兵器足りえるもの-07
「島根、久世先輩、神崎……村上ぃ!?」
リントヴルムと思わしき機体と交戦を開始した島根機、もう一機と交戦を開始した久世先輩のフルフレーム、スタウトより援護射撃を続ける神崎機の続々登場に驚いていたオレが、次に驚いたのは明らかにアイツを狙ってないにも関わらず腹部近くに着弾した村上機にだよ!?
「ちょ、無事か村上!」
『いー、っつ、無事無事!』
呑気な声が聞こえた。どうやら上手く電子系統は外れていたようで、ゆっくりと降下してきた村上の駆る秋風。
今回海上と空戦が主になるだろうとして高機動パックを選択していたらしく、彼は港に秋風を放置、消火班がそれに近づいた。
「ホントに大丈夫かお前!」
「あ、うん。相変わらずの強運でばっちし!」
いや逆。あれ明らかにお前狙ってなかったのにお前に当たったの。
「……ダディ、やっぱりオレ達が」
『だから邪魔だ。そこにいるか避難しろ』
聞く耳持たず、といった所だが、このままではオレの友達が危険になる。ただ従っているだけではダメだと、反論を口にする。
「ダディは雷神プロジェクトの事を何にも分かっていない! 確かに敵を落とす事に向いている機体ではないけれど、何かを守る事が出来る機体だ!」
『何かを守る? おこがましい事を言うな。それは誰かの為に誰かを殺せる者が口にしていい言葉だ』
「そんな世界にしたくなかった、親父の作った機体だ。ダディにだってバカには――!」
『――その父親がレイスの親玉だとしても、お前はそう言えるのか?』
痛い所を付かれる形で問われた言葉。
今まで、考えていなかったわけではない。
むしろ、そうとしか考えられない。
親父は――城坂修一は、レイスの親玉で、明らかにテロを助長させている存在だ。
今までオレやダディは、そんな奴らの掌の上で踊り続けていた。
いや――これからもそうなる。
そして、それを止める手っ取り早い手段は、一つしかない。
『銃を持てぬ、撃てぬお前が、その父親を、殺せるのか?』
ダディの言葉に、何の反論も出来ない。
オレは、ダディの言う通り、武器を持つ事の出来ない、兵器として欠陥品だ。
ダディが、どうしてオレを引き取り、オレを育てたのか、それは分からない。
オレがコックピットパーツとなるべくして生まれた子供だったからなのか?
それとも、幼い子供を育てるつもりだったから?
どちらにせよ、ダディはオレに「戦場にいる時には兵器足りえる者となれ」と教えてこられた。
今のオレは、違う。
誰かを殺す事も出来ない、銃を撃つ事の出来ない半端者が、この場所にいる意味なんて、無いのかもしれない。
「あのー」
そんな、オレとダディの会話に割り込んできたのは、村上だった。
『なんだアキヒサ』
「このままだとあの二人の方が危険でしょ? なんか使える機体――あ」
村上がキョロキョロと格納庫内を探るようにしていた所、一機のポンプ付きが膝をついて待機モードになっている状態で発見した。
「あの、格納庫にある余りのポンプ付き、誰か乗る予定あります? 無いなら俺乗ります」
と、耳元のインカムへ声を吹きかけた。
『それはオリヒメの機体だ。奴に許可を取れ。私からは特に何とも言わん』
「姫、使っていいか?」
許可を求める村上に、オレは首を横に振る。
「ダメだ。そいつはピーキー仕様にしてあるし、お前じゃあのパイロットたちには」
「設定は明宮に仕様変更して貰うし……それに、戦わなきゃ皆を守れないだろ?」
「……自分の命を落としてまで、守る事は無い」
そうだ、きっとダディならこう言うだろう。
今のオレと楠には、敵の命を殺す術がない。
そして村上もまた、今や最新鋭の機体である秋風を堕とされ、そんな状態でオレのポンプ付きに搭乗した所で、また堕とされるだけ。
死にに行く、だけだ。
「そうかな。確かに死ぬのは怖い。それは前、死にかけてわかった。
けど――誰かを守る事に自分の力を信じる事も出来ず、大切な人たちが死んでいく方が、もっともっと辛いと思うんだよ。
この機体が落とされたら素直に避難するから、貸してくれ」
オレの手を――ぎゅっ、と握りしめながら、願うように言う村上の笑顔は、輝いていた。
何時の間にか頷いていたオレの頭を撫でた村上は、哨の手を引いてポンプ付きへと向かっていく。
整備に必要な時間は二分と無いだろう。
そして――オレも覚悟を決めて、通信をダディに入れる。
「ダディ、オレと楠は雷神で出て、村上たちを援護する」
『……』
もはやお前に語る事は無いとでもいうのか?
クソダディ。なら、伝わるまで語るまでだ。
「確かに雷神じゃ敵を殺す事は出来ないよ。そしてオレも、もう自分の腕じゃ、引き金を引けない弱虫になっちまった。
けれど……戦う事を、辞めたくないんだ」
『オリヒメ、PTSDだよ、それは。わかるな?』
何時だったか、眠れない日にダディのベッドで共に寝た夜の事を思い出した。
何時もは厳しいダディも、眠る時にオレが怖い夢を見た時は、優しく諭すような言葉で言ってくれた。
この時も、そんな言葉の柔らかさを持っていた。
……やっぱり、ダディはオレの事を、ただのコックピットパーツなんかに、見てなかったんだな。




