ。
それだったら自国領内で同じ騎士同士で模擬戦でもしていた方がよっぽどマシというものだ。しかし、そんな日々にもアイリスはヒマを持て余し始めていたのも事実だった。
そんな折、近隣の村から村人の消失報告が上がり始めたのだ。
どうせこれも大した事件ではあるまい。地理地形を理解しない愚かな野盗が、村を襲撃した程度の出来事に過ぎないのだろう。
本来ならアイリスが出張るほどの出来事ではなかったのだが、暇を持て余していたアイリスは気慰み程度の気分で出撃することにしたのだった。
もちろん百人単位の隊列を組む行軍ではありえない。近しい部下5名だけを連れたお遊び気分のものだ。
「ちょっとは楽しめるといいですけどね……」
そう言いながらアイリスに付き従うのは、副隊長のパリスだ。アイリスが連れる5人の騎士は、パリスを含めて全員男だった。つまり、男5人ともがアイリスよりは弱いわけだ。騎士王国の今代の王ヴァレリアは男だが、先代、先々代と女王だった。完全に女系とは言わないが、騎士王国の女騎士は強い。今いる十一人の騎士隊長の内、七人が女であることからもそれがわかるだろう。
「いいや、行くとは言ったが私は正直期待はしていない。楽しめるどころか多少の歯ごたえくらいあれば幸運くらいに思っておこう」
アイリスは息を吐き、部下と共に村へと進んでいった。