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プロローグ(10)

「……ふっ!」


 理解した【呪い】を自分にかける。


 その内容は至って単純。


 自分の身体能力を上げる【呪い】と、痛覚を遮断する【呪い】だ。


 だから――背中に回された腕を強引に、肩の関節が外れるのも構わず動かし、無理矢理解く。


 本当に痛みはない。


 代わりに、動かした感覚もイマイチ鈍い。部分麻酔のような感触だろうか。


 でもそれを、そうして理解するよりも先に、背中に乗る先生を立ち上がる勢いで無理矢理退かす。


 そしてそのまま身体を回転し、その勢いを乗せたまま回し蹴りを放つ。


「っ!!」


 その回し蹴りを腕を上げて受け止めて、その威力を殺すためなのか、ボクから距離を取るように離れてくれる。

 不意打ちだからこそ成功したものだろう。

 何となく、次はこんな大振りな攻撃が通じるようには思えない。


「ふぅ……」


 膝を曲げたまま着地し、痛覚遮断の【呪い】がある間に肩の関節を、もう片方の腕を使って繋ぎ止める。

 そして鈍い感覚なのを取っ払うために、【呪い】を解除。


 鈍い痛みは走っているが、それでも動かすことに支障はない。


「……どうした、イオリ。その身体能力は」

「教えてもらった【呪い】の応用ですよ」

「……ただこちらの【呪い】を使えるようになるだけかと思ってたけど……まさかそんな、自分にも【呪い】をかけられるよう出来るなんてね……。

 それ、こちらでも出来ないことだよ」

「そういう言葉が、嬉しいんですよ」


 フラりと立ち上がり、静かに腕を下げたまま、先生と対峙する。


「ボクは何も出来なかった。でも教えてもらった【呪い】を学んで、理解して、自分なりに分解して……自分なりの使い方をしたんです。

 その結果が、あの運動神経ですよ」


 正確には体幹の強化だろうか。

 力の強さを上げるよりも、身体のバランスを整えたほうが、マンガで見たことがある動きが出来ると確信した。


「ふぅ~……これで、本当に厄介な敵になったか……。

 だからイオリに【呪い】を理解させるようなことはあまりしたくなかったんだ。

 でも理解させなければおそらく、【呪い】を強くすることも出来なかったから、キミのその能力によって防がれていた。


「でも防がれないよう強めた結果を、逆に利用しました」


 そうならない内に倒してしまいたかった、ということか。


 ……でも、それにしては……。


「……それならどうして、さっきボクを押さえつけた時に、ナイフで刺したりして殺さなかったんですか?」


 もしくは、弱っている間に、もっと強い【呪い】をかけるとか。

 そういうことをしなかった時点で、先生にはまだ、話し合いの余地がある。


「もし、それがボクを助けてくれるかどうかの迷いだというのなら……ボクを、見逃してはもらえませんか?」

「……それは出来ないな」

「あなたと一緒に、学校に通い続けることも、ですか?」


 きっと先生はまだ、世界の改変をされることを警戒している。


「ボクが学校の中に【呪い】の学科を作ったのは、ボクの望みを叶えるためだと、先生はそう訊ねましたよね? ええ、その通りでした。

 思い出しましたよ、ボクの望みを」


 先生に答える隙を与えてはいけない。

 きっとそれよりも先に、ボクの考えを告げなければいけない。


「ボクの望みは、特別になることです。

 そしてこの特別というのは、さっきみたいなこと。

 先生や他の人に、少し違うことをする奴と、思われることです。

 だからきっと、学校という組織に、【呪い】を使う組織を組み込むよう、この国の制度が改変された。

 だってボクのこの望みは、周りが“特別”と認定するだけの、何かしらの“物差し”が必要ですから」


 つまり組織の中で周りに認められて初めて、ボクの望みは叶うということ。


「もちろん、世界を救う勇者のような特別もあると思います。

 だけどボクが望むのはそういう強い“特別”じゃなくて、周りがちょっと上を見るだけでいる“特別”なんです。

 ちょっと一目置かれるような、そんな適度な距離感での特別です」


 強すぎては英雄視が強すぎて、特別が過ぎる。


 そうじゃない。


 あくまでボクが望むのは、近い距離での特別なのだ


「だからボクは、未だあなたのことを先生だと思っています。

 先生ほど凄い人にだからこそ、さっきみたいに特別だと言われてこそ、ボクの望みは叶いますから」

