僕らはリアルでガチなフレンズ! ~ 多分人生でたった一度のかずひこ君の大冒険 ~
僕の名前は高遠和彦、五歳だ。
今日、僕は人間として最低のことをしてしまった。
でも僕は全然子供で自分が悪くないって思っている。
だからとっくに家に帰らなくちゃいけない時間帯なのにこうして公園の砂場でうじうじしているんだ。誰もいないのに。
「もう僕は誰にも負けたくないっ!誰にも負けたくないんだっ!!」
僕は、つまらない意地の張り合いから親友のゆうじ君とケンカをしてしまった。
つかみ合い、もみ合いになりゆうじ君を転ばせてしまったばかな僕。
本当の本当は、あの子にすぐにでも謝りたかったのに。
そんな時、黒いマントを着た大人の男が僕の前に現れた。
「子供よ。力が欲しいか?ならば俺がお前に最強の男になる角をくれてやろう」
そう言って男の人は動物の角っぽいものをマントの名から取り出した。
おそるおそる僕は二本の角を手に取る。
「子供よ、その角を頭に乗せるといい。そうすればお前は最強のパワーを授かることになる」
男の人の言う通りに、僕は角を頭に乗せた。
目玉の中でバチバチと火花が散る。
そうまるでこれは脳天に電撃が直入してきたような気分だった。
ボコボコッ!胸筋が膨張し、シャツを内側から引き裂いた!!
バウンッ!!バウンッ!!一瞬で両腕が丸太のように太くなり、半袖のシャツを袖なしのランニングシャツにしてしまった。
どうしよう。お母さんに怒られる。だけど素直に話したら許してくれるかな…。
これはすごいッ!!
圧倒的なパワーが全身に流れ込んでくる。こんなすごいパワーを手に入れてしまってはもう俺は後戻りなんて出来ないッ!!
出来るわけがないんだぁッ!!
俺は覚醒せし獣の本性に従うままにシャツとズボンを引き裂いた。
なぜか下は黒いパンツ一丁だったが、この際だからどうでもいいことだ。
チャリーン。
俺の前を理容店の店員さんっぽい男の人が自転車に乗って通りかかった。
男は「アフロ始めました」と書かれたのぼりを背負っていた。
アフロ、それは男の証。
鋼のような肉体とバッファローみたいな角をゲットした俺におかっぱ頭なんて似合うわけがない。
しかし昨日まで軟弱な坊やだった俺が今アフロにチェンジするってのはどうなんだ?
5歳デビューって、ちょっと恥ずかしいことなんじゃないか?
困惑する俺の肩を理髪店のお兄ちゃんが叩いた。
「お客さん、悩んでるのかい?アフロにするか、それともパンチで止めておくかってね。だったらアフロにしちまえよ。アンタみたいな超人強度一千万くらいありそうな男がこんなところで燻ってちゃあいけねえや。やるなら今しかないでしょ?」
悪魔の囁きが俺の耳を介して魂を震わせる。
アトミック幼稚園、ダイオキシン組の俺が五歳デビュー。
判断を誤れば俺の黒歴史になってしまうかもしれないような大事件だ。落ち着け、俺。
「ひょっとすると、アンタのボディ目当てのヤリ専のセフレも増えますぜ?」
たしかに俺には春の遠足の時から仲良くなった河合ゆみ子ちゃんというステディがいるが、デートの度に携帯履歴をチェックとか少しウザイ。
適当に後腐れの無いセックスに興じることが出来る気軽なパートナーが欲しいのも事実だ。
純愛派の五歳児の俺としては聞き逃せない案件だった。
俺は意馬心猿とばかりに指をパチンと鳴らした。
「そいじゃあ兄ちゃん。俺の頭をアフロヘアーにしてくれや!」
「へい!!しばしお待ちを」
俺は頭をハゲにしてもらってから、アフロのウィッグを装着する。
これはもしも硬度10のダイアモンドボディを持つ元上司と職務の方向性が原因でトラブった時の為の予防策でもある。
こうして俺は一日にして鋼の肉体と、猛牛の角、そしてアフロヘアーという強力な武器を手に入れた。
さっき道すがら側を通りかかった小学生も俺に頭を下げていたっけ。
はんッ!!だらしねえな!!
