兵器足りえるもの-04
「よく、ここまでどんな防衛網にも引っかからずに来られたモンだな」
リントヴルムは、コックピット内に用意されていた新型パイロットスーツを着込み、腕部に仕込まれているパックスイッチを押す。
瞬時に肉体とパイロットスーツ内の空気が無くなり、肌に吸い付く形となる事で、その二つの間は真空状態となる。
それだけならば、既存のパイロットスーツと構造は一緒である。
違うのは、アルトアリス型機体の操縦者に最適化されたパイロットスーツである事。
本来のパイロットスーツは、常に一定の衝撃に備えたものであるが、アルトアリス型機体に最適化されたパイロットスーツは、衝撃のタイミングを自動演算し、衝撃のタイミングに合わせて衝撃緩和剤に空気を送り込んで衝撃自体をパイロットへ届けない構造になっているという。
『オースィニの話だと、既存のECMなんか目じゃない位のステルスだって』
「ほぉ、つまり目視さえされなきゃ無敵なステルスモードね。あのシロサカ・シューイチはADの開発者だったんだろ? どこでそンな技術を手に入れたンだ?」
『アタシが知るわけないじゃん。それより』
「アァ、とっくの昔に出撃準備は完了してるぜ。後は嬢ちゃん待ちだ」
『聞いたわね、豚共。後は手筈通り』
『了解』
強襲用AD輸送ヘリに積み込まれていた、試作試験型AD・アルトアリス。
リントヴルムが駆る機体は、その五番機である。
これは設計当初からリントヴルムの搭乗を想定していた機体らしく、OMSの設定もリントヴルムが使用していたディエチからの流用をされている。
機体色は他のアルトアリス型の紺色とは異なり、全てが黒の彩色。
本来はプラスデータ規格を採用していない全アルトアリス型とは違い、五号機は後の量産も考慮してか、プラスデータ規格を採用した事により、ポンプ付きのプラスデータを改造したE-01XF【ハイジェットパック・ドヴァー】という仮称のパックが採用されている。
武装は至ってシンプル。
リントヴルムがディエチ搭乗時に使用していたアサルトライフルと、腕部マニピュレータに搭載された簡易型パイルバンカー、そしてダガーナイフの三つに加え、CIWSが採用されている。
『アンタの実力、見せてみなさいよ』
「――上等だ、チビんなよぉっ!」
二機は降下開始。
目標は――北太平洋上日米共同管轄島【プロスパー】だ。
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強襲を知らせる警報が鳴り響く。
ヴー、ヴー、と。オレには聞き覚えのあるブザーは、周りの技師やADパイロットを含めた全員が背筋を張る。
「ジャック!」
『あいっ!』
近くに居た昔馴染みの技師に声をかけ、彼はそのままポンプ付きのAD部隊へと駆け、現状確認及び装備チェック、出撃を僅か二分以内で終わらせる事に従事する。
現在このプロスパーに配備されているポンプ付きは十機。何と俺が使用してたポンプ付きもあるらしいが、これは数に含まれていない。
これは連邦同盟で規定されている一中隊に配備できるAD総数が六機と定められている事によって、アーミー隊が二中隊を所有している事になっている為に出来る配置である。
その上で、現在【スタウト】に五機のポンプ付きが配備されているので、この基地には稼働できるポンプ付きは五機存在する。
『姫ちゃんっ!』
哨が一番早く動いた。既に雷神は出撃準備を終了させており、後はオレと楠が出撃すれば良いだけだ。
「ダディ!」
『邪魔だ。正規部隊に一任しろ』
舌打ちと共に、しかし現場責任者であるダディの判断に従うしかない。階級としては現在も【ひとひら】に乗艦している睦さんも同等階級ではあるが、専任大佐はダディである。
順次、ポンプ付きが五機、出撃していく。
全員の名を知っている。
デイビット、アラン、メディ、ワイズ、マイケル。
腕は確かだし、そう簡単にテロ屋に後れを取るような面々ではない事は分かっている。
――しかし、妙な胸騒ぎがするのは、何故だろう。
『ッ、――アランっ!』
インカムに入る、僅かな通信。それはふとした勢いで飛び出た言葉だろう。
戦場で仲間に語る言葉は、状況報告だけ。
なのに、名を叫ぶだけで状況報告もされないのでは、状況が掴めない。
『状況を正確に報告せよ』
『っ、こちらアルファスリー、アルファツーがやられた!』
『こちらアルファワン、フォーへの攻撃を確――今、撃墜された。こちらも迎撃へ入る!』
アルファツーはアラン機、アルファフォーはワイズ機だ。
アランは無口な男で、ワイズは前にガールフレンドが出来たと喜んでいた。
関わった時間は短いけれど、確かに彼らと共にいた時間があった。
「ダディ」
『邪魔だと言っている。それより現地報告に乱れが生じている。現状を報告できればしてくれ』
ダディは聞く耳を持っていない。
ならば、と。オレは雷神のコックピットを出て、格納庫から飛び出す。
危険と言われようが、そもそも格納庫内では正確な映像を取得する事も難しい。
戦場であれば、現地判断を行う事が一番最適と踏んだ。
「――最悪だ、ダディ」
『正確な報告を』
「あの動き――あれは絶対にリントヴルムだ」
この時は流石に、ダディも僅かに上ずった声を挙げた事を、インカムを取り付けていた全員が聞いていた事だろう。




