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城坂織姫・楠 VS 天城幸恵 にて-02

 暴風が、オレ達の雷神と、天城先輩の秋風を覆う。


 銃弾をまき散らし、着弾位置などでオレ達の位置を確認しようとする秋風。


しかし、それは意味などない。


既にオレと楠の駆る雷神は――数百メートル以上上空を飛んでいるのだから――!!


急降下を仕掛ける。位置は秋風の上。接近をセンサーで確認した天城先輩は、脚部キャタピラを稼働させて後ろへと逃げる。


けれど、それも予測済みだ。両足を着くと同時に両手も下し、四本足状態となったまま、強く地面を蹴り上げて再び跳ぶも、今度は上空へとではない。


秋風の後ろ数十メートルの場所へと着地し、着地と同時にスラスターを吹かし、地面を這うように駆け抜ける。


銃弾を放つも、しかしジグザグどころかケモノのような無秩序の軌道に、アサルトライフルの銃口は戸惑いを隠せずにいた。


そもそも――速度が速すぎて、センサーでのロックオンもろくに作用していなければ、目で追える速度でもないから。


――いつの間にか、自分の背後に回っている。


『そんな機体とどう戦えば……っ!』


「普通は無理だよ。だって」


「私達でなければ、脳も内臓もシェイクされて死んでいますからね」


 振り返ってダガーナイフを振り込んだ秋風。しかし既に秋風の左側面を取った雷神は、脇腹に向けて右掌部の掌底を叩き込む。


飛ぶ秋風、駆ける雷神。


電磁誘導装置を使役して着地前に若干衝撃を殺すようにした秋風だったが、その間には既に背後を取り、強く蹴り込む雷神の姿を、捉える事などできまい。


「楠、しっかり口閉じてろよ……っ!?」


「うん……っ!」


 視界がクリア、思考もクリア、何もかも条件が整った状態で――全出力を最大にまで上げる。


右脚部でケツを持ち上げるように蹴り上げた後、素早く二撃、拳を叩き込む。


そして飛んでいく秋風の前まで回り込み、右脚部の回し蹴りで秋風頭部を蹴り飛ばしながら、電磁誘導装置を稼働させて右脚部を起点とした左脚部の振り込み。


これらを、数秒の間で済ませた雷神の動きに。


秋風はついてこれる筈もない。


「……今の動きすら、リントヴルムも島根も、ついてくるんです」


「だから、才能って怖いものだな。天城先輩」


『ええ……本当に、恐ろしい二人』


 今、宙を僅かに舞っていた秋風が、地に落ちた。


判定ブザーが鳴り響き、何が起こったかを理解できずにいた、坂本千鶴が今、状況確認を済ませ、叫ぶ。


『しょ、勝者――城坂織姫・秋沢楠による、雷神ペアですッ!!』


 歓声はまばらだ。


しかし――雷神は確かに勝った。



戦争を体現する基礎の魔物に。


 **


AD学園高等部第四校舎に辿り着いた紗彩子は、一つ一つの教室を物色していた。勿論盗難などが目的ではなく、爆弾探しであるのだが、見つけ損ねれば人の生死にかかわる問題だ。埃一つとて見逃すわけにはいかない。


「……埃と言えば」


 紗彩子は空を見上げた。


埃は上から下に落ちるという言葉を聞いた事があったため、屋上から調べてみようかと、ふと考えついただけの事だった。


調べていた教室を出て、マスターキーで施錠し、屋上へと至る道を歩いている間も、怪しい物が無いか調べていく。


 出入り口手前の階段から四階まで上がったものの、屋上へと繋がる扉は奥側の階段から上るしかない。


廊下を歩き、奥側の階段へと至る道で――一人の女性が立ちふさがっていた。


紗彩子が見た限り、イギリス人。


輝かしい金髪、蒼の瞳、澄み切った白い肌と、何よりイギリス人である祖母に似た雰囲気が、そう感じさせたのだろう。


「やぁ、お嬢さん」


 発音もイギリス英語だった。


「イギリス人、ですか?」


「わかるかい?」


「祖母がイギリス人ですので」


「どこ出身かわかる?」


「ウェールズです」


「ああ、残念だね。私はイングランドだ」


「それより、この校舎は交流戦でも一般客の立ち入りを禁止している区画です。速やかな退去をお願いいたします」


「残念な事に、私も仕事でね。君こそ、この先は立ち入り禁止なんだ。お帰り願いたいが……帰すと帰すで、面倒になりそうだ」


二者は、僅かに視線を細めた。


一歩前に踏み出した紗彩子と。


そんな彼女を止めるように右腕で制そうとする女性。


それが合図だった。


紗彩子は伸ばされた手を叩き、左足を軸に右足を振り込んだが、女性は左手で紗彩子の蹴りを防いだ後、右肘を紗彩子の腹部に突きつけた。


腹部に感じる殴打の痛み。ギッと歯を食いしばり、女性の右手を掴んだ後に、背負い投げで彼女を投げ飛ばそうとするも、逆に紗彩子の手を掴んだ女性は背負い投げで地面に落ちる前に足を着いて衝撃を殺した後、そのまま地面を蹴って紗彩子の首へ足をかけた。


「が――っ、ぅ、!!」


「ごめんね、お嬢さん。私は綺麗な人に目がないのだが、仕事はきっちりこなすタイプなんだ」


紗彩子の意識を落とす為、女性が下腹部と足に力を籠めようとした瞬間。


背後から何者かが、女性の来ているシャツの襟を掴み、投げた。


何が起こっているかわからず、女性は背中から倒れる。


紗彩子もそれと同じく倒れたものの、女性の締め付ける足から逃れ、今必死に肺へ空気を送り込む為、咳き込んでいる。


「ごほっ……、藤堂、さん」


「何かわからねぇけど、逃げるぞ!」


 内緒でついてきていた、藤堂敦だ。彼は紗彩子の手を引いて階段を駆け下りるが、紗彩子は否定的だった。


「待ってください! 彼女を放っておくわけには」


「奴は神崎ちゃんを屋上へ行かせたくなかった様子だった! けれど君たちには何がある!?」


「……秋風があります!」


「そうだ! 格納庫まで走れ!」


 女性が追ってくる気配はない。しかし確かに紗彩子が秋風で向かい、上空から向かえば、彼女が何のために屋上へ行かせたくないとしたかは確認できる。


その為に、第四校舎を抜け出した紗彩子と敦は、先ほど二人別れた格納庫まで駆けるのであった。

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