表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悪の宰相を倒す話

悪の宰相を倒した後の話

作者: くま

 とある国の宰相補佐官だった少女を女王に戴き、元魔王と元勇者が国を興してからはや数年。本当に、本っっっっっっっっ当に色々あった。

 具体的には、反発する元魔王軍を元勇者の騎士団長が力業で黙らせたり、元勇者を慕って押し寄せた聖職者たちを一部を残して元魔王の魔術師団長が策を弄してお帰りいただいたり。

 そして、勇者と共に魔王を倒す旅に出たはずの元王宮魔術師である俺は、いつの間にかこの国で宰相を務めている。……なんでだ(泣)


 そんな俺の目下の悩み。それは、我らが女王陛下の結婚についてだ。

 女王陛下も適齢期。『女王』である以上、王配という形で婿を取らなきゃいけないんだけど。その相手をどうするかってんで騎士団長と魔術師団長が揉めに揉めている。


「だーかーらー、新しい国なんだからどっかの国の王族と結婚して後ろ楯を得るべきなんだって!」

「それよりも国内の有力貴族と縁を結び内部の安定を図るべきではないかえ?」


 どっちも正論。どっちも譲らず。この議論が始まって半年、当事者の女王陛下は「適当でいいよ」と素知らぬ顔だ。それよりも、若い女王をナメて悪さをするやつらを叩き潰すことを楽しんでる。羨ましい。

 祖国にいる間は『ドS』呼ばわりされてた俺だが、女王ほど歪んじゃいなかった。というか、宰相になってからは好みの相手を探しに行く暇もありやしない。わざわざ娼館に通って手に入れたスキルが錆び付いたらどうしてくれる。

 ダンッ!

 いつまでもうるさいどころか、胸ぐらを掴んで殴り合いに発展しそうなふたりにいい加減堪忍袋の緒が切れて、俺は思い切り執務机を叩いた。


「いい加減にしていただけませんかねえ、騎士団長に魔術師団長。今は陛下の結婚について協議する時間じゃねぇんですよ。隣国の侵攻に港を貸すかどうか。今、決めなきゃいけないのはそっちでしょうが。それでも騒ぐというのなら……わかりますよねぇ?」


 執務机の横に置いたカバンから赤い麻縄を取り出して、ふたりに見せつけるように机に叩きつける。名誉のために言っておくが、俺は仕事場で遊んだことはない。これは陛下が斡旋してくれた遊び相手のおねだりに応えるために休憩時間に手入れするために持ってきただけだ。ま、仕事を早く終わらせられるならいくらでも使うんだけど。


「んで、どうするんですか?陛下はおふたりの意見を参考にしたいそうですが」

「貸すわけないじゃん」

「議論するまでもなかろう」


 意外だ。騎士団長はともかく、魔術師団長は貸してもいいと言うかと思ってたけど。


「何故?」

「そうだのう……理由はさまざまあるが、一番はメリットがないことか」


 隣国(祖国)は、世界最強と言ってもいい軍事力を誇る我が国を避け、飛び地の島国を攻めることにしたらしい。そのために海のない隣国は我が国の港を使いたいと打診してきた。


「メリットどころかデメリットしかないじゃん。考えてもみろよ、島国を落としたとして、あっちには海がないんだ。次に狙われるのは隣接してて港があるウチだろ」

「近頃、隣国は周辺国に秘密裏に同盟を持ちかけているとの情報もある。どうせ戦になるのであれば、軍を分割させねばならぬ挟み撃ちは避けたいところであろう?」


 確かにその通り。この点に関しては女王陛下も危惧していて、港を貸さない方向で話を進めたいと言っていた。軍の要である彼らもおそらく同意見だろうけど、念のため確認をというのが今回の指示だ。

 まったく、仕事ができないわけではないのにどうしてうちの国のトップは揃いも揃って残念なのか。


「ではそのように陛下にお伝えしておきましょう」

「ところで、オレもう二ヶ月くらい陛下に会えてないんだけど?」

「我もだ。何故陛下は我らを避けるのだ?これ程忠誠を誓っておるというのに……」


 あんたらが口を開けば結婚結婚言うからでしょーが。ま、こいつらに反乱でも起こされちゃ堪らないし?実は呼んであるんだよな、女王陛下。


「宰相、いる?」


 軽いノック。返事を待たずに扉を開けたのは、我らが女王陛下。

 あ!公式な場じゃないからって、またキュロットなんか履いて!恥じらいというものはないのか!?