「……ならキミは、こちらが望んでいるようなことを、しっかりしてくれると?」

「はい。

 他の転生人が怖いというのなら、この教えてもらった【呪い】を使って、ボクにしか出来ない方法で、解決します。

 そうすることでこそ、特別になれますから」

「……この世界の国だって限りがある。

 世界は拡張されない。

 だから転生人だって、一つの国に一人という訳にもいかない。

 一つの国に複数の転生人だっている。

 そうなった場合……後で生まれた転生人は、よく外の国に行くんだよ」


 そこで一度、言葉を切る。


「自分では前までいる転生人が倒せなかったり、その国のシステムを変えたくない事情があったり……後で生まれた転生人に敗北した場合は、平気で他国にやってきて、その改変能力を使ってくる。

 もちろん、本人にとっては無自覚にね。

 もしかしたらそうした旅立ちの決心すらも、改変された噂話とかでキッカケを与えられるのかもしれない」

「つまり……その、そうやって外からやってくる転生人を、倒していく……」

「改変された世界が元に戻らない以上は、早々無いけどね。

 大事なのは、改変された以上に、もっと酷い改変をされないという確信かな」

「えっ?」


 それじゃあ……!


「改変能力は無意識下でしか発動しない。

 つまり一度、転生人がその自分に与えられた世界改変の特性を理解すれば、使うことがほとんど出来なくなる。

 そうなった以上イオリはこちらにとって不都合なことは何も出来ない。本人が協力的でもあるしね。

 学校内の組織としての形態は意味が分からないが、その能力を、他にもっと厄介な転生人が来た時の対処に使ってくれるのなら、天秤にかければ我慢できる要因だとも思える」


「我慢?」

「学校ということは、その学校の行事ごとにも参加しないといけない。校則もあったり授業もあったりと、色々と面倒なことのほうが多いんだよ」


 それでも、ボクが協力するのなら、それぐらいは我慢してくれる。

 それが、それこそ特別視の証だからこそ、嬉しくて仕方がなかった。


「何より転生人としての改変がバッティングした場合、キミが改変したことを上書きするような内容なら、相手のものは実現されない。

 学校という組織形態もまた守れるようになるのなら、こちらも学校にいる学生も守られることになる。それもまたプラスではある」


 ……ふと、ある考えが脳裏をよぎる。


「もしかして先生、最初からこうなるように仕組んでました……?」

「一番最高の結末だとは、考えていたさ」


 とぼけるような言い方に、ボクを殺そうとしながらも本気で無かった理由が、ようやく分かった。


「人は窮地に追い込まれなければ本音を話さないし、こちらが本気だと分かってくれなければ話を信じてはくれないだろ?」


 喫茶店で出会った男性にしていたようなことを、ボクにもしていたと、そういうことか。


「こちらはその場での嘘を見抜けないから、話を信じてもらえる土台を作る必要があってね。

 こうすることしか出来なくて、悪かったよ」

「……まあ、良いですけどね」


 そうまでしてまでボクを特別視してくれていたということでもある。


 それに言い分も分かる。

 もしボクが先生のことを信用していたとしても、【呪い】を理解させられることなく、追い詰められることなく、先生の必死さも伝わることなく、無意識に世界を改変する存在だと言われたところで……信じたかどうかは怪しい。


「でも、ちょっとでも罪悪感があるなら、これまでに話していないことも、ちゃんと教えて下さいね。ルーベンス先生」

「ああ、分かってるさ。

 キミは生徒であると同時、戦友でもあるんだからね」


 静かな高級住宅街の喫茶店の前で行った、ちょっとした騒動。

 だけどほとんどは【呪い】による戦いだったおかげで、周りは閑静なままだ。


 このまま何も起こることはない、ボクは先生と話をしながら、学校への帰り道のため、路面電車の駅へと歩を進めた。

 イオリを主役としたプロローグ10話はここで終わりです。

 次の更新は(何かしらの大病を患わない限り)五月の二十日頃を予定しておりますので、一旦閉めさせてもらいます。


 次はもう一人の主人公として考えている、もう一人の転校生のお話にしようかなぁ…と考えていたりするので、どうかよろしくお願いします。

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