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プロローグ(7)

「こちら側が【呪い】を使えるようにしたいのは、あくまでこの国を守ってもらうためだ。

 キミのような小さいやり方で収まりそうな子にまで、この【呪い】を教える時間なんてものはない」

「……じゃあ、何か? アンタは軍のようなものだってことか?」

「軍なんて大層なものじゃない。

 そもそも守って欲しいのは他国からじゃない。この世界の人間が相手なら、この国の人が対処してくれる。

 こちらは本当、自分の世界の人間同士で争っている余裕なんてものがない。想定している相手は、もっと厄介なものだ」

「なんだ? それは」

「『転生人』だよ」


 言って今度は、意識だけをこちらに向けてくる。

 視線なんてものはないのに、まるで見られているかのような感覚が全身を覆う。

 もちろん、ボク自身が転生人だからくる、ただの自意識過剰なだけかもしれないが。


「とはいえ、それが一番厄介というだけだ。

 普段、一般的にやることは簡単だ。

 今やっているみたいに勧誘したり──相手の【呪い】を、同じ【呪い】で封じたり、ってな具合だ」

「っ!」


 何かが、一気に膨れ上がった。

 こちらを向いていた意識が──それ以上の何かが、喫茶店前の道路全体に広がったような、重苦しさが。


「……っ!」


 それを、男性も感じ取ったのだろう。

 半身になり、先生を睨む。


 ……ボクに向いていた【呪い】が解かれたのか、ずっと内側に燻っていた、抑えつけていないと爆発していたであろう苛立ちが、消失している。


 先生に集中しなければならないと、そう判断したのだろう。


「【呪い】ってのはキミが使っていた通り、【呪い】を使えなくても何となく分かる。

 無自覚にであれ、自覚的にであれ。

 それは心に、体の内側に、直接影響を与えるからだ。

 そしてその防御力は、精神力に比例する。

 今この瞬間、こちらがキミを『呪っている』と思わせるだけで、その影響は一気にキミへと訪れる。

 ……今、こうして空気が重くなって、何かを察知したキミのそれと同様に。

 察知したからこそ、余計に、さらに強く、こちらの【呪い】が、キミにより強い影響を与えていくように」

「っ!!」


 ガクンと、男性の片膝が崩れた。


「ぐっ……!」


 しかしそれも一瞬で、すぐさまその膝に手をついて、上体を起こして立ち上がる。

 何があったのかはもちろん分からない。


 しかしその“分からない”こそが【呪い】なのだということは、理解できた。


「あっ……!」


 と、声を上げたのはボクだ。

 立ち上がると同時、男性が背中を向け、こちらから離れるために逃げ出したからだ。


「先生……!」

「【呪い】が距離で変わると思っている段階で、もう遅い」


 角を曲がって逃げる男性を無視し、言葉を続ける先生。

 おそらくそれは、ボクに向けての説明だからだ。


「“呪われている”と思い込んでしまうことこそが、【呪い】の力を強める要因となる。

 だから如何にして、【呪い】をかけられているのかを相手に悟らせるかが重要だ。

 今回みたいに直接見せつけ自覚させてもいいし、呪っていると相手に告げるのでもいい。

 必要なのは、相手自身が“呪われている”と思い込むこと」

「じゃあ……追いかけなくて良いんですか?」

「そ。【呪い】と言っても、そんな分かりやすいものである必要もない。

 今回の説明を聞いて、自分の能力が封じられるかもと思い続けるだけで、相手は身体が重くなる。

 そして重くなればなるほど、その【呪い】を自覚する。

 そうして自覚を強めた瞬間に──」


 そこで言葉を止めた先生は一度、手を上げる。

 天を指差すように。


「──相手が【呪い】を使えなくする【呪い】をかければ良い」


 その動きに、意味があるようには思えない。

 だけどきっと、意味があったのだろう。


「いつものように使おうとしても、何も思い出せない。

 どういう感覚で使っていたのかが分からない。

 それを思い出そうとすればするほど、今のように体の重さを自覚する。

 そして【呪い】を強固にする。

 それを繰り返す。

 だから次第に、考えないようにするしか無い。

 そうすれば体の重さは解除されていくし、忘れていくものを無理に思い出すなんて疲れて体を重くすることをしていくこともなくなるしな」


「……でもそれって、本当に掛かってるんですか? 確認した方が良いんじゃ……?」

「確認ならとっくに出来てるよ」

「え?」

「こちらは相手の【呪い】を察知してここまで足を運んだぐらいだからさ。これぐらいの距離なら見なくても分かるさ。

 それに、迂闊に追いかけて、こちらがそんなことをしようとしていると気づかれてしまったら、それこそマズい。

 【呪い】を信じなくなってしまって、ちょっとでも威力が弱まってしまうかもしれないだろ?」


 そういうものなのか。

 【呪い】というものは。


「じゃあ、コレでとりあえずは、こちら側のやりたいことの一つ目は分かってもらえたかな」

「……【呪い】を封じるってこと、ですよね?」

「まあ、そうなることの方が多いけど。

 正確には、こちら側についてもらえるよう交渉する、ってところかな」

「交渉……?」


 アレが……?


「……ああ、学校に誘うってことですね?」

「まあ、今はそんなところになるかな」

「今は?」


 どういうことだろうか……? ちょっと前までは違う、ということか……?

 それとも──


「もしかして、さっきは否定してたけど、やっぱり本当は軍とかそういう組織に入ることになる、とか?」


 ──後々は違う、ということ……?


「最悪、戦争に駆り出されるとか……?」

「戦争にならないよう立ち回るために動く。

 そうするためにこの【呪い】があるんだよ」

「……国内での過激な治安維持、ってやつ?」

「それが正しいかも。

 ただその【呪い】をかける対象は、国民じゃない」

「ん……?」


 どういうことか分からず首をひねるボクに、先生は続ける。


「さっきのヤツみたいに、私利私欲で【呪い】を扱うのは論外だ。

 じゃあ誰に【呪い】を使うのが正しいのか?

 それはなね……キミだよ、イオリ・ゼイグル」

「……………………え?」






「キミのような転生人こそが、この【呪い】をかけるのに相応しい相手なんだよ」

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