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第一章 城坂織姫-07

「あ、ゴメン。今すぐ退くよ。演習中に悪かった」


『それだけですか? たった今あなたの操縦によって、このグラウンドはとても荒れてしまったというのに』



 カメラを下へ向け、オレが操縦する秋風の付近を確認する。今行った着地の影響で、秋風の付近は砲弾がめり込んだように、荒れ果てている。


 クレーターにも似たグラウンドの凹凸は「うわぁ」と声をあげつつも、気持ち良さまで感じる程だが、やられた側としては気持ちいいものではあるまい。



「悪い、今すぐ直す」


『その間、我々はどこで演習を行えばよいと言うのですか?』


「そんな事言われてもな。すぐやるからちょっと待っててくれ」


『あなたは、なんとも誠意の感じ得ぬ謝罪をするのですね』


「……おい、言いたい事あるならハッキリ言えよ。だから日本人は根暗って言われるんだぞ」



 押し黙る、女の声。数秒の沈黙を経て、再び放たれた声は、怒りを内包した声色だった。



『――貴方、クラスと名を言いなさい』


「城坂織姫。一年Cクラス」


『織姫さん。……はぁ、女子ですか。あなたはもう少し、女性らしい言葉使いを学びなさい。それでも大和撫子ですか?』


「……あ?」



 女子――と言われた事が、非常にムカッと来た。



別にオレの顔を見て、もしくはおふざけでオレを女の子だと言うのは、気持ちのいいものでは無いが、認める事は出来る。間違えられる事はもう数えきれない程経験しているし、自分自身で女顔、おまけに声変わりも来ていないものだから、勘違いされても仕方がないと思う。


しかし、名と声だけ聞き、女と決めつけ、その上「女性らしくあれ」と強要されている今この現状が、酷く癪に障った。



「お前何様だよ。人が下手に出りゃいい気になりやがって」


『そう言う言葉使いと、他人に対しての接し方を直しなさいと言っているのです! 日本女子たるもの、清楚な言動を持つ事が何よりの』


「オレは男なんだよ! 文句あんのか!?」


『何と幼稚な言い訳ですか! 良いですか、私はあなたの為を思って』


「お前も人の話聞けよっ!」



 オレと対面で叫ぶ女の口論はヒートアップ。互いにマニピュレーターを強く握っているからか、声を上げるたびに機体は僅かに揺れている。だがそんな事を気にする暇もない。



「いいから黙って待ってろよ! そんでグラウンド直しゃ、それで終わりじゃねぇか!」


『いいえ! 私は学園の治安を守る者として、あなたの態度を放っておけません! 今から徹底した指導を行います! ハッチをお開けなさい!』



 望む所だと、オレはコックピットハッチを開け放って、肉眼で眼前の秋風を捉えると――その秋風も、コックピットハッチを開いた。


シートベルトを外し、コックピットハッチに身を乗り出した少女は――綺麗な顔立ちを誇る女性だった。



おそらく下せば腰まではあらんかと言わんばかりのロングヘアは、日本人に見えない輝きを放つ煌びやかな金髪で、それを後頭部でひとまとめにしたポニーテール。前髪は真ん中分けをしてピンでとめているから、整った顔立ちも良く見えた。


少しだけ目は細いが、奥で光る蒼眼の瞳と白い肌。おまけに口元はぷっくらと膨らみ、そういった大人びた部分が、俺よりも多少年上だろうかと感じさせた。


パイロットスーツをまとった体はスラリとした日本人体系。目を張る起伏は無いが、少しだけ膨らむ乳房と引き締まった腰回り、臀部や脚部もスッと伸びるようで、外観は髪色と瞳の色を除けば、確かに「大和撫子」と言えるだろう。


彼女は紺色のパイロットスーツ姿を見せびらかしながら、オレの表情を良く観察するようにジロジロと見てくる。それでもって、フンッと鼻で笑った。



「やはり。あなたは立派な女の子です。二度と『男だ』等と、くだらない嘘をつかない事です」


「正真正銘、男だっての……!」



 コックピットに腰かけたままでは、彼女からは機体内部の関係上、首より上しか見えない筈だ。オレもシートベルトを外して、彼女と同じくコックピットハッチに身を乗り出す。制服姿のまま搭乗していたので、男子制服は良く見える事だろう。



「これでもオレが男だって認めねぇってのか!?」


「あなた! なぜ制服で操縦しているのですか!? パイロット科の生徒は操縦の際にパイロットスーツを着る様に義務付けられているでしょう!?」


「そこじゃねぇだろぉ!?」



 こんな感じで、彼女はオレの話を聞かず、ただ睨み、そして罵り合うだけであったが――そこでオレ達が駆る機体の間に割って入る、一台のジープが目に留まった。搭乗者は二人。明宮と村上である。



「織姫君っ、ストップっ、ストーップっ!」



 明宮が叫び、ジープから飛び出すと。彼女は耳元のインカムに声を吹きかけた。



『逆らっちゃダメ! あの人【武兵隊】の隊長さんなの!』



 聞き慣れぬ言葉にオレも首を傾げ、問いかけるように、マイクへ問いを投げかける。



「武兵隊? 何だそれ」


『知らないの!?』


「オレ、今日この学校に転入してきたし」


『武兵隊って言うのは、学園内の治安維持を担当する風紀委員みたいな組織! 全員がAランクパイロットで構成されていて、治安維持を円滑にする為に、学生の範疇を超えた越権行為がある程度可能なの!』


「越権行為って例えば」


『織姫君を退学させる為に学園長に口添えをしたり!』


「何でそんなのを一学生に与えてんだよこの学校……!」


『いいから謝って! 今なら何とかなると思』


「断る」



 インカムを外し、乱雑にそれをコックピット内に放り投げたオレの姿に、明宮は「ああーっ!?」と声を上げていたように見えたが、そんな事は気にしない。



「グラウンドを荒らした事は、オレが悪かった、謝る、グラウンドも直す。だがオレは男で、そこに関しては一歩も譲る気はねぇ。お前がその武兵隊とやらの、お偉い治安維持部隊の隊長さんだってんなら、その辺りきちんと調べて物言いやがれ」


「聞く耳持たない、と言う事ですね」



 痺れを切らしたように、武兵隊とやらの隊長さんは腕を組み、オレに向けて声高らかに叫んだ。



「――ならば、城坂織姫さん。私はあなたに、決闘を申し込みます! その腐った性根を、私が完膚無きまでに叩きのめして差し上げましょう!」


「望むところだ!」


「ちょーっ!? ダメだってば織姫君ーっ! 君はCランクなんでしょー!? あの人Aランクーっ! 敵う筈ないよーっ!」



 何やら下方からそんな声が聞こえるが、無視する事にした。今すぐコックピットに乗り込んで、決闘とやらに挑んでやろうとしたが――



「お待ちなさい!」


「あぁ!? なんだっての!?」


「安全装置は、一つでも欠ければ意味は成しません! パイロットスーツをきちんと着込んで装備を整え、十分後に再び、このグラウンドに来るように!」


「……そこは、きちんとしているんだな」



少しだけ驚きながらも、オレは彼女の言葉に頷いて、機体を格納庫へと戻していった。

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