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再会の時

現地時間、2089年7月24日、1352時。

北太平洋上日米共同管轄島【プロスパー】港。


オレ……城坂織姫は、十キロに満たない孤島の端にある港へ着くと、すぐさま長旅で縮む体を伸ばした。


「……うぷ」


 隣には船酔いで吐きそうになっている村上。


「ADに乗ってる方が遥かに楽なんだけど……」


「船ってやけに酔うよな。オレも初めて乗った時はそんな感じだったよ」


 オレ達四六組は、四六の所有する強襲母艦【ひとひら】に搭乗し、この島までやってきた。


「ふむん、日米での共同作戦を行う際に用いられる島か」


「私たち学生にとっては勉強になる事が多そうですね」


「オレと明宮姉は、OMS設定を行う技師について研修を受ける形になるな」


 久世先輩、明宮梢先輩、清水先輩の三人が手荷物を持ったまま船を降りて、案内係に英語で声をかけた。三人は成績優秀者だから、英語もネイティブにしている。



「楠は、大丈夫か?」


「うん、ひとひらには二回ほど乗船した事あるし、酔いはないかな」


 微笑む妹の姿を見て少々安堵する。昨日まで楠のご乱心と言ったら、正直目をつむっていたい程の痛々しさがあったから。


しかし、無理もない。


今まで死んだと思っていた父親が生きていて、しかも敵となっているというならば、彼女の心に根付いた不信感は消えまい。オレだって混乱したんだから。


「……で、何でお前までいるんだよ、藤堂」


「霜山一佐が許可をくれてな。神崎ちゃんの専属カメラマンだって言ったら」


「神崎の専属?」


「その通りです。私の取材をしたいという事でしたので、邪魔をしない範囲でならば許可しますと」


 神崎も今回の遠征に参加している。彼女も基本雷神プロジェクトの当事者である事も理由だが、彼女は雷神プロジェクトに不参加を表明していた筈だ。


「では四六組、こっちに集合!」


 姉ちゃん……城坂聖奈の声に、ひとひらで運ばれてきた全員が集合し、背筋を伸ばす。藤堂はそんな光景をカメラに収めている。


「ではこれより、あなた方はアメリカ軍の特殊コマンド部隊【アーミー隊】の皆さんと共に、まずは一週間行動を共にして頂きます。


 今から名を呼ばれた者は、所定の係へと声掛けを。


まずは明宮梢、明宮哨、清水康彦の三人は、このドックから続く整備格納庫へ。


神崎紗彩子、島根のどか、村上明久の三人は、同格納庫から隣へと続くADパイロット訓練ルームへ。


そして城坂織姫、城坂楠は、このままここで待機。


以上、質問は?」


全員、無言で返す。


「宜しい。では格納庫組と訓練組は荷物を持ったまま移動、そこで係があなた達の世話を焼いてくれるわ」


 全員が即座に移動を開始する。これから先は本当に米軍式の訓練が待っているので、訓練組は大変かもしれない。


「姉ちゃん、オレと楠は」


「ここで待つって手筈よ。雷神もここで待機」


「ここで?」


 いや、確かにこのドッグから格納庫まではトレーラーで二分もかけずに移動できるので、雷神をここで待機させておく理由もわからないわけでは無いのだが。


――と、そんなオレ達の前に、三人の従者を連れて歩く、一人の大柄な男性が見えた。


「ダディ」



 蓄えた口ひげ、がっしりとした体格、空軍大尉の制服を身にまとった男を見て、オレはいつもの呼称を口にした。



「……では、マッスルパッケージの補充はルートBより即座に」


「こっちのハープーンですが」


「カウレスに一任する」


「ガントレット大佐」


「セイナか、待っていろ。後十五秒で終わる」


 姉ちゃんが率先して敬礼を行いつつ近づくも、ダディは敬礼を返しこそするが、待機を命じる。


そして正しく十五秒で全ての処理を終わらせたダディに向けて、オレは駆け出す。


「ダディ!」


「オリヒメ、話は聞いている。どうしてあの雷神に乗った」


 ダディは、再会のハグを交わす事もなく、ただオレへ問いかけた。


「どうしてダディが雷神プロジェクトを」


「知っている。私も雷神プロジェクトの参加メンバーだったからな」


 初めて聞いた事実だった。


けれど、確かに考えていなかったわけではない。


親父とダディは旧知の仲だ。元々グレムリンの開発にダディが関わったって話も聞いていたし、雷神プロジェクトについて、ダディが知っていてもおかしくはない。けれど、そうすると……。


「じゃあオレの事も」


「知っていたさ。お前がコックピットパーツである事も。しかし、私の知っている雷神プロジェクトは、そんな歪な形では無かった」


「……最前線で正確無比に稼働する兵器システム、それが雷神プロジェクトになる予定だったんだよな」


「私が口酸っぱく言った言葉を覚えているようだな。


 そうだ。雷神プロジェクトも、本来は強大な火力と、それを扱える屈強な遺伝子強化兵士による、核兵器の存在意義に近いものとなる筈だった――だが、それがなんだ。あの機体は」


 搬入されてきた秋風や雷神の姿を見て、ダディはいつものしかめ面を、さらに歪ませた。


親父は、秋風という機体を嫌っていた。


そしてその目は……勿論雷神にも向けられている。


「親父は、城坂修一は、そんな世界を否としたんだよ、ダディ。城坂修一と友人だったなら、それがわかるだろ?」


「分からんよ。私にはわからん。奴が目指した世界は、こんなAD一機を落とすのに莫大な予算をかけねばならぬ欠陥品だったのか?


 もしそうならば、私はどうしてお前を――!」


 言葉の途中だったが。


オレは、ダディの言葉を聞いていて、何かが心の中で砕ける様な感覚を覚えた。


ダディは今……なんと言った?


『私はどうしてお前を』


 確かにこう言った。


つまりダディは……コックピットパーツであるオレに期待して、これまで育ててくれていたのか?


そして、マークへと間違った銃弾の軌跡を経て、オレが戦えなくなったダディは、オレを不要として、AD総合学園で待つ姉ちゃん達へ押し付けたって事か……?


「すまない、忘れてくれ」


 俺の心意を察してか、ダディは言葉の途中でそう言ったが、忘れる事なんかできる筈がない。


 係を一人呼んで、その者にオレと楠を連れて行くように案内するダディを、オレは俯きながら、ただ黙っている事しか、出来なかった。


「オリヒメ、クスノキ、君たちは一度休みなさい。他のメンバーも挨拶が終わり次第、一度部屋へと向かっている筈だ」


「……イエス、サー」


 係の人間に連れられて、オレと楠は部屋に向かう。


その間……オレ達兄妹の間にも、会話はなかった。

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