 ぐりんと音がしそうな勢いで振り返ったふたりに、女王陛下ののどから「ひぃっ」と音がした。


「ナイスタイミーング。ちょうどおふたりの意見がまとまったところです。やはり港を貸すのは危険でしょう」

「うん、わかった。あ、あと結婚決めてきたから!」

「「「はい?」」」


 ……今、なんと?


「結婚決めてきた。相手はふたりね。ひとりめは隣国の侵攻相手の島国の王子。側妃腹の第三王子なんだけど、母親の実家が正妃の実家より家格が高いからって反王太子勢力の神輿にされそうだから国外に出たいんだって。今回の侵攻に協力しないことへの感謝を表して属国になってもいいって言うから、属国にならなくていいから婿になってって言ったら二つ返事で了承してくれたよ」

「…………それは、いつ決まったので?」

「さっき。特使として本人が来てたから話してみたら喜んでたよ?王太子に気を使って婚約者もいないからって。できるだけ早く国王に許可もらってくれるって」


 いや、待て待て待って!なにそれ、情報量が多すぎる!島国の王子と結婚?国内の反発どうすんだよ!?その前に隣国の侵攻に協力しないって決まったのはついさっきなのになんでもう特使との会談が終わってんの!?しかも俺宰相なのになんで陛下の予定知らないの!?ていうか、なんで色々事後報告されてんの!?大事なことだからもっかい言うけど、俺、宰相なのに!

 一瞬でさまざまな考えが頭の中を駆け巡る。俺の混乱っぷりなどものともせずに、女王陛下は「じゃ、そーゆーことで」と片手を挙げてどこかへ行こうとする。


「待て」


 一緒に呆然としていたはずなのに、我に返った魔術師団長が女王陛下の首根っこを掴んで引き留める。猫のように吊られた女王陛下は不満たらたらの顔で「なに?」と唇を尖らせた。

 いや、なに?じゃなくて!どうせこの後視察という名の治安維持(主に悪いやつに生き地獄を見せる課外活動)に行くつもりなんだろうが。この面子が揃ってたら行かせねえよ?


「ふたり、と言ったな?」

「そうだよ、確かにふたりっつった!もうひとりは誰だよ?」

「宰相だけど?」


 サイショウダケド?


 サイショウ……宰相ってなんだっけ?ああ、俺の役職だわ。


 うん?てことは、相手、俺?


 騎士団長と魔術師団長が俺を見る。真顔で固まってるのを見て、女王陛下を見る。ちなみに陛下はまだ魔術師団長に吊られてる。


「へ、陛下?初耳なんですが?」

「言ってないからね。ていうか、さっき決めた」

「なんで?」


「国外との縁を結ぶべき」


 ビシッと指差されて、騎士団長が怯む。


「国内の安定を図るべき」


 同じようにされて、魔術師団長が思わず女王陛下を手離した。


「ふたりともの意見を取り入れて、かつあなたたちを押さえ込める相手って言ったら宰相しかいないじゃない?よそから婿入りしてくれる人にそこまでは求められないし、かといってふたりのどっちかなんてなったら騎士団と魔術師団で揉めて王都が焦土になりそうだし。ってことで宰相に決めたの。来年には挙式だから準備よろしくね」


 にっこり。有無を言わさず、ナチュラルに準備を押し付けた女王陛下は、俺たちが話についていけずにいる間に逃げ出した。

 ひとまず、女官長を呼び出してさまざまな手配の打ち合わせをしなければ。こうなっては騎士団長も魔術師団長も邪魔だ。俺は慌ててふたりを陛下の捕獲に向かわせ、女官長を呼び出してもらうよう侍従に命じた。


 二ヶ月後、たくさんの荷物と共に島国の王子がやってきて王宮に住み着いた。

 それからさらに半年と少し後、俺は彼とお揃いの婚礼衣装を身につけて女王陛下の隣に立ち、三年後には一児の父となった。最初こそ敵意を隠さなかった元王子も、二児を儲けた後はずいぶん丸くなって、俺たちは仕事嫌いな女王陛下の脱走を阻止する仲間として協力体制を敷くまでに打ち解けた。


 国を興して二十年もたつ頃には、子供たちも母を見習って立派に脱走するようになり、彼らを追いかける俺たちの姿は王都の名物として広がっていた。

 もし、時間が巻き戻せるなら、魔王討伐隊に選ばれて前払いの褒賞金で娼館通いをしていた自分に言ってやりたい。

 魔王討伐は鬼門だ、今すぐ逃げろ……と。



 ハァ、ほんとに、一体どうしてこうなった……。



お読みいただきありがとうございます!

そのうち入り婿編も載せれたらいいなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