バトルロワイヤルにて-01
鼻歌が、奏でられていた。
場所はAD学園中等部第一校舎の屋上。そこには一機のAD兵器が横たわっており、コックピットで一人の女性が、奏でているのだ。
イングランドの民謡だ。そして女性も、薄い金髪を背中まで下したイギリス人。
AD兵器は紺色。機体には大型の高出力スラスターが点在し、近接武器以外は存在しない。日
本防衛省の有する秋風と同じく、スラリとした八頭身が印象強く、見る者が見れば、それが日本製のAD兵器でない事は分かっただろう。
しかし機体より放たれる妨害電波が、監視衛星やその他観測機へのジャミングを行い、機体が「そこに無い」と誤認させているので、誰もそこに、所属不明のAD兵器があるなどと、思いもしなかった。
鼻歌が、奏でられていた。
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『えー。これから執り行われるのは、これまでの試合で敗北した生徒たちによる、バトルロワイヤルです。
このバトルロワイヤルに勝利した一機が、準決勝に進出する事が出来るのです』
歓声。
オレと楠は、互いの手を取りながら、雷神のコックピット内で意識を集中させていた。
雷神に搭載されている操縦システムは、通常のOMSより複雑な設計が成されている。
オレだけのマニピュレートでも操縦は可能だが、しかし起動には楠の同乗が必要で、かつ精密な挙動は彼女のバックアップが無ければ、秋風以下の実力しか発揮できない欠陥機であり、最弱の試作品だ。
だが故に――オレと楠の二人が搭乗しさえすれば、最強となり得る傑作機でもある。
「行くぞ、楠」
「はい、城坂さん」
目を開き、周りを見渡す。
雷神を含め、総計七機の機体が、グラウンドに集合していた。
観客は今より行われる戦場への期待に胸を躍らせており、またそれは、オレも同様だった。
『試合――開始!』
坂本千鶴によるコールが放たれた瞬間――三機のADが、土煙を放ちながら飛び立った。
オレと楠の駆る【雷神】
島根のどかの駆る【秋風】・高機動パック。
神崎紗彩子の駆る【秋風】・高火力パック。
オレは高機動パックへ、楠が高火力パックへ視線をやると、言葉が重なった。
『まずは島根!』
電磁誘導装置を稼働させながら、空中で姿勢制御を行い、島根機へ機体を向ける。背後よりロックオンされている警報が流れるものの、そっちは楠に任せる事とする。
空中で行われる、二撃三撃の格闘戦。それによって二機の距離が離れた瞬間、オレの意思に反して機体が急降下を開始。楠が神崎機より放たれる滑腔砲の砲撃を警戒した為だ。
オレの代わりに撃たれようとしていた島根機。しかし引き金を引く前にスラスターを吹かして神崎機へと接近したのどか機が、神崎機の腹部へ重たい右脚部の蹴りを放ち、砲身を逸らす。
砲撃は逸れ、三機はそれぞれ地面に向けて落ちる。
まずオレは着地と同時に、どのクラスに所属する機体か分からないが、目の前にいた秋風を一機蹴り付け、ついでに腹部を殴りつける。それによって内部異常を発生させた秋風が脱落。
島根機も、落下時に一機の高速戦パックの秋風を上空からレーザーサーベルで切り付け、脱落させる。
神崎機は二機の秋風に囲まれていたが、しかし雷神と島根機がこちらに向かっている事を確認するとそれを無視し、滑腔砲の砲身をオレ達の方面へ向け、引き金を引いた。
丁度、四機の真ん中へ放たれた砲撃。当たるまいと島根機と一機、雷神と一機がそれぞれ左右に跳び、オレと島根機が片方ずつを殴り倒した事によって――三機によるバトルロワイヤルへと舞台が切り替わった。
『神崎ちゃん、アタシたちに掃除させるなんて卑怯ーっ』
『残念ながら、私は砲撃戦パックによって動きが鈍重ですので』
「神崎はいい加減高機動パック使えって。お前操縦能力高いんだから」
「城坂さん、お戯れはそこまでです。――やりますよ」
雷神が、身を低くして地面を這うように行動を開始する。
脚部に搭載されたキャタピラを稼働させながら駆け抜け、二機より回り込むよう機体を稼働させると、島根機は地面を蹴り付け、まずは神崎機へと襲い掛かる。
しかし、直線的な動きによって行動が丸わかりだったか、右腕部よるボディブローをひらりと避けた神崎機は、滑腔砲の砲弾を無造作に――
「あっぶねっ!」
無造作に放ったかと思いきや、引き金を引く直前に雷神へと照準を合わせ直し、放った事を直前に知るオレ。楠からのロックオン情報がコンマ二秒遅ければ、機体のどこかに当たっていた事だろう。
『姫ちゃん、覚悟っ!』
「姫ちゃん――言うなぁっ!」
レーザーサーベルの光刃を雷神の腹部に突き刺そうとした鋭い動きに、オレがマニピュレーターを強引に操作。機体をサーベルの軌道より逸らす事に成功し、更に電磁誘導装置を用いた回転宙返りからの、踵落としを決めようとする。
だが、寸での所で島根は秋風の電磁誘導装置を稼働させ、オレの放っている磁場と同様の磁場を放出。互いの機体が反発し合い、雷神は強く吹き飛ばされた。
「く、っ!」
「――!」
空中で受け身を取り、着地。しかし着地の瞬間を狙った滑腔砲の砲弾がすぐに放たれ、そっちは楠に任せた。
砲弾のスピードと砲身より軌道を読み取った楠が、オレの操縦を無視した緊急駆動によって、これも寸でのタイミングで避ける事に成功する。
「サンキュー楠!」
「左ッ!」
「!」
礼を言うのもつかの間、楠の指示から左方に敵在りと読み取ったオレが、脚部キャタピラを用いた後退。島根機がレーザーサーベルを振り込んでいた事を確認すると、そこで動きを一旦止める。




