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プロローグ(5)

「……あの男、見てどう思う?」

「どう、って……」


 出てきてすぐ、女の子たちだけで何やら笑い合っている後ろに立つ男性を見る。

 一人だけ財布を出し、おそらくはお金を出させられたのだろうその姿を見て……また、無性に苛ついてきた。


「心がザワつくだろ? それが彼の【呪い】だ」

「え? でもさっき先生が封じたって」

「自分で使おうと思ったら解除される、って言っただろ?」

「あ……」


 つまり彼は、自分で【呪い】を制御できる人間だった、ということだ。

 ……嘘をついていた、ということになるのか。


「もちろん、色々と練習したりこちらから勝手を教えたりできれば、ああした自分だけの【呪い】以外にも使えるようになるんだけど……どうやら、そこまではいってないみたいだ」


 何かを言った男性に向け、女の子の一人が「あぁ?」と凄んだのが分かる。

 というか、実際にその声が聞こえてきた。閑静な住宅街だからこそだろう。


 次いで、もう一人の女の子に、勢いよく肩を突かれているのを見て、疑問が浮かぶ。


「でも、それならよく分からなくないですか? せっかく女の子たちからああしたことをされなくなったのに、また【呪い】を使いたいだなんて考えて、あんなことをまたされるようになるなんて……。

 そもそも店の中での先生の説明だと、誰かにその【呪い】をかけられてるみたいな言い方だったじゃないですか。

 むしろその方が納得できるんですけど」

「そんな難しく考える必要はないさ。

 単純なんだよ。これは」


 自分自身で考えてみろと言われている気がして、少し考えてみる。


「……呪われていたけど、その呪いを自分から制御できるようになった、とか……?」

「違う。そうじゃなくてただ単純に、好きなんだろ、そういうのが」

「……そういう……?」


 意味が未だ分かっていないボクの疑問には答えてくれず、さて行くか、と路地から出てそちらへと向かい始める。

 まだ女性二人がいるのに行っても話がややこしくなるんじゃ……と思いながらも、何か考えがあるのだろうとその後についていく。


「や。お三人方」


 まだ男に向け、静かに罵声を浴びせていた女性二人がこちらを睨む。

 やはり男に対しての怒りを持続させた上のもののように見える。


 それに、先生に言われたことを意識して男を見てみると……確かに彼は少し、不満げな表情を浮かべていた。


「なに? さっきのおっさんじゃん。帰ったんじゃなかったの?」

「いや、帰ってほしいのは君たち二人かな。

 こちらは彼に話があるんでね」

「はぁ? なん……で…………」


 苛立ちをそのまま言葉にしようとしていた女の子二人が突然、その熱量が消失したかのような戸惑いを浮かべた。


「ああ、気にしなくて良いよ。

 もう彼に対しての用事はないだろ?」

「ああ……まあ、うん」

「帰ろっか」


 今までの自分の行動や、急にポッカリと空いたような喪失感に戸惑いながらも、二人は顔を見合わせて、喫茶店の前から離れていく。


「え、ちょっ……ま、また明日!」


 女の子二人のその行動に驚いたのは、例の【呪い】持ちの男性だった。

 それでも何とか二人に別れの挨拶をするが、立ち去る二人がそれに振り返ることも返事をすることもなかった。


「君がやっていることと逆のことをしただけだ」

「逆……?」


 どういうこと、というような目を先生に向ける男性。

 その視線に対し、ボクの心の内側が、文字通り気持ち悪いぐらいの、出所の分からない熱が広がっていく。

 【呪い】の効果だと教えられていなければ、弱いくせに殴りかかってしまっていたかもしれない程だ。


 ということは、先生は彼の【呪い】を無効化した訳ではない。

 彼に向けて言っていた通り、あの女の子二人にだけ、別種の【呪い】を上書きしたのだろう。


 それこそ、彼が再び彼女たちに【呪い】をかけようとしても無理なほど強い【呪い】を。

 でなければきっと、彼が最後に別れの挨拶を叫んだ時に、彼女たちは再び彼の【呪い】にかかっていただろうから。


「こちらにまでそちらの【呪い】をかけようとはしないで欲しいな。

 言っただろ? 話をしたいだけだと」

「……俺からは話すことはありませんよ」


 意外だった。

 何となく、女の子たちに責められている時の態度から、一人称が“僕”だと思っていた。


「まあそう言うなって。同じ【呪い】を使う者として、話を聞くべきだろ?

 さっき言った逆のことも教えてやるからさ」

「別に、いりませんよ。

 それに同じ【呪い】ってなんですか? 俺にはそんな力はありませんから」

「使えなかったものを無理矢理、自分の意志で使おうとした奴の言葉としては説得力に欠けるね。

 キミは、自分の力を理解して使っている。

 いや、それに【呪い】なんて言葉が付けられていることを知らなかっただけか? それなら確かに、こちらが勝手に名付けているだけだから納得できる。

 でも――」


 そこで一度言葉を止め、先生は顎で男性を指して、言った。




「――キミはさっき、【呪い】のことを“力”と言ったばかりだろ?」




「…………」

「意味が分からない言葉なら、それを言われたからと言って力とは表現しないはずだ」

「……アテが、あっただけだ」


 ようやく、先生の存在が、男性にとって障害になると判断したのだろう。

 その言葉に、丁寧な装飾が施されなくなった。

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