兵器足りえるもの-03
「正解だ。
そもそもイージスシステムとは、一度に識別可能な敵機、敵砲撃、計百二十八を瞬時に把握し、その内最も危険度が高いと識別した十二を優先的に攻撃出来る艦載武器システムだ。
周辺艦艇とデータ・リンクも行える上、性質上レーダー阻害にも強い。
ああ。確かに、この場合はADにも使い道があるな、データ・リンクシステムの一つとして機能出来る」
「しかしADには特出した機動性があります、」
「頭お花畑か、リョウジ? お前はテキストに縛られ過ぎなんだ。確かにお前達のアキカゼなら、イージスシステムによる自動迎撃計算を超えた機動性を発揮する事も、現状は可能だろうよ。しかし、奴さんのX-2はどうだ」
そこで、返す言葉がないという様に、良司が口を紡ぐ。
「……不可能です、サー」
「更にアキカゼも確実に回避可能であるわけでもない。如何に堅牢なT・チタニウム装甲でもトマホークをブチかまされる可能性を抱きたくないだろう」
「トマホークってAD位デカいの?」
「だいたい5.5mだ」
「何だ、ちっちゃいじゃん。秋風の半分」
「それ自体が巨大な爆弾で、正確無比にお前のケツを狙いに来ると思えばいい。どれだけ恐ろしいか分かるだろう」
「アタシのお尻二つに裂けちゃいますね」
「お前程の茶目っ気がオリヒメにあれば、奴はここまで苦労はしなかったろうに」
ハハと笑うガントレットが、のどかの頭を撫でた。
そして紗彩子が、ようやくそこで口を開く。
「――しかし先ほど大佐殿は、陸戦最強と空戦最強はADとした我々の回答に否を付きつけました。この件については」
「サエコも分からんか。ではAD兵器が陸空戦兵器最強等と誰が決めた」
「専門家の間でも、そう言われております」
「実戦を知らん者の言葉だ。そして何より、あのシュウイチの考えが骨身に染みついている。日本の教育システムにどっぷり浸かってる事が分かるようだな。
確かにADという兵器は、一側面に関しては私も素晴らしいと思う」
「一側面?」
「人型である事だ」
「その通りです。人型であるが故に、ADは戦車よりも効率的な足場作りが可能となります」
「それだけか。リョウジはどうだ」
「他にも支援目的の、人型による有用論があります」
「それだけか」
「……自分に思い当たるものは、以上です。サー」
「ノドカはどうだ?」
「人が人らしく兵器を動かせる。それってすごい事じゃん?」
紗彩子と良司がのどかの言葉を聞いて「何を言っているのだ」と感じるも、ガントレットは先ほどと同じく頭を撫で、強く頷いた。
「私もノドカと同意見だ。戦車等の機体と違い、ADは人型であるが故に、人体の構造を持っている。
オリヒメやあのリントヴルムレベルになれば、ADを自分の身体のように動かす事も可能となるだろう。データを見る限り、ノドカも非常に近い傾向に至っているな」
「ではなぜ、それでも尚ADが陸戦最強では無いと?」
「連邦同盟で規制されている一中隊に配備出来るAD数は計六機。六機のADを作るのと同じ予算で、戦車が二十三機運用できるぞ。二十三機もあればデータ・リンクシステムを運用した戦車の活用が可能だ」
「では空戦は」
「日本製のADで空を飛べるのはようやくポンプ付きが限度だ。それ以外のADは、上昇程度が行える滑空用だろう。空戦などと口にするのもおこがましい」
「しかし空中での姿勢制御は」
「更に速度だ。ADはアキカゼの高機動パックで、滑空最高時速375キロ。しかもコックピット構造の関係上二分とこの速度を保てまい。
だが、もう何年も前のポンコツである筈のFG-15の巡航時速は約930キロ。相手をさせられる戦闘機が可哀想だ」
「ですがポンプ付きはどうです。あの機体は戦闘機に代わる新たな抑止力として、FH-26に新たなプラスデータを付け加えた、あなた方アメリカの機体だ」
「リョウジ、誰がそんな事を言った。あれはエースパイロット用にFH-26の改修機として扱う為の新型パックだ。戦闘機のお株を奪うような扱いにはしていない。空戦における戦術上の有効手段として確かに採用はしているが、戦闘機とのドックファイトで使おうとは思わん。
それに、言ってて矛盾に気付かんか? 日本ではその改修をアキカゼに施すとして、高田重工が一機にかける時間はどれほどかかる?」
この言葉に、良司はようやく「なるほど」と頷いた。
彼が用いるフルフレームは、高田重工とAB社による共同開発で、機体の性能自体は好ましい。
だが、改修等は全て高田重工を通さねばならない。
つまり――現場の即時判断が難しいという事だ。
しかも、この問題はフルフレームだけに留まらない。
「私が知っている限りでは十年と聞いたが? 高田重工を連邦同盟に加盟させず、新型機を丸投げするからこう言う事になる。
オリヒメには口酸っぱく教えて来た事だが『最前線で正確無比に稼働するシステム』、それこそが兵器だ。
現場での大掛かりな改修を行えない兵器など確実性が無い。私が日本の防衛装備を担当する大臣であれば、絶対に採用しない。
分かるか、リョウジ、サエコ。お前たちが信じて来た最強というのはあくまで『机上の空論』だ。
ADというシステムには確かな有用性がある、それは認めよう。しかし手放しに全ての状況下で採用するほど、私は愚かであるつもりは無い。
……私が愚かな命令を下す時、部下の命が危険に晒されるのだから」
戦闘が開始される。
彼の言葉通りデータ・リンクシステムの応用によって襲来するADは全て迎撃の後に落され、海の藻屑へと変わっていく。
次に入る通信手からの報告は、敵AD全機の撃墜確認であった。