久世良司 VS 神崎紗彩子 にて-02
「はぁ……はぁ……っ」
『お強いですね。今ので倒せないとは、思いませんでした』
「謙遜を。在学中の生徒がここまでボクを苦しめた事など、片手で数えられる程度だ。誇るといい、神崎紗彩子」
『ええ、誇らせて頂きます。貴方を倒して、ね!』
フルフレームが右手に持っている筈の短剣が一つ、グラウンドに落ちていたので、滑腔砲を構える右手とは逆の左手で掴み、自らの得物とした紗彩子機。
滑腔砲の一撃を天高く舞い上がるフルフレームに向けて放ち、避けられた事を確認すると、全身を包んでいた砲撃戦パック用の追加装甲を全てパージした紗彩子機。
放たれた砲弾を避け切ったフルフレームは、残った左手にある四川を構え、背部スラスターを全力で吹かし、地に向けて駆けた。
地面に着地すると同時に胸部CIWSを乱射して、紗彩子機に威嚇をするも、彼女は軽やかな操縦によって銃弾の雨を躱し続け、四川の一振りを見舞う。
同じ四川同士の鍔迫り合い。ギリギリギリ、と安全装置の擦れ合う音が接触回線により両機体内のスピーカーから流れ、二人の耳を犯していく。
貰った! 紗彩子は、声にならぬ歓喜を心に秘め、フルフレームの腹部に滑腔砲の砲身を零距離で突き付け、引き金を引こうとした――
「神崎紗彩子。君は慢心を捨てろ」
フルフレームは、背部スラスターを再び吹かした。砲身は、風力によって後押しされたフルフレームの装甲から外れ、機体の脇に挟まれた。
そして、背中から地面へ落ちる紗彩子機。
僅かな衝撃に表情を歪ませた紗彩子が見た光景は、自身の持つ砲身を踏みつけながら、左手に持つ刃の一振りを紗彩子機の首筋に押し付ける、フルフレームの姿だった。
「勝負有りだ」
良司の言葉に紗彩子は口を大きく開き、しかしそれが確かな事実である事を認めた所で。
『しょ、勝負有りっ! 勝者、三年Aクラス・久瀬良司!』
自身の部下である坂本千鶴によって勝敗を告げられ、二者の戦いは終了した。
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雷神のコックピットに、オレと楠が腰かけている。
二者の勝負を、楠はただ呆然と眺めていた。
オレはというと、携帯端末で各所から来る連絡を受け取りつつ、指示を下している。
「驚いたか、楠」
「うん。久瀬先輩の動きは納得できるけど、あの女があんなに動けるなんて、思わなかった」
「神崎はオレが今まで見て来たパイロットの中でも、かなりの実力を持ってるぞ。正直戦場の状況次第で、オレも勝てるか分からない」
神崎の弱点は、久瀬先輩が言っていたように慢心がある事だ。自身に絶対の才能があると過信し、相手の土俵で戦おうとする。
彼女が頑なに砲撃戦パックに拘る理由も、自分なりの流儀を持っているからに他ならないのだろう。オレが彼女なら、まず使用するパックは高速戦パックを選択する。
高機動パックでもいいが、高速戦パックの場をかき回す性能なら、彼女の操縦能力があれば如何なる敵も怖くない。
「それより、二つ目の爆弾を梢さんが見つけたぞ。これで残り二十一個」
「残り時間はどっちの方だった?」
「残り四時間の方。六時間の方を見つけたかったけど、贅沢は言ってられないからな」
ちなみに見つけた場所が中等部校舎だった事もあり、爆弾捜索の範囲はAD総合学園島全域に広げた方が良いだろう。
「続いて、島根と天城先輩の対決か――楠、どっちが勝つと思う?」
「そりゃあ島根だよ! あの子が高機動パックを使ったら、お兄ちゃんだって負けちゃうんだから!」
「そうか? オレは天城先輩が勝つと思う。何ならあの店のプリンを賭けてもいい」
「やった! ……でも、天城先輩って確かに強いけど、基礎を極めただけの人みたいけど」
「――それがヤバいんだよ。あの人、その点に関しては化物だぞ」
基礎を疎かにする者は基礎に泣く。それはオレが嫌って程気付かされた、このAD学園での事実だ。
確かに島根は強いんだろう。実際にオレが戦った事は無いものの、彼女の戦闘を見ているだけでも分かる。
しかし彼女には、基礎と言う物が全く身に付いていない。
オレと同じく基礎を放り投げ、感覚だけで機体を動かす事に特化してしまったからこそ、基礎を極めた天城先輩には、勝てない。
「さ、始まるぞ――このAD学園上、オレが一番気になってる勝負がな」




