過去の遺産-04
「おや、これは」
オースィニが、顎に手を当てて、それらの人物を見定める。
「まず君たちに聞きたい。君たちがこの資料に記載してある人物の中で、最も危険視すべき人材は、どれだ?」
と、そこでリントヴルムが手を挙げた。
「複数人良いのかい?」
「五人程度に留めて頂ければ助かるが」
「では先に、私から構わないかな?」
リントヴルムが選ぼうとしている中、オースィニは面白そうに手を挙げた。
「ダントツで島根のどかちゃんだね。例のAD学園で行われていた行事を見学していたけれど、彼女の力量は非常に脅威だ。現段階でもそうだけれど、恐ろしいのは彼女がまだ成長段階という事さ」
修一も頷き、島根のどかの資料を拡大し、表示させる。
「島根のどか、現在十六歳。AD総合学園では一年Aクラスに所属している。学力レベルとして中の下だが、類稀なパイロット能力によって、既に防衛省から声が掛かっている他、海外のPMCからも彼女個人への推薦がある程だ」
「リントヴルムさん、交戦経験のある一人として、彼女をどう評価する?」
「頭のイカれたクソガキ、って所かな」
リントヴルムは笑いながら、彼女をこう評価する。しかし、それは侮蔑ではない。
「大抵の奴は戦場で恐怖心を持っちまうから、いざって時に百パーの力なんざ出せねぇ。アキカゼでぶっ飛んだ機動が出せるってのに、やれ対ショックがどうだとかコックピットへの影響がどうだとかで、マニュアル通りの綺麗で正しい使い方しかやらねぇ。あのフルフレームとやらに乗ってたテストパイロットはこのタイプだ。
けどコイツは違う。なまじ恐怖心がねぇから海面スレスレを飛ぶとか平気でやるし、海面を蹴る勢いを使って上昇なんて太ぇ事しやがるんだ」
「つまり、貴方と同じタイプという事だね」
「分かってんじゃん」
リントヴルムの評価を聞き終えた修一は、彼女のデータを要チェックリストへと放り「次」と声にした。
「では、いいですか?」
次に手を挙げたのはリェータだ。
「データを見る限りだと、神崎紗彩子という人物も要チェックかと」
「あのお嬢さんか」
AD学園の第四校舎でひと悶着あった少女の事を思い出し、オースィニはクスクスと笑う。修一は続けて彼女のデータも拡大した。
「神崎紗彩子、現在十六歳で、八月の誕生日を経て十七歳へと上がる。二年Aクラスに所属する少女だな。学力成績も優秀でパイロット能力も高く、彼女もまた防衛省から声をかけられている」
「多分だけど、コイツと交戦経験はねぇかなぁ」
「映像記録がある」
と、修一はAD学園の交流戦で彼女が行った戦闘を再生し、リェータが映像を見ながら目を細めた。
「やはり」
「どう見る、リェータ」
「ただ一流というだけではありません。機体の制御などをシステムに依存する事なく行う、超実践向きのパイロットです。防衛戦よりも徹底した攻略戦を行う頭脳派でもあると思います」
「どこで判断した」
「戦闘中の即時判断力が高い所です。唯一の欠点としては慢心でしょうか。それに何かの心情か、必ず高火力パックを使用しております。
彼女ならば高機動パックか高速戦パックでの方が好ましいと思いますが、我々としてはそこに付け込めます」
正しい、と。彼女の評価を記した上で、修一は彼女のデータも要チェックリストへと入れた。
「ま、後残る人材としてはやっぱ例のフルフレームに乗ってた奴じゃねぇの? さっきはああ言ったけど、強いっちゃあ強いぜ」
「そうだね、久世良司。現在十八歳で、AD総合学園では三年Aクラス、そして成績もダントツで一番だ。
彼を一番表す言葉としては、やはり『機体特性を生かした堅実な操縦を行う優等生』だろう。先ほどリントヴルムの言った様な、マニュアル通りの綺麗で正しい使い方を行うパイロット。
しかし僕は故に、秋風の全能力を引き出しており、そして彼が用いる上でフルフレームというプラスデータは、彼に最も適したモノと見ている」
要チェックリストへ彼のデータも放り込み、そして彼はスクリーンの電源を落とした。
「やはり概ね意見は一致か。僕も多種多様な意見が欲しかったのでね。助かったよ」
修一はリントヴルムへ視線を向け、彼へ言う。
「回り道をしたが、ここからが今回のブリーフィングだ。
リントヴルム、先ほど君は僕へなんと問うた?」
「オレに何させようってんだ、って聞いたが?」
「そうだね。僕はここにいる五人の先鋭達に達成して貰いたい事がある。けれど、それを説明するには、まだまだ準備が足りない」
「さっきの三人が邪魔って事か?」
リントヴルムは笑いながら尋ねると、彼は「そうだ」と溜める事無く頷いた。




