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過去の遺産-01

プロスパーの作戦指令室に、ダディ――ガントレット大佐と霜山睦一佐が椅子に腰かけ、その隅で彼らを補助するように、遠藤二佐が姿勢を崩す事無く、背筋を伸ばしている。


部屋の来客用ソファに腰かける、オレ達四六組と、神崎と藤堂。


先日、風神と呼ばれる機体が奪取されたと聞いた二人の様子は、明らかにおかしかった。


 睦さんは立って居られぬ程足を震わせ、ダディも表情を真っ青にさせて、頭を抱えるなんて、十四年一緒にいたオレが、見たことの無いダディの姿だった。



「先日は、みっともない所をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」



 まず、睦さんが謝罪する。だが、そこは正直問題ではない。



「私も謝罪しよう。本来であればすぐに君たちへ語らねばならない事であるのに、心がどうにも落ち着かず、一日の時間を有してしまった」


「その風神って機体は、オレや楠の駆る雷神や、雷神プロジェクトと、関係があるのか?」


「その前に、現在の状況と今後についてを話さねばなるまい」



 アーミー隊と四六は、今後も共同でレイスの活動を妨害し、この軍需産業機構に終止符を討つ事が目的である事。


 その為には現状レイスを束ねていると思われる城坂修一を討つ必要があるという事。


 しかし、それは世界各国で活動を続ける新ソ連系テロ組織が存在し、彼らと言う存在がある限り彼はいつでも姿を眩ます事が出来る事を問題としたダディ。


 そして、そんな彼が、唯一奪取に動いた機体が――



「それが風神だ。私はここに、シュウイチの目的があると考えている」


「風神については、私からお話いたします」



 睦が立ち上がり、プロジェクターに数枚の資料データを表示し、説明を開始する。



「風神は、雷神プロジェクトの原案提出後、ガントレット大佐が対案として出した【風神プロジェクト】を体現する機体です。織姫さん、楠さんの雷神と同じような物と思えば宜しいかと思います」


「風神プロジェクトというのは、どんな計画なんですか? 見た所、スペックは雷神と同じっぽいけど」



 手を挙げて質問をしたのは哨だ。彼女は表示されたスペック表を基に、風神をそう評価した。



「簡単に言えば、初期の雷神プロジェクトと同じです。圧倒的火力を有した一機のADが敵を殲滅出来る高機動・高火力を実現する事。核兵器と同じ役割として、所有するだけで抑止力となり得る機体としてプロジェクトが立ち上がりました」


「でもそれなら、雷神プロジェクトの二号機って事でいいじゃないか。つまり――オレや楠の位置にいる、コックピットパーツが問題なんだろ?」


「仰る通りです。雷神プロジェクトのコックピットパーツ……つまり貴方は、生まれる前に遺伝子データを書き換え、肉体や神経細胞の強化を行う事で、強大なGが発生する雷神のコックピット内で最適に作用する兵器として生み出す事が目的でした。


 楠さんはその上で脳内にナノチップコンピュータを埋め込み、雷神のデータリンクシステムと連動する事により、雷神を適切に運用する事が出来ます。


 風神プロジェクトは、遺伝子操作では無いのです。


 生まれる前の遺伝子改造を施すのではなく、生まれた後の肉体を強化する薬物投与によって、身体能力・反射神経を向上させる、言ってしまえばドーピング兵士を生み出すプロジェクトでした」


「それをダディが提案したって事か!?」


「その通りだ。しかし話は途中だ、着席しろ」


「っ、」



 ダディの言葉通り、思わず立ち上がっていた腰を下ろしたオレを確認し、睦さんが続ける。



「この風神プロジェクトには、約百名のテスターがいました。しかし……」


「しかし、どうしたんです?」



 楠が、言葉を止めた睦さんを急かすようにして、言葉を挟む。



「……少なくとも九十九人の死亡が確認されています」


「そこは私が話そう」



 ダディが、口を重くする睦さんに代わり、しっかりとした口調で代わる。



「風神プロジェクトにおいて投与される薬物は、主に肉体の筋力や神経・三半規管を強化するものだが、この薬物を投与されると脳内麻薬の過剰分泌により、意識をトリップさせる。アップ系の麻薬に近い薬物だな」


「何で九十九人も死ぬような計画を」


「雷神プロジェクトでは即効性が無かった。コックピットパーツとなり得る子供が実戦配備できるまでにかかる期間はおおよそ十五年――つまりお前の年になるまで待たねばならなかった」


「けど兵器開発なんてそんなものだろ? 一機の戦闘機開発する期間が十年何てざらにある。人命を奪う結果となり得る計画なんて」


「その通りだ。しかし当時の世界には、そう言った抑止力がすぐに必要だった。理由はわかるか?」


「わからねぇよ、人命を無視してでも進める計画が必要な理由なんて!」


「その人命がどのように今後散っていくか分からない程に、世界は混乱に陥ったからだ」



 藤堂が僅かに表情を曇らせた。コイツはずっと戦場で取材を続けていた戦場カメラマンで、オレ達若造なんかより、よっぽど凄惨な状況を見て来たのだから。



「……歴史の授業をしましょう」



 と、そこで再び睦さんが声を口にする。



「二千五十三年、全世界で発展していくAD兵器。その中で城坂修一様は、AD宣言を行いました。この内容は皆さんご存知ですよね。


 ――『AD兵器は、各国の軍事バランスを崩壊させる程のものである』


 この宣言の後、城坂修一様は国家間AD機密協定・通称【連邦同盟】を正式に取決め、日本・アメリカ・ドイツの三国が中心となり、AD兵器の開発情報及び技術独占を規制する事によって、AD開発自体を規律しました。


しかもこの時、高田重工はパフォーマンスの一環として、現在でもドイツで制式採用されているROT-02G【メルセデス】の製造及び技術提供を行いました」


「結果として、当時は呼び名も無かった新ソ連系テロ組織が次々に組織され、世界各地で紛争が勃発した。世界の警察たる我々米軍も、様々な戦地へと出向いた。


 ……そこで我々は知った。新ソ連系テロ組織は、意図して紛争を起こし、ADに関するデータを収集し、祖国に情報提供を行う事で、連邦同盟に加盟することなく新技術の開発や新機体の設計を行えるように仕向けていた。


 しかしそんな事はどうでもいい――問題は、その紛争によって多くの若者や罪のない人々が死んでいった、その事実だけだ」



藤堂が、今まで自分の取材していた映像データを、プロジェクターで再生した。


……銃弾が飛び交い、戦友の死を哀しみ、憎しみを以て銃を取る人々。


十分後には、その者達もがADの放つ銃弾によって、肉片に変えられる。


授業では決して見せられぬ姿に、全員が沈黙を余儀なくされる。

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