表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/222

兵器足りえるもの-09

それまで、霜山睦は何もしていなかったわけではない。


ひとひらの艦橋で、聖奈や遠藤二佐と共に世界中から得られる情報を吟味し、今回の襲撃に関する有用性を鑑みていたのだ。


「……どう見ます?」


 睦がそう口を開くが、聖奈も遠藤も口を閉じたままだ。


「正直、今回のこの襲撃、全く意味が無いように思えるんです」


『同感だな』


 会話に、ガントレット大佐も割って入った。


『最初のAD十二機による襲撃は、この島では一日に一度ある事だった。だから冷静に、それこそ事務仕事を片付けるかのように処理を行った。


 しかし、後のリントヴルムを含めた、あのアルトアリス型と言ったか? 新型二機による襲撃は、どんな意味があったのだろう』


一番あり得る答えとしては、プロスパーを制圧する事によって、日米共同の補給拠点を潰す事。


しかし、それならば他に幾らでも手はある。


他に動かせる新ソ連系テロ組織は山ほどあるし、いかに最新鋭のADであるとしても、二機で制圧を行うとは思えない。


では牽制か――と考え、世界地図とこれまでに入ってきた新ソ連系テロ組織の動きを照らし合わせても、レイスが動いた形跡はない。


「……ひとまず、監視衛星や諜報部からの情報を待ちましょう。何よりも今は、彼らを労わなければ」


 遠藤の言葉に全員が同意し、睦や遠藤、聖奈やガントレットが、プロスパー港に集まり、今回の功労者達を労った。


「ダディ!」


 僅かに駆け足でこちらへと向かってくる織姫の事を抱きしめたガントレット。


そんな彼らの抱擁を見て、潤んだ瞳で見据える聖奈。


ラダーから降りて来た紗彩子と藤堂を見据え、織姫が手を振ると、彼女は表情を赤くしつつも振り返す。


織姫がガントレットから離れると同時に抱きしめに行く哨が、今日の戦闘についてを愚痴り、それについて平謝りするしかない織姫と、織姫へ抱き着くなと哨を引きはがそうとする楠、そんな彼らの事を笑って見ている良司、梢、康彦、明久……。


笑いがそこにあったが。



『至急、至急』


 緊急連絡を告げるブザーと共に、島全域に鳴り響く音声。


睦とガントレットは顔を上げ、すぐに手元にある通信機を取り、耳に付けた。



『USA-X・UIGに、襲撃有り。繰り返す、USA-X・UIGに、襲撃有り』


 

報告を聞いた二者は、顔を合わせた。


何せ二人とも【USA-X・UIG】等というUIGは、聞いた事も無いのだから。



「説明を要求する。USA-X・UIGとはなんだ。フロリダにあるUSA・UIGの事か?」


 織姫がガントレットの言葉に反応する。


そのUIGこそ、自分の人生を左右させたUIGに他ならないから。


「ダディ?」


 問う織姫、しかしガントレットも、彼の知りたがっている答えを、まだ知らない。



『……打電した内容を、読み上げます』



 基地内の通信手から読み上げられた内容は、以下の通りだった。



『USA-X・UIGに、襲撃有り。敵は正体不明……北緯三十四度、西経六十六度……!? 座標位置は――バミューダ諸島より、200㎞程……』


「内容は正確に!」


 焦るようなガントレットの言葉に、全員にも動揺が走る。


だが――こればかりは、通信手を責めることなど出来ない。


UIGは、アンダー・インダストリ・グラウンド、地底産業都市だ。


しかし、読み上げられた座標は、睦が知る限り、海上。


陸など、あろうはずもないのだ。



『三機の、所属不明ADの襲撃で――当該UIGで最終試験段階にあった新型機を、奪取、とのことです』


「その新型機の型番は!? わからんことが多すぎるっ!」


『えっと……これは、日本の漢字だな。自分が読む限りでは……【風神】と読めますが』



その言葉に、睦が尻もちをつく。


ガクガクと震える足に、何とか喝を入れて立ち上がろうとするも、しかしそれは叶わない。


膝から崩れて、跪くだけだ。



「……通信手、今、風神と言ったか……!?」


『はい、自分も漢字は読みなれませんが、風と神と書き、フウジンかと』


「……なんて事だ……っ!」


 

ガントレットも、頭を抱えて表情を真っ青にさせる。


睦は、何も声を発さず、ただ荒い呼吸を整えようと、必死だった。


聖奈は、そんな二人に「気を確かに!」と叫ぶものの、二者は聞いてなどいない。


遠藤どこかは、何かを察したかのような表情をしていたものの、しかし二人以上の事を口にしない。



そしてその場にいる子供たちは――十分ほど放置された後、自室待機を命じられるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