俺は肩で風を切りながら都城ゆうじの家に向かった。
まってろ、ゆうじ。
俺の全身の力を駆使した破壊奥義、マッドブルトルネードでお前の間違いを正してやる。
そして喧嘩の後はホルモン焼きで一杯(※ジュースです)やりながら仲直りだ。
「カーカカカッ!!遅かったな、かずひこ。俺の自慢のスプリングボディを見ろ。今なら関脇くらいのお相撲さんもこいつで全身の筋肉やら骨やらを破壊して殺すことが出来るだろうぜ!!」
俺の目の前には変わり果てたゆうじの姿があった。
全身のバネを、いやむしろ今のゆうじはバネそのものだった。
「かずひこ!!お前はパワーアップした俺様の力を証明するための格好の素材、ゆえに死ねい!魔技スパイラルデッドエンドホールド!!!
ゆうじはらせん状のボディを巧みに操り、飛び跳ねながら近くを歩いていたお相撲さんに襲いかかった。
危ない!!お相撲さんは一瞬でゆうじのバネのような身体に捕らわれてしまう。
ギリギリギリ。
お相撲さんは脱出しようとするがゆうじの締めつけが厳しすぎて逃げ出すことが出来ない。
恐るべし、ゆうじ!!
「加勢するぜー!!ゆうじー!!うおおおおーーーッ!!マッドブルトルネード!!」
俺は自慢の角を敵に向け、体勢を低くして構える。
そして、そのまま一気に距離を詰めてゆうじもろともお相撲さんを天高く跳ね飛ばした。
お相撲さんとゆうじはきりもみ回転しながら空中に打ち上げられる。
そこを見逃す俺ではない。
俺は次々と落下して来るゆうじとお相撲さんにマッドブルトルネードで攻撃した。
そして、三度目のマッドブルトルネードで大きく打ち上げたゆうじとお相撲さんを追いかけて俺もジャンプした。
「ケケケケーーーッ!!今だ、かずひこ!!俺たちの合体技で止めをさせ!!」
俺は闘牛場でマタドールに仕留め損ねられ、全身をサーベルで傷つけられながらも血潮を滾らせる闘牛のように足で地面をなぞる。処刑の準備は整った。後は実行するのみ。
「やめるでごわすー!!ワシが一体何をしたというのでごわすかー!!」
お相撲さんは両手を振りかざし、必死に助命歎願をする。
憐れな。かつてこの国(たぶん日本以外の場所)ではお相撲さんの戦いは命と命の削り合いが必定だったはず。
このお相撲さんに恨みは無いが、俺の最強伝説の礎となってもらう為に殺さなければならないだろう。
「俺たちに大義名分など無い!!暴れたい時に暴れる!!それが五歳児ってもんなんだよ!!」
俺はニヤリと笑い、お相撲さんの首を足で四の字を作り締め上げた!!
お相撲さんの身体はゆうじの螺旋解体縛りで封じられているので脱出不可能だ!!
そして俺は地面に両手を立てた状態で着地した!!
「見たか!!これが俺たちの友情合体奥義!!デビルリベリオンホールドだ!!」
お相撲さんは頸動脈と首の骨を同時に破壊されたことが原因で「ぐふっ」と口から血を吐いて絶命してしまった。
「これ本当に死んでるの?生きてたらザオリクきかないよ?」
「圧倒的な実力差を知らしめる為に、最大級の威力を持つ必殺技で殺した。しかけた俺が言うんだから間違いない」
「やれやれ。んじゃ、ザオリク!!」
テロレロリロ!!
数時間後、お相撲さんは通りすがりの「趣味で全然知らない人が相手でもザオリクとかを使ってくれる慈悲深い人」に無事蘇生させてもらったので、そのまま九州場所に出ることが出来た。
一方、誰も死ぬことはなかったのでゆうじと俺は逮捕されることは無かったのだが、俺は服を破ったことでゆうじはお母さんに頼まれていたお買い物を忘れたことでガッツリ怒られた。
女っていつでもやつは男のロマンを介さない生き物なんだ。
やれやれ、だぜ。
俺の頭に再び母ちゃんの拳骨が落とされた。
「カズ。ぶつくさ言ってないでさっさと手を洗ってきな。おやつ、あげないよ」
「はーい」
俺は洗面所で手を洗い、母ちゃんの用意してくれたサーダアンダギーを頬張った。
うん。うまい。これでいいのだ。