プロローグ(1)
10日間ほど掛けて完結させる予定です。
その後、20日間ほどかけて同世界観の同文量ほどの短編を書いて、再び10日間ほど掛けて投下していきます。
飽きるまでは続ける短編集のようなものにしたいと思っておりますので、どうかお付き合いください。
人生の価値は年齢分の一だと、誰かが教えてくれた。
つまりは、一歳なら一分の一。
十歳なら十分の一の価値が、その人生にはあるということになる。
ボクはその言葉を胸に生きて、二十一分の一の価値がある人生を歩んでいる途中で、その生涯を終えた。
――あなたには、二つの選択肢があります――
聞こえる声は、目の前の美人から。
……美人だと分かるのに、その外見は“分からない”。
見えているのに、キレイだと理解できているのに、外見を詳細に説明ですることが出来ない。
頭の中がソレを拒絶しているような、そもそもそうした機能自体が存在していないかのような、不思議な感覚。
覚えよう、見ようとしても――覚えられないし、分からない。
――あなたが今持っているものと、望むものを一つ与え……元の世界に、記憶を引き継ぐことなく戻る。これが一つ――
――二つ目は、あなたが今持っていないものと、望まないものを一つ与え……別の世界に、記憶を引き継いで向かう――
――あなたは、どちらにする――
どちらに。
それがどういう意味なのか、イマイチ分かっていない。
分かっていないのに、自分の中の核心だけは理解している。
まるで前に一度、同じことを言われたような、そんな確信。
だから自然と、自分の半生を振り返る。
……振り返った、はずなのだ。
――人生の価値は、年齢分の一だと、誰かが教えてくれた。
そんな重い人生を歩んでしまったせいで、どういった人生だったのかは、とっくに忘れてしまった。
ただボクは、こうして少しでも、前世とやらのことを思い出せるから、間違いなく別の世界に来たのだろう。
前世の中でも重みがなかった記憶は、新しい人生の中で培った重みで潰されてしまった。
だから数少なく覚えていることのほとんどが、子供の頃に覚えたことや、死ぬまでに体に染み付いたものばかりだ。
さっきから言っている言葉が、本当に身に沁みている。
ボクが得た持っていないものは、使いたいと思った能力を扱えるようになる能力。
そして望まないものは、後悔ばかりの人生。
それらを得てこの世界に来た。
決めたそれらはボクの中で、かなりの重みがあった。
だからそれらを、覚えている。
だからそれ以外を、覚えていない。
前世の世界がどういったものかを覚えていても、そこでどうやって生きてきたのかを。
子供の頃の重みがあったことを記憶していても、大人になってからの軽い気持ちは、ここには無い。
ある意味幸せで――いや、まさに幸せなやり直し――なのだろう。
忘れている以上は――軽いからこそ無くしてしまっている以上は、きっといらなかったことなんだと思う。
だから、今のボクは無敵だ。
この世界の人が持っていない力を持って。
前の世界で子供の頃から大人になるまでに得ていた重い知識を持って。
この世界でも色々と思考できる能力を最初から持って。
自分の能力を開花させるだけの、才能を発揮して。
こうして今、十歳の誕生日を迎えたのだから。
◇ ◇ ◇
この世界のこの国では、十歳になれば学校へと通うことが許されている。
許されている、というのは、通わなくても良いということだ。
十歳になるまでの間、必要最低限の読み書きは親が教える。
親が教えないのなら家庭教師を雇う。
ちなみにボクの家は親が教えてくれていた。
教えてくれる余裕があっただけ、十分な家庭環境だったと言えるだろう。
そのまま家で教わっているという選択肢が、ボクにもあった。
その方が親的にも、仕事を引き継ぐときに便利だという考えもあっただろう。
だけど、ボクはそうすることなく、学校へ通うことに決めた。
この自覚している異能の力を使って、この国とは別の国に行くことや、この国で重要なポジションに付くよう立ち回ったりすることも出来ただろう。
それこそ覚えている知識を使って偉ぶることだって可能だ。
この世界のこの国は、前世の世界や国よりも、かなり下の文明なのだし。
だからこそ余計に、学校に通うことに価値なんて見出だせない。
……普通ならそう判断し、本当にこの能力を使って、自由に振る舞っていただろう、
そうしなかったのには理由がある。
至って単純だ。
学校に通うよう、学校側から頼まれたから。
だって普通なら、お金を払って入れてもらうところを、お金を払うから入ってほしいと言われたぐらいだ。
この段階ではまだ前世の知識も得た能力も使っていなかったのだが、きっとボクから何かを感じ取ったのだろう。
それはつまり、ボクはその学校では、特別になれるという訳で。
だからこそ価値があると判断し、通うことに決めた。
後悔ばかりの人生を得ることになっているボクは、その中でも特別が欲しいがために、この世界で二度目の人生を歩むと、決めていたのだから。
だから、ボクは向かうことにしたのだ。
その、普通の学校にある、普通のこと以外を教えてくれるという場所へ。