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プロローグ(6)

「でも俺は、このアンタが【呪い】って言ってる力について、このままで良いと思ってる」


 こちらが自分にとって害為す存在と悟った男は、すぐに自分の【呪い】をそのままにしてもらうよう話をもっていこうとしてきた。


「……他人を苛つかせるだけで良いってことかい?」

「そうじゃなくて。

 何か特別なものにする必要はないと思ってるってこと。

 だってコレは所謂、俺の生まれつきの体質みたいなものだろ? それをどうこうしようとは思わない。自然派なんだよ、俺は」

「自然派、ね……」


 先生の噛みしめるような間。

 しかしそれが本当に、その言葉を受け入れているからこその間ではないことが、何となく分かった。


「ならキミは、意図して【呪い】を使ってるつもりはないと」

「もちろん。なんかさっき、急に使えなくなってどうの、って言ってたけど、それについて違和感があったからどういうことだろうと疑問になっていたら、また相手の女の子たちが急に苛つきだしただけだ。

 そこに俺の意思はない」

「使えなくなって疑問……?」

「そっちの言い分じゃあ俺は、相手を苛つかせる人、ってだけなんだろ?

 そういうのが抜けて、急に苛つかなくなって驚いてる女の子二人が目の前にいたら、こっちだって逆に驚くさ。

 今まで怒ってたのに急に怒らなくなってどうしたんだろ? ってさ」


 男性の言い分をまとめると、あくまでも自分には【呪い】を扱えている自覚がない、と。


 この男はただそれを、長ったらしく、言い訳がましく言ってるだけだ。


 体質としてあったものが、無くなったのだから。


「ふっ」


 ただ先生は、その男性の言葉を一笑に付す。


「苛つかせるだけの人なら、そもそもこちらがかけた【呪い】なんてものは効果を発動しない。

 さっき立ち去った女の子たちにだって、【呪い】はかけていない。

 【呪い】を使ったのはそちらに対してだ」

「え?」

「今のお前がまた、【呪い】を使えなくされていることにも気付かない。

 それほどまでに力の差があるんだよ」

「……っ」


 男性が浮かべた一瞬の動揺を、先生は見逃さなかった。


「ま、嘘だけどな」

「…………は?」

「嘘だよ。立ち去った女の子たちに【呪い】をかけていないのも、今のお前に【呪い】をかけているのものな。

 ま、力の差が歴然としてるのは事実だから、こちらには届かないけど」


 先生の言葉が正しいのは、ボクなら分かる。


 なんせボクはずっと、彼を見ているだけ苛ついていたのだから。


 今まで二人のやり取りに口を挟まなかったのだって、何か反応するだけでそのまま相手に罵詈雑言をぶつけて、会話を止めてしまう気がしていたからに過ぎない。


 きっと目の前にいる男性も、それを狙っていたのだろう。

 ずっとボクに【呪い】を使うことによって。

 

 ……苛立ちを堪えるのが大変だった。

 爆発させ、事を「なあなあ」で済ましてしまっていたかもしれない。


「でも今の反応は答えも答えだ。

 自発的に使っているんだろ? だから反応した」

「そんなことをして、俺に何のメリットがあるって言うんだよ。

 苛つかせるんだっけ? そのせいでああして邪険に扱われるとか――」

「そういう趣味なだけだろ、ドM。

 女の子に敢えてイジメらてた時の気持ちはどうだった?」

「――……憶測で人を侮辱するなよ。

 【呪い】なんてものを持ち出して人を馬鹿にして……」


 確かに、【呪い】自体が無いということにしたら、先生の言葉は何もかもが妄想の産物でしかなくなる。


 でもボクは、とっくに【呪い】というものを分かっている。

 だから先生の言葉が本当だということも分かる。


 もし本当に無自覚なら、先生の封印がそのままだったに違いないことも。


 解除され、新しく使われ、ソレがボクにも向けられ、その意図が明確過ぎる程に分かりやすい以上、男性の言い分は嘘にしか聞こえない。


 もちろんこんなもの、証拠として弱すぎる。


 そもそも【呪い】を周りに証明すること自体が難しい代物だろう。

 もし容易に──それこそボクの記憶にある、ゲームでよく見る魔法のように分かりやすければ、すぐに証明できたに違いない。


 それにそもそも先生の目的は、彼が【呪い】を使っているからと言って、彼自身に暴力を振ることではない。


「ならキミは、【呪い】を信じないのか?」

「ああ」

「それは残念だ。

 実は今日ここに来たのは、キミのこの悪事を暴きに来た訳じゃないんだ」


 口調を気持ち穏やかにしながら、先生はその目的をようやく口にした。


「この、こちらが【呪い】と呼ぶ能力を磨くための学校があるのだけど……入学してくれないか、というお誘いだったんだ」

「学校……?」

「この辺は富裕層の地域だろ? それにああして喫茶店で、女性二人と会話を楽しむ余裕もある。

 君は学校に通わず、家に教師を呼んで勉学を学んでいるタイプだろ? それを切り替えて、こちらの学校に来てくれないかという話だ」

「……ちなみに、場所はどこだ?」

「申し訳ないが、南の住宅エリアだな。ここから通うにはかなり遠くなる感じかな」


 答える先生を見ながらも、こうして興味を持った段階で、能力の自覚があるのはやはり間違いないんだろうなぁ、と脳裏をよぎった。


「そんなに遠いなら行く価値が無いな……そもそも俺自身、この【呪い】とやらに自覚が無いんだし。

 今みたいに、そっちからは来てくれないのか?」

「来れないね。他にも教えてる人がいるからね」

「そっか……。……ちょっと、考える時間をくれないか?」

「考える時間?」

「ああ。俺自身、正直この能力を制御できるようになりたいとは思ってる。

 だから行きたいとは思っているが――」


「ああ、もういいよ。

 ここまでで、やりたいことは終わったから」


「……………………え?」

「キミはもう十分制御できてるだろ?

 それが分かっていながら誘ったのは、今日この場に、こちらがしていることを最後まで教えたい人がいたからだよ」


 言って、ボクの方をチラりと見る。


「まあ簡単に言えば、本気で誘ってなかったし――失礼を承知で言えば、ただの練習台にさせてもらっただけさ。誘い文句のテンプレを見せる、って形でさ。

 もし今日、この場に、こちらがしていることを教えたい人がいなければ、こんな会話をすることもなかったぐらいだ」


 手を差し伸べた側が、いきなりその手で引っ叩いてくるものだから、男性の方も絶句してしまっている。


「こちらが誘っているのは、【呪い】を他人に対して、私利私欲に使わない人だけだ。

 キミみたいに自分のために、制御できていることを隠してまで使い続けようとしている子まで誘うほど、こちらも落ちぶれてはいない」

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